「平手さんも響も、ウソがつけない人」 漫画『響 〜小説家になる方法〜』作者が語る平手友梨奈と主人公の魅力(1/3 ページ)

柳本先生の「涼太郎は理想の彼氏像」発言に平手さんもビックリ。

» 2018年08月01日 11時30分 公開
[Kikkaねとらぼ]
※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 “圧倒的な天才”を描く漫画『響 〜小説家になる方法〜』の実写映画「響 -HIBIKI-」が9月14日に公開されます。映画の公開を前に原作者の柳本光晴先生に、作品の成り立ちから主演の平手友梨奈さん(欅坂46)への思いまでを聞きました。

映画「響 -HIBIKI-」予告編

響 平手友梨奈 平手友梨奈さんが熱望して実現した再現ビジュアル

連載で必要なのは“縦軸”

 『響 〜小説家になる方法〜』は2014年から小学館『ビッグコミックスペリオール』で連載中の漫画。出版不況にあえぐ文芸業界に、圧倒的な才能を持つ15歳の少女、鮎喰響(あくいひびき)が現れたことをきっかけに次々と事件が巻き起こる――というストーリーで、「マンガ大賞2017」の大賞を受賞しました(関連記事)。


響 平手友梨奈 小説家になる方法 柳本光晴先生によるメッセージ。取材日はくしくも芥川賞・直木賞の発表日でした

――早速ですが、本作で“文芸”という題材を選ばれたのはなぜなのでしょうか。

柳本まず僕は商業誌で連載をするためには、“縦軸”が絶対に必要だと考えているんです。例えば、ネットなどでは好評だった作品が商業誌に移った途端にうまくいかなくなるというケースが近年増えていますよね。これはネットだと数ページのイベントだけ描けばいいのに対し、商業の場合は一回の連載に数十ページを描くことになるという違いがあるためで、「ボクシングもの」「部活もの」「サラリーマンもの」など縦軸になる題材が絶対に必要になるんです。

――何か特定のジャンルに落とし込む必要があるということですね。

柳本でも今って下手に詳しくないジャンルに手を出すと、読者からお叱りの声が上がるという傾向もあるし、僕自身も当時は残念ながら「このジャンルを描きたい」とか「得意なジャンル」っていうものはなかったんです。それで「漫画であまり扱われていないけれども、世の中ではメジャーな題材ってなんだ?」と考えていたときに、『響』の初代担当編集者から「柳本さんって小説読むんですか?」と聞かれて。「村上春樹さんの作品は好きです」とか「そういえば小説漫画ってないですよね」という話になったんですよ。

――なぜ小説を題材にした漫画はないのでしょうか。

柳本小説の世界を絵に起こすことができないからです。ただそれに関しては、すごく強力なキャラクターを登場させて、「このキャラクターだったらすごい作品を書くだろう」という説得力を持たせることができれば、成立するだろうなと思いました。要は強力なキャラを作れば大丈夫ということなので、「これなら(文芸なら)やれる」と比較的あっさり決まりましたね。

――響を筆頭に、作品には強力なキャラクターがたくさん出てきますよね。柳本先生にとって天才とはどういう存在なのでしょうか。

柳本響の才能が注目されがちですが、正直僕の中では祖父江凛夏(そぶえりか)ちゃん(※)も本来天才なんですよね。何でも器用にこなせて、社交性も高くて、小説を書く力もあるし。でもあらためて考えると自分の中で明確な天才像というのはないかもしれません。響(という天才)を描くためにキャラクター設定を描きおこすというようなことも特段しないですし。

(※)祖父江凛夏……響が所属する文芸部の部長で、響の唯一の親友。父は著名な作家で、自身も高校在学中に作家デビューを果たす。

――キャラ設定を作らないんですか。

柳本漫画家の皆さんが作っていると聞くので、キャラクターの身長とかトーンの指定を書いた設定も初期に作ってみたんですが、結局どこかに行ってしまいました(笑)。


柳本先生の「涼太郎は理想の彼氏」発言に平手さんもビックリ

――個人的には響の幼馴染、椿涼太郎もかなり闇を含んだキャラクターだと思っています。響に対してなかなかの偏愛的な愛情を向けていますよね。

柳本それは違うんです。涼太郎は猟奇的なキャラクターではないんですよ。先日平手さんにお会いした際にも驚かれて、僕はその反応にびっくりしたんですが(笑)。

――……詳しくお願いします。

柳本よく「漫画家にとってキャラクターは自分の子どものようなものだ」と言いますよね。そういう点において響は自分にとって娘のようなものなわけです。じゃあ自分の娘にとって理想の旦那さんとはどんなものかと考えたときに、やっぱり「自分の娘を一番に愛してくれる人」「自分自身のことよりも、全て娘を優先してくれる人」になると思うんです。そのうえで、ブサイクかイケメンかだったら、イケメンの方がいいですし、身長も高いか低いかで考えたら、高い方がいい。勉強もできた方がいいし、スポーツもできた方がいい。つまり、涼太郎は自分の娘にとって一番理想の彼氏、として誕生したキャラクターです。

