「気楽に流し見すればいい」 いろいろ攻めてるアニメ「異世界居酒屋のぶ」の見どころは? 小野監督や三森すずこらに聞いてみた
三森すずこ「ライブ感を味わって」。
異世界を舞台にした飯テロ小説『異世界居酒屋「のぶ」』(宝島社/以下、『のぶ』)を原作としたアニメ「異世界居酒屋〜古都アイテーリアの居酒屋のぶ〜」の配信が4月13日からスタートしました。
小説投稿サイト「小説家になろう」から生まれ、シリーズ累計150万部の人気作となった同作は、正面入口がなぜか異世界へとつながってしまった居酒屋「のぶ」を舞台に、物静かで職人気質な店主兼料理人の矢澤信之(CV.杉田智和さん)と、常に笑顔で細かな気遣いを見せる看板娘の千家しのぶ(CV.三森すずこさん)が振る舞う酒や料理に衛兵や貴族など異世界のさまざまな住人が驚きつつも舌鼓を打ついわゆる“飯テロ”系アニメ。アニメーション制作は「機動戦士ガンダム」「ラブライブ!」などで知られるサンライズ、監督は「働きマン」「遊戯王シリーズ」「戦姫絶唱シンフォギアシリーズ」などを手掛けた小野勝巳さんです。
目を引くのは、製作委員会に飲食店情報サービスサービスの「ぐるなび」が参加していることと、テレビ放送ではなく動画配信先行のスタイルが採られたこと。バンダイチャンネルなど国内の主要動画配信サービスに加え、3月に米Nasdaq市場に上場を果たした中国の動画サービス「bilibili」などでも配信されます。
居酒屋という空間とそこで振る舞われる料理など、海外からすれば“異世界”といえる文化の魅力を国内外に伝えることで日本への興味を喚起しようという戦略も垣間見えますが、それを聞こうと小野監督やプロデューサーの梅崎淳志さん、しのぶを演じる三森さんの下を訪ねると、「真面目! 気楽に流し見すればいいんですよ」と笑う小野監督。ビールを飲みたい気持ちをぐっと抑えながらお話を聞きました。
気楽に見てもらいたい――実写パートを入れた3次元との橋渡しアニメ
―― ついに「異世界居酒屋〜古都アイテーリアの居酒屋のぶ〜」配信ですね。3人が登壇したAnimeJapan 2018のイベントもおでんの湯気が立つような熱気にあふれていました。過去にも「ミスター味っ子」などを手掛けたことがあるとはいえ、飯テロ系ともいえる同作をなぜサンライズが? と不思議な気持ちです。
梅崎 宝島社さんにお声がけしたのは3年前で、小野監督からは「シナリオもうできあがっているけどいつやるの」って言われ続けて(笑)。
僕、「ファイ・ブレイン 〜神のパズル」や「マジきゅんっ!ルネッサンス」などを担当して、サンライズラインアップで“ちょっと変わった作品担当”の自負があります(笑)。僕としてはサンライズのラインアップに「食べ物系」が入るならそれはステキなことだなと思いますし、原作もスピンオフ作品が続々と生まれているように、ゆくゆくはこのジャンルがブランド化するといいなという希望もあります。
小野 サンライズといえばメカのイメージがありますけど、アニメ「異世界居酒屋」もメカ並みに線多いですよね(笑)。
―― 以前、原作の蝉川夏哉さんにインタビューさせていただいたとき、「ビールの汗が重力に引っ張られて落ちるところは見どころ」「1話の見どころはビール」とお話しされていました。一方で、私は漫画や小説にない“音”にも注目しました。
小野 今回、音を文字でたくさん画面に出しているんですが、よく見て頂くと、枝豆の「プチッ」が枝豆になっていたり、ビールの“シュワワワ”も気泡がたってたり。“食べられる文字”みたいなものを目指してやりましたね
―― 今回、「ぐるなび」も製作委員会に入っていますよね。アニメを通じて日本の食文化を訴求したいという狙いがあるのだろうと思いますが、テレビ放送ではなく配信先行なのはインバウンドを意識しているんですか?
梅崎 そうですね。日本の“居酒屋”という空間が海外でも徐々に認知されてきている中、それを知ってもらいたいというのはあります。ぐるなびさんは制作に入る前、海外の人は居酒屋というものをどう見ていて、どんなところを不思議に感じているのかなどをレポートとしてまとめてくださったり、「私たちが何かできることはないか」と製作委員会にすごく気を遣っていただいて、とても良好にお付き合いさせてもらってます。
―― そうなんですね。今作は「のぶ+(プラス)」として、作品に登場する料理を料理研究家のきじまりゅうたさんがオリジナルレシピで紹介する「創作のぶ料理」や、なぎら健壱さんが居酒屋を訪ね歩く「なぎら健壱の『のぶ居酒屋』をさがして」など、アニメとは別に実写パートがあるのが驚きでした。
梅崎 イメージとしては2次元から2.5次元をへて3次元というか、アニメを見て「食べたい」とわき上がった衝動を「のぶプラス」で高めてもらい、実際に食べに行くような気持ちになってもらえたらいいなという狙いです。基本的には気楽に見てもらいたいので、小野監督にもいかに気楽に見てもらえるかという点に神経を使っていただきました。
―― 「のぶプラス」も小野監督によるものですか?
