「台本がなかったので全部が全部一生懸命」――「万引き家族」で話題の子役・城桧吏がのぞかせた“素顔”
「自分の中では祥太になりきる、演じきるというのが一番大切」
5月に開催された第71回カンヌ国際映画祭で最高賞に当たるパルムドールを受賞した是枝裕和監督の映画「万引き家族」(公開中)。日本映画では1997年の今村昌平監督作「うなぎ」以来21年ぶり、日本人監督では史上4人目の受賞となる。
1995年の「幻の光」で映画監督デビューする前はテレビのドキュメンタリー番組の製作に従事した是枝監督。過去の劇場作品でも、社会への違和感に対する普遍的な問いかけを根底に持つものが多く、「万引き家族」では、親が死亡していたことを隠して家族が年金を不正に受給していた年金詐欺事件に着想を得たことが明かされている。
同作で描かれるのは、高層マンションが立ち並ぶ中、時代に取り残されたあばら屋のような平屋で暮らす柴田家の物語。父・治(リリー・フランキー)と妻の信代(安藤サクラ)、息子の祥太(城桧吏)、信代の妹でJK見学店で働く亜紀(松岡茉優)、祖母の初枝(樹木希林)は、初枝の年金を当てにし、足りないものを万引きで補いながら生きている。望んだわけでもなくかといって抜け出せない社会の瀬戸際にいるような存在は、今回のカンヌ国際映画祭で頻出したキーワードを借りれば“インビジブルピープル(社会から忘れ去れられた見えない存在)”である。
紛れもなく現代の日本社会の一側面で、ともすればその社会からもこぼれ落ちてしまうような彼らなりの“家族のつながり”が、とある事件によって急展開を迎えていく同作。キャストそれぞれの熱演がそのディティールを浮き上がらせているが、ここでは、祥太を演じた城桧吏さんにスポットを当てたい。
物語は治との鮮やかな連携プレーを見せながら街角のスーパーで万引きする祥太のまなざしで幕を開ける。一言で言えば小学校に通わせてもらえない万引き少年が、その年代だからこその視点で目の前の現実をとらえ、考え、そして成長していく。以下では、11歳らしからぬ演技力でそれらを演じてみせた城さんに話を聞いた。
―― パルムドール受賞おめでとうございます。カンヌ国際映画祭はいかがでした?
城 すごく拍手喝采で、周りの人も「すごい」と言ってくれているようで、ちょっとウルッときて、この作品に出させてもらって良かったなと思いました。
レッドカーペットを歩くのはとても緊張しました。いつかレッドカーペットを歩きたいという夢があったので、それがかなってうれしかったです。
―― 城さんは自身が演じた祥太はどんな男の子だと思いますか?
城 最初は何も思うことなく普通に万引きをやっていたんですけど、駄菓子屋“やまとや”の店主(柄本明)から「妹にはさせんなよ」と言われててからは「万引きは本当は駄目なんじゃないか」と気付きはじめる男の子です。
―― 妹というのは、近隣の団地の廊下で震えていて家に連れて帰る幼女・ゆり(佐々木みゆ)ですね。聞くところによると、撮影現場でもみゆさんとは劇中と同じような仲の良さだったそうですね。
城 はい。休憩中はかくれんぼや鬼ごっこをしてました。みゆちゃんが一番好きだったのはキラキラしたものとかを探す“宝探しゲーム”でした。撮影現場は本当に明るくて居心地よかったです。特に安藤(サクラ)さんは面白い歌や話で笑わせたりして現場の空気を作ってくれていました。
―― 是枝監督は子役には台本を渡さず、いわゆる口立て(くちだて)で演出するスタイルを採られますよね。城さんは「僕だけがいない街」「となりの怪物くん」にも出演されていますけど、「万引き家族」でこれまでとは違うと思うことはありましたか?
城 初めてのやり方でしたが、やりやすかったです。その方が自然にできるので。例えば劇中にはお父さんがマジックを見せてくれて驚くシーンがあるんですけど、台本があったら「マジックを見て驚く」みたいに書かれていると思うんです。そうじゃなかったので「すごい」って心から驚けたと思います。
―― 撮影で大変なことはありました?
城 大変だったのは冒頭のスーパーでの万引きです。リュックサックになかなか商品が入らなくて。でも最後は百発百中になりました(笑)。
―― 是枝監督は帰国後の会見で、城さんについて「普段は天真らんまん、むしろ幼いのに映像を通すと色っぽい」などと話す一方で、「周りをよく観察してカット割りを先読みする」ともお話しされていました。
城 テレビドラマなどを見ていると、「ここから撮っているんだな」と思うことがあって。今回は台本がなかったんですけど、撮影が後半になると物語の内容が自分の中でも少しずつ分かってきて整理できたので、次はどこからどう撮るのかなと考えながら演技しました。
―― 城さんにとって「演じる」とはどういうことだと考えていますか?
城 自分の中では祥太になりきる、演じきるというのが一番大切なんだと思いました。是枝監督からもそう言われていたので。台本がなかったので全部が全部一生懸命でした。
―― ちなみに、劇中で城さんが印象に残っているシーンは?
城 魚釣りのシーンと、バスの停留所のシーンが印象的です。
―― 劇中、コロッケをラーメンに浸して食べるシーンがありますよね。なかなか衝撃的だったのでは? 普段の城さんとのギャップがあるのかどうかが気になります。
城 僕は普段スンドゥブなどからいものが好きです。ラーメンにコロッケを浸すやつは最初はこういう食べ方もあるのかと驚いたんですけど、食べてみるとアリだなって(笑)。普段は弟や学校の友達と遊んだり家でゴロゴロしたりしてます。
―― かわいい(笑)。憧れや尊敬を感じる人はいますか?
城 リリー(・フランキー)さんです。この作品で一緒に演技をさせていただいたんですけど、カメラが回っていないときもいつも優しく接してくれて。でも撮影となると気持ちをパッと切り替えてすごく演技もうまくて。こんなに優しくて演技のうまい俳優さんに自分もなりたいと思いました。
―― そうなんですね。樹木希林さんはいかがでしたか?
城 樹木さんはあまりお話しする機会がなかったんですけど、オーラが違うというか、とびっきり演技がうまくて、こんなおばあちゃんがいたらうれしいなという感じでした。
―― 城さんは7人組ユニット「スタメンKiDS」としても活動していますよね。
城 はい。スタメンKiDSでは、歌とダンスの練習をしてライブに出演しています。演技のお仕事もスタメンKiDSもどちらも楽しいです。
―― 先ほど、いつかレッドカーペットを歩きたいという夢が早々にかなってしまったとお話しされましたけど、今の夢は?
城 アクションやホラーをやってみたいです。アクションならワイヤーアクションを。「万引き家族」のスタッフさんに、「進撃の巨人」の実写版の制作に携わっていた方がいて、ワイヤーを使った立体機動の話だったり、巨人の話などをいろいろ教えてくれて、そこからやってみたいと思うようになりました。
―― ありがとうございます。受け答えが大人で驚きました。最後に、ナチュラルにファンへのメッセージをいただきたいです。
城 これからも応援してくださーいっ!
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初めてのカンヌ映画祭を阿部寛さんは「夢のような体験」と表現。
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