――想像をはるかに超えた誕生秘話でした。

柳本僕にとってはやっぱり猟奇的どころか、娘のことを誰よりも一番に考えてくれる、娘中心に動いてくれる理想の彼氏ですね。ただキャラクターとして実際に動かしてみたら、「こいつ結構ヤバいな」「猟奇的なところも、もしかしたらちょっとはあるかもしれないな」というところはあります(笑)。

――涼太郎の部屋とかすごいことになっていますよね。

柳本そうかなぁ。リアルで考えたときに、自分にとって好きな人がいて、その人の家に行ったときにズラーッと自分の写真が並んでいたらうれしくないですか。


響 涼太郎の部屋

――壁一面に自分の写真が貼り倒されてたら、やっぱりちょっと怖くないですか……?

柳本まぁ響と涼太郎は幼馴染だから、あの部屋の成り立ちも知っているわけじゃないですか。響からしたら「なんかこの部屋は来るたびに写真が増えているなぁ」みたいな感じで。ちなみに貼ってある写真をよく見ると響は一応ポーズを取っているんですよ。だからあの写真が壁に貼られているシーンだけ見たら猟奇的かもしれないですけれども、子どものころから涼太郎は「僕は響ちゃんのことが好きだから」って言いながらシャッターを切っていて、響も面倒くさいなと思いながら撮られて壁に写真を貼られているっていう。

――響はその状況をどう思っているんでしょうね。

柳本行くたびに増える写真に恐らく、「いい加減昔の写真捨てればいいじゃん」と言っているでしょうけれど、涼太郎は「でも大切な思い出だから」と捨てないでしょうね。まぁそういうことの積み重ねでできた部屋だと思います。

――涼太郎は今後どうなっていくんでしょうか。

柳本彼は今後もうちょっと動かしていきたいと思っています。今はおとなしくしてもらっていますけれども。

『響』を軌道に乗せたのは、初めて描いた“悪役”

――作品の中でこのキャラクターの登場で流れが変わったという人物はいるのでしょうか。

柳本これに関しては今も感謝しているんですけれども、初期のころ、初代担当編集者から「この漫画には敵役がいない」と言われたんです。確かに僕はそれまでラブコメしか描いたことがなかったので、敵・味方というのを明確に作ったことがないと気づいて。そこで初めて作った敵役というのが文芸部の顧問(黒島)でした。初めての敵役ですから、本当に苦労して、ネームもギリギリまで何回も直したんですが、その経験を踏まえて、鬼島仁(※)を作ったらこれがすごく良く動いてくれて。彼の登場あたりからうまく回り始めた感じがありました。


響 2巻の終盤から大活躍する

(※)鬼島仁……テレビなどメディアへの露出も多い有名作家。芥川賞の受賞歴もあるが作家としてのモチベーションを失っている。

――作中登場するキャラクターについて、モデルにした作家や著名人などはいますか。ミュージシャンの芥川賞候補「猪又コウジ」は又吉直樹さん(ピース)がモデルかなと思ったりしたのですが。

柳本初期に出てくる「木蓮」の編集長(神田)だけは、他作品の好きなキャラクターがモデルです。しかし、うまく動いてくれなかったので、以降実在のキャラクターのモデルを作るのは止めました。又吉さんのように、立場的に参考にする場合はありますが、キャラクターの内面は一切モデルなしです。

――柳本先生ご自身と似ているキャラクターというのは居るのでしょうか。

柳本基本的に漫画は自分の内面の切り貼りなので、どのキャラクターも自分の一面ではあります。ただやっぱり、響が一番似ているところが多いかもしれないですね。

――柳本先生は響みたいに暴力的ではなさそうですよね。

柳本僕自身は全然です(笑)。でも正直なところ、響ってそんなに暴力的な子かなぁという感じがするんですよね。売られたケンカを買う子ではあるけれども、基本的に自分からかかっていくっていうことはそんなに無いというか。ただ僕が『週刊少年ジャンプ』を読んで育ったということもあって、漫画はイベントで見せていくものだと思っているので、アクションシーンが入るのかもしれません。

