新たな一歩を踏み出すポケモン映画――史上初、監督のバトンを渡された矢嶋哲生は何を受け継ぎ変えていくのか
第21作目では湯山邦彦さんに代わって矢嶋哲生さんが監督を務めます。
テレビアニメ「ポケットモンスター」シリーズの劇場版第21作目となる「劇場版ポケットモンスター みんなの物語」が7月13日(金)から公開されます。
今作では、シリーズ開始以来20年間監督を務めてきた湯山邦彦さんに代わり、テレビアニメ「ポケットモンスター XY」の監督を務めた矢嶋哲生さんが本作の監督に就任。また、アニメーションを制作していたOLMがアニメ「進撃の巨人」などで知られるWIT STUDIOとタッグを組むなど、これまでとは違う体制も話題を呼んでいます。
新たな一歩を踏み出したポケモン映画シリーズがどんな作品に仕上がるのか往年のファンも期待を寄せる中、矢嶋監督に“新しいポケモン”にかける思いを聞きました。
矢嶋哲生とポケモンの関係
―― 今作では映画「ポケットモンスター」シリーズで、これまで監督を務めてきた湯山邦彦さんから代わり、新監督となりましたね。もともとポケモンはご覧になっていましたか?
矢嶋哲生(以下、矢嶋) 実を言うと、そんなに見てなかったです(笑)。僕、小さいころに柔道をやっていて、放送日はちょうど練習の日で見られなかったので。
―― 練習に励んでいたんですね。湯山さんとの出会いはいつごろだったのでしょう。
矢嶋 2013年放送のテレビアニメ「ポケットモンスター XY」で監督を務めたんですが、その前作「ポケットモンスター ベストウイッシュ」にも携わっていて、そのときに初めてお会いしましたね。
―― 「XY」のときは28歳の若さで監督に抜てきされました。それまでのシリーズから変えた部分などはありましたか?
矢嶋 1番分かりやすいところで言うと、作画枚数が増えました。それまで、バトルシーンとかは、流背(流線背景)を使っていたんですけど、その場の風景を切り取って実際に戦っているような臨場感を出す演出方法に切り替えました。あと、CGもたくさん取り入れたので、アクションを派手にすることができたと思います。
―― 作画だけでなく、「ポケットモンスターXY&Z」の最終話ではヒロインとのキスシーンもあるなど、脚本にも感動的な驚きがあった印象です。
矢嶋 キスとは公言していませんけどね(笑)。もともとOLMのプロデューサーが「サトシとの恋仲って面白いよね」って言い始めて物語が進んでいったんですけど、シナリオでは普通に「じゃあね」と別れていたんです。でも旅立つセレナになんか贈ってあげたいな、普通に別れたんじゃセレナに申し訳ないという気持ちが僕の中にあって、あのシーンを入れました。
―― ちなみに、当時苦労したことなどはありましたか?
矢嶋 どうですかね、4年も前なのであんまり覚えてないですけど(笑)。でもスタッフなどは全員僕より年上だったので、気負う部分はあったかもしれないですね。
―― その後、ポケモン映画第20作目となる2017年の映画「劇場版ポケットモンスター キミにきめた!」では副監督を務めています。作品にはどのような形で関わりましたか?
矢嶋 絵コンテをやらせてもらいました。アクションはほとんど僕が。
―― それは「XY」での反響があったから?
矢嶋 副監督を任されたいきさつは知らないので何ともいえませんが、そのころから来年は僕に受け渡すと聞かされていたので、映画の作り方だったり、監督としての立ち振る舞いだったりを湯山さんの後ろで学ばせてもらいました。
―― 20作目では、アニメシリーズの原点が描かれ、また新たな旅が始まる姿が描かれました。それは21作目に矢嶋さんが監督を務めることと関係あるのでしょうか。
矢嶋 そうですね。湯山さんは最初から、サトシの旅立ちをいつかやろうと構想されていたみたいなので。
矢嶋哲生が考える“ポケモン映画”とは
―― 21作目の監督を任せると言われたときはどう思いましたか?
