インタビュー
» 2018年06月17日 11時00分 公開

ドラクエやモンハンの世界をどう訳す? 「教会の十字架の形まで変える」ゲーム翻訳の奥深き世界 (3/4)

[朝井麻由美,ねとらぼ]

 ガンダムのゲームを担当したときは、悩んだ結果、最終的にはクライアントさんから「This is Amuro, Let's do it!」でいきましょう、と言われて。でも、これはアニメ用として海外向けにローカライズされた例といえます。

依田:「Let's do it!」だと「さあ! 行こう!」という感じなんですよね。

アルト:アムロは本当は戦うことに抵抗がある人だから、「Let's do it!」(さあ! 行こう!)だとちょっと元気すぎるんですよ。「Let's do it!」は、本人が「イエーイ!」という気持ちで「行きます!」と思っているときの言葉ですから。でも、この心情を完璧に表す英語は存在しません。それに、アムロは主人公です。海外ユーザーの耳にも決めゼリフが残るようにそうローカライズされました。

――そういうの、両方の言葉が分かる人からすると、もどかしいですよね。

アルト:僕たちは関わっていない作品ですが、『NARUTO』の主人公(うずまきナルト)が使う「〜だってばよ」をどう表現するかも難しかったみたいです。結局「〜, believe it!」が使われていますが、これも日本語も英語も分かる人からすると少し違和感がありますね。

――そのあたりの違和感の落としどころって、どういう判断で決まることが多いのでしょうか?

アルト:最終的には、その作品に触れる海外の人たちにとって違和感がないものを優先しますね。その作品が“母国語で書かれたように”見せるのが目的なので、日本的なフレーバーを意識しすぎた結果、海外の消費者が受け入れがたくなったら本末転倒です。


翻訳はリアルではなく、あくまでもリアル風

依田:結局、リアルを追求しすぎてしまうと、伝わらなくなってしまうんですよね。あくまでもリアル“風”じゃなければいけません。

 ドラクエ8なんかはその典型例でした。作品の世界観がヨーロッパっぽいので、イギリス英語にしよう、という話になったんです。でも、届けるユーザーはアメリカ人だから、完全にイギリス英語にすると通じなくなっちゃうんですよ。

――めちゃくちゃ素人質問でお恥ずかしいですが、アメリカ英語とイギリス英語って通じなくなるほど違うんですね。

アルト:全然違うんですよ。制作中によく、「すみませーん、英語なのに、分かりませーん」って言ってました(笑)。

依田:そもそも私たちがチームに入ったのは、アルトがアメリカ人だから、アルトが違和感なく理解できるバランスでの“イギリス風”のアメリカ英語を作りたい、という話だったんですよね。

アルト:映画なんかでも、アメリカ人に伝わるイギリス風英語を喋ってる作品はあります。

依田:本物じゃないけど、ちゃんと本物っぽくしなければならないのが難しいところです。また、ドラクエ8のヤンガスというキャラクターには、ロンドンの下町訛りの「コックニー英語」を使わせているのですが、これも完全にコックニーにしてしまうとさっぱり分からないので、多少フレーバーを入れ込む程度にしました。



翻訳時に注意すべき宗教とセクシャル問題

――ドラクエ8のような大作って、翻訳にどれくらいかかるのでしょうか?

依田:翻訳自体は確か9カ月くらいで、準備期間含めたトータルだと1年はかかったと思います。最初の1カ月はまずゲームをしてくださいって言われました。日本語版のゲーム内のテキストを全て読むのが目的だから、死なないモードみたいな特別なデータをもらってプレイします。

――HPが0にならないようになっている、開発用のデータでしょうか?

依田:そうです。HPが0になっても死ななかったり、お金が最初から大量にあったり。

アルト:そういうモードでプレイしないとものすごく時間がかかってしまいますからね。各シーンでの、全ての分岐を見なければならないので。

――「はい」と答えると先に進めるところを、わざと「いいえ」と答えるとかですよね。

依田:そうそう。その過程で、配慮しなければならない部分があるかどうかもチェックします。例えば、ほとんどのドラクエシリーズでは、セーブや復活を教会ですることになっていますが、海外に向けて売り出すにあたってこれはそのままだとダメなんです。

アルト:ゲーム内でキリスト教だと明言されているわけではないですが、十字架のモチーフが使われていることから、そう捉えられてしまう可能性があるのです。ドラクエシリーズの制作者さんも、キリスト教にしたかったわけではなく、ヨーロッパ的な雰囲気を出したかっただけだと思うので、十字架を三つ又のフォークのようなデザイン(トライデント)に変えるなどしました。

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