「アンナチュラル」とは何だったのか? 最終話で描かれたもの、シリーズ全体を振り返る(1/2 ページ)
そして旅は続く。
法医学で“不条理な死”に立ち向かう、石原さとみさん主演の金曜ドラマ「アンナチュラル」(TBS)。先週の3月16日、ついに最終回を迎えました。
第1話から「2018年を代表する傑作です!」と息巻いていたミステリ好きの赤いシャムネコさんによるレビューも、今回でラスト。ミコトとUDIラボの皆が迎えた「旅の終わり」とはどのようなものだったのか、そしてシリーズを通して見えてきた「アンナチュラル」という作品の魅力とは。たっぷり語ってもらいました。※ネタバレあり
赤いシャムネコさん過去記事
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10話「旅の終わり」
10話のミステリ的な面白さはどこにあるのか。犯人も、事件の構造も、動機も分かっているのに、「犯人を逮捕する証拠」だけがどこにあるのか分からないという、ちょっと変わった謎が中心になっています。いわゆる「ホワイダニット」や「ハウダニット」ではない謎が焦点になっているんですね。
しかし、証拠探しは難航します。最後の被害者であるバラバラ殺人の遺体は、溶かされていて証拠が残っていない。9話で殺された遺体を再度調べようにも、遺族に返されて火葬されてしまった。最もいろんな人が頭に思い浮かべるであろう「おさかなボール」も、手に入れた瞬間に失われてしまう……。
想定される証拠を1つずつ完膚なきまでにつぶしていくことで、「もう何も残っていない」と視聴者に強烈に印象付けます。だからこそ浮かび上がってくる「最後の手掛かり」――過去から現在へとつながっている糀谷夕希子さんの遺体の存在が、非常に美しく鮮やかに見えるんですね。
視聴者にとっても登場人物にとっても盲点となっていた「土葬」という意外なカギをきっかけに全てが回収されていき、中堂さんが8話で語ったように「夕希子さんに会って、犯人について聞く」ことができた。科学の進歩により得られた新しい証拠により、法医学者ならではの勝ち方を見せてくれました。作中で神倉さんが「仕事」という言葉を出して烏田検事を批判しましたが、まさにミコトたちは法医学者としての「仕事」で戦ったというわけですね……(目を潤ませる)。
ストーリー的な面白さについても触れさせてください。10話では、「26人の連続殺人の立証」を核にして、1〜9話まで紡がれてきた登場人物の物語を回収していきましたね。六郎くんは、UDIラボのメンバーを裏切っていたことが露呈する。中堂さんも5話から示唆されてきた暴走や狂気が前面に出てきます。捜査もの・推理もののクライマックスと、人間関係のクライマックスが重なっている。非常にうまい演出です。
さらに、これまでの話との呼応も素晴らしいです。例えば3話「予想外の証人」のラスト、ミコト個人は法廷で勝てなかったわけです。それは「逃げるは恥でもないし役に立つ」と言いたくなるような美しい構図でしたが、同時に視聴者は「論破するミコトを見たかった……」というモヤモヤも抱いていたはず。そこに来て10話では、感情論をツールとして利用して完全勝利するミコトの姿を描きました。ここにはもう拍手。
最も脱帽したのは、1話とのつながりですね。中堂さんが記者の宍戸に対して取った行動――「テトロドトキシン」と「エチレングリコール」によって、視聴者が1話のエピソードを頭に思い浮かべる。そこに来ての「米国テネシー州」「ウオーキングできないデッドの国」。1話のやりとりがなければこの真相にたどり着けなかったことを、視聴者にも自然に思い起こさせています。
今回の話をひもといていくと、レギュラーメンバー全員が解決に寄与しているんです。中堂さんからの暴走から始まり、六郎くんは「夕希子さんの父」を手繰り寄せ、東海林が証拠のありかに気付き、神倉さんはUDIラボのメンバーを守りつつ手配をして、ミコトが最後に執刀する。木林さんや刑事2人組、検事や週刊ジャーナル編集部の動きもありました。「誰か1人が欠けてもこのエンディングには到達できなかった」と誰もが思うのは、10話をかけて彼らの関係や一人一人の行動原理をていねいに描いてきているからでしょう。
脚本の野木さんはTwitterで「1話完結に見せかけた連続ドラマです」という趣旨の発言をしていらっしゃいましたが、10話を見れば納得です。一番号泣したのが最後の担当表。1話冒頭でも「うまいキャラ紹介の演出だなー」とシビれていましたが、10話かけて“担当表にネームプレートを貼る”というシーンだけで涙が止まらなくなる。
ただ最初に戻ってきたわけではありません。六郎くんも中堂さんも、一度は完全にUDIから離れようとして、けれど帰ってきた。六郎くんが本当の意味でUDIラボに参加して、1つのチームが完成した――その気持ちよさが映像で表現されていて素晴らしかったです。坂本さんも戻ってきて、しかも中堂さんをスナフキン扱いするようになるのも、個人的にグッとくるポイントでしたね。中堂さんのこれまでの旅は復讐の旅路でしたが、これからはトーベ・ヤンソン的なタッチになるのかな(笑)。
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