矢嶋 もともと湯山さんが僕をすごく推してくださっていたので、そんなにびっくりしなかったです。でも、湯山さんにそう言ってもらえるならもうやるしかない、胸張ってやろうという引き締まる思いではありました。新しく監督を務めることへのプレッシャーを感じるというよりは、見てもらったお子さんの力になるような映画にしたいなという気持ちの方が強かったです。
―― 一方で湯山さんは監督からアニメーションスーパーバイザーという立ち位置となりました。具体的にはどういった関わり方をされているのですか?
矢嶋 基本的にシナリオを監修いただいています。僕とシナリオライターさんが考えたものを見て、ポケモン的にはもっとこうがいいなどアドバイスしてくれたり、やってる最中に「大丈夫か?」って声を掛けてくれたり、精神的にもサポートしていただきました(笑)。
―― 21作目にして新たなポケモンが始まると思いますが、矢嶋さんなりのポケモン映画というものがあれば教えてください。
矢嶋 最初、「みんなの物語」を作ろうとなったとき、僕が小学校か中学校ぐらいにおばあちゃんとポケモンのゲームをしていたときの話からお話が膨らんでいったんです。おばあちゃんはボケ防止だーとか言ってやってたんですけど、僕の学校が終わってから2人であーだこーだ言いながら一緒に遊んでたのがすごく楽しくて。そういう思い出をポケモンに与えてもらっていたんですね。
でもそういう体験や記憶って、僕だけじゃなくて、いろいろな世代の人それぞれにあるんじゃないかと思って作ったのが「みんなの物語」。僕なりのポケモン映画となっているかは分かりませんが、そういう一人一人の思いを群像劇にして映画で描けたら、見てくれた人もポケモンによって得た思い出やコミュニケーションを思い出しながら楽しんでもらえるんじゃないかなと。そんな気持ちを込めています。
―― まさに“みんなの物語”ですね。
矢嶋 そうですね。登場する人物一人一人に、ポケモンから一歩を踏み出すための力をもらう場面が必ずあります。ここは1つの見どころで、見てくれた人の一歩を踏み出す力になればいいなと思います。あとXYもそうでしたが、人間とポケモンとの付き合い方というか、信頼関係を大きく取り上げていて、そこにも注目してもらえると。
20作目は湯山邦彦の集大成だった、そのバトンをどう受け取るか
―― 今後も映画シリーズは矢嶋監督と湯山スーパーバイザーの体制で構想しているのでしょうか。
矢嶋 どうなんでしょうね。この先はまだ聞いてないので分からないです。今終わったばかりなので、しばらく休んでから考えたいですね(笑)。
―― ではもし今後監督を務めるなら、これまでのシリーズから何を受け継いで、何を塗り替えていきたいですか?
矢嶋 正直、湯山さんから何を受け継げたのか、僕自身分かってないですし、ちゃんと受け継げたのかな? という気持ちです。でも湯山さんは「大丈夫だ」とおっしゃっていて、なら大丈夫かな、と(笑)。そういう気持ちで進むだけです。僕は子どもが喜んでくれる作品を作り続けたいと思っているので、そこに向けて努力を惜しむことなく頑張るだけ。ポケモンだけでなく、そういう作品を作っていきたいです。
とは言ってますが、今回、4歳の自分の子どもにも「みんなの物語」を見せたとき、嫁によるとどうやら途中つまんなさそうだったらしくて(笑)。「喜んでほしい、楽しんでほしい」と思っていたんですけどね。その分、他のお子さんが喜んでくれたらいいなと思いますね。
―― 息子さんもいつか見返したときに楽しんでもらえるといいですね。最後に、ファンへのコメントをお願いできますか。
矢嶋 僕とおばあちゃんをポケモンがつないでくれたというお話をしましたが、「みんなの物語」を見て、私はあーだったなとか、交換しちゃったけどあのポケモン元気かなとか、ポケモンに触れていたときのことを思い出してもらって、さらにコミュニケーションが広がったらすてきだなと思います。楽しんでもらえるとうれしいです。
※Pokemonのeはアキュートアクセントを付したe
(撮影:こた)
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