高度なAIの前で人間は「責任」を取れるのか? 「自動運転車による死亡事故」が投げかけるもの(1/3 ページ)

法律でも、倫理でもないもの。

» 2018年05月27日 11時00分 公開
[杉本吏ねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

『AIの遺電子』 (C)山田胡瓜(秋田書店)2015

 2018年3月、米テスラ・モーターズの自動運転車が衝突事故を起こし、ドライバーが死亡した。テスラは、オートパイロットと呼ばれる半自動運転機能での走行中、ドライバーが数度の警告を無視してハンドルを握らなかったことが事故の直接の原因だと主張している。

 今回の一件に限らず、自動運転車による事故では常にその「責任の所在」が議論される。責任はドライバーにあるのか、自動車メーカーにあるのか、いずれでもないのか。あるとしたらその比率はどのように判断・決定されるべきなのか。

 この問題に関して、AIが社会のインフラとなった未来を描いたSF漫画『AIの遺電子』がテーマとして扱っているので紹介したい。掲載紙である『週刊少年チャンピオン』の2017年6月1日号、つまり今から約1年前に発表された作品だ(単行本7巻収録)。

※記事中の作品画像については著者・出版社の許可を得て使用しています。



 母と子を乗せた自動運転車が人身事故を起こす。この時代の自動運転AIはメーカーや世代ごとに「個性」があり、それぞれに事故を防ぐための判断や行動も異なる。メーカーは事故を起こしたAIを「抹消」することで、事態の収束をはかろうとする。




 『何にせよ乗客が責められることはないです 事故を起こしたAIを除籍して終わりでしょう』

 『AIの多様性やパーソナリティをブランド化してAIそのものに責任を課すのは 人間のリスク回避の知恵なのさ』


 しかし、母親は事故の瞬間に、自分と自分の子が犯したある“失敗”(とも言えないほど小さな判断ミス)を悔いている。



 『AIさん もう会えないの……?』

 『ツバサくん 僕は事故を起こしてしまった』

 『みんなが安心して暮らすために 僕はいなくならなければ』




 囲碁や将棋など限られた盤面、ルールの中で行われる判断とは異なり、自動車の運転のような複雑な状況判断が絡む振る舞いには、唯一絶対の正解はない。

 現在は、(少なくとも建前上は)「人間の運転をAIがサポートする」という構図だが、段階を踏んで徐々に「AIの運転を人間がサポートする」「人間の介入がない方が安全性が高くなる」と進んでいくのは既定路線と言ってもいいだろう。そうなったときに、人間に責任を求めることは難しくなる。

 だが、いかに責任を問われなかろうと、人の心のうちには“引っ掛かるもの”が残る。「あるAIの結末」は、法律上の問題でもなく、倫理上の問題というには少し大げさかもしれない――けれど決して無視できない側面を、丁寧にすくいとって描いている。


特別掲載:『AIの遺電子』第76話 「あるAIの結末」





       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/25/news016.jpg 「電車の中で見ちゃダメ」「笑ったww」 実家からLINE「子ヤギがすばしっこくて捕まらない」→送られてきた衝撃姿が320万表示!
  2. /nl/articles/2404/23/news090.jpg 誰も教えてくれなかった“裁縫の裏ワザ”が目からウロコ 200万再生のライフハックに「画期的」と称賛【海外】
  3. /nl/articles/2404/21/news011.jpg 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  4. /nl/articles/2404/25/news043.jpg 娘の給食の献立表を見たら…… 正体不明の“謎の料理名”が「これはわからんw」と話題に その意外な正体に納得!
  5. /nl/articles/2404/25/news129.jpg プロ野球チップスでまた“不良品”流出 伊藤大海「176m」表記に続き…… カルビー謝罪「深くお詫び」
  6. /nl/articles/2404/24/news018.jpg 1年半ケージに引きこもっていたシャーシャー猫が、ある夜布団に入ってきて…… 感涙の行動に「まるで別猫」「こんな日が来るなんて」
  7. /nl/articles/2404/24/news017.jpg メルカリで300円の紙モノセットを買ってみたら…… 出品者のあたたかな心遣いに「利益は考えていないんでしょうね」「見ててわくわくします」
  8. /nl/articles/2404/23/news185.jpg 子どもに高級キーボードのパーツを捨てられた → 公式の“先読みしすぎた対応”が話題「そういうこともあろうかと」
  9. /nl/articles/2401/18/news015.jpg 巨大深海魚のぶっとい毒針に刺され5時間後、体がとんでもないことに…… 衝撃の経過報告に「死なないで」
  10. /nl/articles/2404/22/news124.jpg ダイソー「マルチ万能ほうき」が家事ラクの救世主 名前負け知らずの便利さに「これやばっ!!」「220円に驚き」の声
先週の総合アクセスTOP10
  1. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  2. 富山県警のX投稿に登場の女性白バイ隊員に過去一注目集まる「可愛い過ぎて、取締り情報が入ってこない」
  3. 2カ月赤ちゃん、おばあちゃんに少々強引な寝かしつけをされると…… コントのようなオチに「爆笑!」「可愛すぎて無事昇天」
  4. 異世界転生したローソン出現 ラスボスに挑む前のショップみたいで「合成かと思った」「日本にあるんだ」
  5. 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  6. 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  7. 1歳赤ちゃん、寝る時間に現れないと思ったら…… 思わぬお仲間連れとご紹介が「めっちゃくちゃ可愛い」と220万再生
  8. 業務スーパーで買ったアサリに豆乳を与えて育てたら…… 数日後の摩訶不思議な変化に「面白い」「ちゃんと豆乳を食べてた?」
  9. 祖母から継いだ築80年の古家で「謎の箱」を発見→開けてみると…… 驚きの中身に「うわー!スゴッ」「かなり高価だと思いますよ!」
  10. 「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」