小野 いえ。僕、実写パートを見ていなかったのでそれも含めて見るのが楽しみなんです。僕もこれ見たら食べに行っちゃうだろうなと思うし、みんながそうなるといいなと。
構えて見なくていいんですよ。僕自身、仕事しながらいわゆる飯テロ系のテレビドラマを流しっぱなしにしていてふと「これ食べたい」とか思ったりするんですが、この作品もそんな感じです。
基本的にはどの話からでも見られるコメディーにしたくて、異世界の人が居酒屋メニューにどんなリアクションをするのかに重きを置いて作りました。もちろん真面目に見てほしいという気持ちもありますけど、配信だから何回でも見られますし、気楽に流し見してもらって共感するところがあれば食べに行きたくなればすごくいいなと思います。
食欲全開のアフレコ現場 三森すずこの「女将道」
―― 三森さんは杉田智和さんとの共演は久々ですよね。
三森 はい、すごく久々。杉田さん、すごくシャイで休憩中にお話ししたりすることも今のところないんですけど、それが無口なタイショーのイメージとしてしっくりきてます。
―― 三森さんから見て“千家しのぶ”はどんな人ですか?
三森 タイショーがすごく無口なので、しのぶがお店のムードメーカーというか、お客さんが求めているものを冷静にみてベストなものを出す細かやかな気遣いができる人。後、すごく母性もあって。居酒屋に来た疲れた人たちがほっとできる空間を提供する人だなと思いました。
―― 母性。お酒好きの成人ヒロインってアニメキャラとしてはエッジが効いていますよね。
三森 そうですね。お酒が絡んでくるとちょっと不思議なキャラクターになるというか、清純キャラって難しいと思うんですけど、この作品については女将(おかみ)のような気持ちになりました。
この作品はアフレコの時点で絵が完全にできあがっていて、毎回ゲストとなるお客さんがいらっしゃるんですが、皆さん、その回で登場した料理を「食べたい」って言いながら帰っていかれるんですよ。いつも大体お昼前の収録で、私たちも「ほんっとにおなかがすくよね〜」って食欲全開でした。
小野 しのぶちゃんは食いしん坊ですからね。まかないのチキン南蛮を絶対人に譲らなかったり(笑)。
三森 そういうかわいらしさと女将(おかみ)的な母性。お客さんに対して近づきすぎず遠すぎずという絶妙な距離感が「プロだな」と思いました。後は、異世界の人は日本の居酒屋メニューに詳しくないので、日本人なら知っていて当たり前なことを丁寧に説明するというのが初めてで新鮮でしたね。
―― なるほど。ちなみに、皆さんがソウルフードと感じるものって何でしょう?
梅崎 魚料理ですね。塩焼き、煮物、刺身と素材の味そのものを味わえる。塩焼きに大根おろしとか最高じゃないですか。
小野 僕は豆腐が大好きです。大豆ってすごいじゃないですか。枝豆にもなるし豆腐にもみそにも厚揚げになるし。中でも水炊きの湯豆腐のよさ、知ってもらいたいな〜。
三森 私はお米です。ほとんど毎朝お茶漬け食べるくらいなので。居酒屋で終盤の要であるところの「塩むすび」なんかもう絶対食べたくなるじゃないですか! かめばかむほど甘みが出てくるお米のよさをぜひ知ってほしいです。
―― ところで、三森さんは居酒屋には行かれたりしますか?
三森 居酒屋も、最近は焼き鳥屋にも行きますね。お酒はそれほど飲みませんけど、飲む人に付き合うのは全然苦じゃなくて。
私、お酒を飲むより食べることが好きで、死ぬまでにあと何回食べられるんだろうとか考えると、一食一食を大事したいなと最近はよく思いますね。「このおでんの大根味が染みてておいしいな」とか感じながら食べる方が幸せですよね。
―― 急に山田風太郎さんの『あと千回の晩飯』みたいな話になってきましたね。もし三森さんが実際に居酒屋の看板娘だとして、やってきた外国人に何か出すとしたら?
三森 居酒屋のメニューはヘルシーなものからいろいろありますけど、外国人の方はパンチのあるものが好きかなということで“牛スジの煮込み”とか。「これがおいしいんですよ!」っていうのを知ってもらいたいです。
―― ありがとうございます。最後に、三森さんから今作の視聴者に向けてメッセージを。
三森 本当におなかがすくアニメなので、ここはぜひ作中に登場する料理を手元に置いてもらって、アニメを見ながら居酒屋のぶに来たお客さんと一緒に食べながら「あぁぁー」となるシーンを体感してほしいです。ライブ感を味わってもらえたらいいなと。
―― まさかのライブ感追求アニメ。ありがとうございました。
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