「昔々、マジで信じられないことがあったんだけど聞いてくれる?」かぐや姫や乙姫たちは本当は何を考えていたのか『日本のヤバい女の子』(1/2 ページ)
「変身とヤバい女の子(清姫)」を出張掲載。
4年も前の出来事なのに、まだ根に持っていることがある。飲み会の席で知り合った男性に「最近どうよ?」という雑なフリをされ、「『ベイマックス』が最高すぎて字幕版と吹き替え版の両方を映画館で見ました、あと『ユリ熊嵐』というアニメも気になってますね」と返したら、「メンヘラじゃん(笑)」と診断されたのだ。
その男性は「付き合う女の子が全員メンヘラで困ってしまうんですよ」とやれやれ顔で話す自称“メンヘラメーカー”だった。しかしそれは本当に「全員メンヘラ」だったんだろうか?
彼の診断パワーにかかれば『ベイマックス』と『ユリ熊嵐』を好きなだけのフツーの女がメンヘラになってしまう。ちょっと変わった子、ちょっと嫉妬深い子、ちょっと彼とは違う趣味を持った子が、みんな「メンヘラ」という枠に入れられてしまっていただけなんじゃないだろうか。
はらだ有彩さんの『日本のヤバい女の子』を読んで、そのイライラがよみがえってきた。この本は、日本の昔話に登場する女の子――『竹取物語』のかぐや姫、浦島太郎伝説の乙姫、『馬娘婚姻譚』のオシラサマなどなど――を紹介するエッセイ。ただしその取り上げ方は「ヤバい(悪口)」ではなく、「ヤバい(誉め言葉)」。
はらださんは「はじめに」でこう宣言する。「彼女たちの『役割』を取り払い、素顔を覗きこんだとき、そこにいるのは私たちと変わらない1人の女の子――血の通った1人の人間なのではないでしょうか」「決められたストーリーから抜け出した彼女たちと、友達と喫茶店でコーヒーを飲む時のように話し込みたい。『あの時』考えていたことを教えてほしい」。
例えば『堤中納言物語』の虫愛づる姫君。先行研究では「幼虫を愛でるのは成長したくないという気持ちの表れ」「こんなに異常な振る舞いをしたからには確固たる考えがあるはず。なのに行動が一貫していない。破綻がある」と言われているらしい。はらださんはそれにちょっとヘコんだあと、彼女のことを「好きな勉強をして好きな格好をする1人の女の子」と断言する。
私は大学時代、日本文学を学んでいた。勉強熱心な学生ではなかったけれど、記憶に残っている授業はいくつかある。『平家物語』精読の授業で巴御前と静御前のエピソードに差し掛かったとき、おじさん先生がポツリと言った。「『平家物語』に出てくる女性は面白みがない。この物語を受容していた武士の男性にとって都合のいい女性像なんですよね」。特定の読者のために作られた物語の中に、個性豊かな「ヤバい女の子」はいない。
逆に言えば、貴族社会の女性たちが熱中した『源氏物語』では、バラエティに富んだ女性たちが登場する。最もヤバさの極致にあるのは、光源氏への思いを募らせるあまりに生霊になり、源氏の愛する女を取り殺してしまう六条御息所。末摘花や空蝉もイケている。悪い意味でヤバい行動を繰り返す男たちに翻弄されながらも貴族社会で生き抜く女たちの姿を見て、当時の女性たちはガールズトークに花を咲かせたことだろう。
話を「メンヘラじゃん(笑)」認定にちょっとだけ戻す。後日、他の友人から「(自称メンヘラメーカー)さん、『青柳さんってすごいメンヘラだね(笑)』って話してたよ〜」と報告を受けた。しかし私は私で、メンヘラ認定話を女性だらけの飲み会に持ち込み、散々相手の男の悪口を言ってもらってスッとしていた。
日本の昔話の多くは、いわばボーイズトークだ。特定の層に位置する男性読者が楽しんで読み、「この女、ヤバくない?」「この男ももっとうまくやれよ〜」と言い合う。その中では、「なんかこいつらのノリについていけないなあ……」と思いながら、話を合わせていた人もいたかもしれない。
そのトークは何百年も残っていて、もう変わることはない。でもそうした物語を現代のガールズトークで語り直せば、昔話の女の子たちも、ちょっぴりスッキリしてくれるんじゃないだろうか。
出張掲載:変身とヤバい女の子――清姫(『日本のヤバい女の子』より)
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