――イベントというところでいうと、描くのに苦労するのはどういうシーンなのでしょうか。

柳本テレビ局のプロデューサーや大臣との絡みっていうのは、描いていて楽しいので筆が進みやすいです。対して苦労するのは学校のシーンですね。どうしても敵が学生とかだとイベントが強くならないんです。例えば、『ドラゴンボール』ではピッコロ大魔王が出てきて、マジュニア(ピッコロ)、そこから地球外からの敵のラディッツが来て、やっと倒したと思ったらラディッツすらも恐れるベジータが来て、それも倒したと思ったらなんと宇宙を支配するフリーザがやってきてと、次から次へとでっかい敵が出てくるのが面白いじゃないですか。それと同じで、敵が強くなればなるほど、描いていて「この大きな敵をどうやって攻略しようか」と考えられるので楽しいんですよ。

――先ほどジャンプのお話も出ましたが、漫画家を志したのはどうしてなのでしょうか。

柳本幼いころから漫画が大好きでずっと読んでいたので、中学ぐらいからぼんやりと「漫画家になるんだ」と考えていました。きっかけについては……ちょうどこの間、作業場でアシスタントと中学生ぐらいのときの話をしていて偶然気付いたんですが、アシスタントも僕も自分が好きな漫画に妄想で入り込んで“自分”というキャラクターを作中で勝手に動かしていたという共通点が見つかったんです。例えば『3×3 EYES』で獣魔術を身に付けたり。こんな感じで自分でお話を作ったりし始めたのが第一歩だったのかなと思います。

――影響を受けた漫画や小説についてはどうでしょうか。

柳本漫画に関しては王道作品が好きですね。ジャンプ系でいえば、『ドラゴンボール』『幽遊白書』『SLAM DUNK』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』、マガジンだと『はじめの一歩』。高橋留美子さんの作品も好きですし、青年誌だと『YAWARA!』『ツルモク独身寮』なんかも好んで読んでいました。子どものころはちょっとずつお小遣いを貯めて漫画を買いそろえては、何度も何度も読み返していました。当時住んでいた徳島市内の古本屋さんを全部回る勢いでしたね。

――一番読み返しているのはどの作品になるのでしょうか。

柳本『こち亀』ですね。理屈抜きの面白さが『こち亀』の魅力ですが、やっぱり毎週両さんがムチャクチャなことをやってくれるのが一番好きなところです。あと、ちょくちょく出てくる作者の変質的なマニアックな部分も好きでした。一番好きなエピソードは25巻に出てくる「ガンマニアの巻」で、このお話では両さんが模型店に行くんです。そして店主が「実はモデルガンマニアなんだ」と告白してから、その当時いかにモデルガンというものが迫害されていたかという話に展開。「警察などお国のやつらはいつもモデルガンを目の敵にする」「どうして!」と、両さんに詰め寄るっていうシーンまで出てくるんですね。まさに「小学生にこんなこと言って分かるわけないじゃん(笑)」というシーンなんですが、それをあえて作者の怨念的に描いているというようなところが好きなんです。

――2017年12月のジャンプでは尾田栄一郎さんが巻末コメントで言及(※)していました。

柳本あれはとてもうれしかったです。

(※)尾田先生が言及……ジャンプ2018年2・3合併号の巻末コメントで「『響』という漫画を読んだら止まらなくなりました」として新しい主人公像を評価していた。

――同人サークル「TTT」時代は「涼宮ハルヒシリーズ」の二次創作同人誌が大変好評だったとTBSラジオ「荻上チキ・Session-22」で聞きました。そこから『響』連載に至るまではどんな感じだったのでしょうか。

柳本同人活動初期はメディアファクトリーの月刊コミックフラッパー編集部でアルバイトをしていました。ハルヒの同人誌は全部で3冊出したと思うのですが、MAXで1冊あたり3万部頒布したことがあります。その後はスクウェア・エニックスのビッグガンガンなどで読み切りを描き、双葉社の月刊アクションで『女の子が死ぬ話』を短期集中連載しました。その1話を見た『響』の初代担当編集が声を掛けてくれて、スペリオールでの連載が決まりました。


響 平手友梨奈

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2403/17/news022.jpg 【追記あり】夫に「油買ってきて」と頼んだのに、手ぶらで帰宅した理由はまさかの…… とんでもないオチに「やめてww」「久しぶりに大爆笑」
  2. /nl/articles/2403/18/news022.jpg 1歳息子の“はじめての寝落ち”が140万再生 10歳兄のやさしい行動に「なにこの平和でかわいい世界」「最高に癒やされる」と絶賛の声
  3. /nl/articles/2403/17/news063.jpg 「予言者いた」「先見の明」 大谷翔平選手&真美子さんの結婚を2021年時点で予言(?)している投稿が発掘され話題に
  4. /nl/articles/2403/17/news047.jpg 北海道内の移動距離を本州と比較したら…… 感覚がバグるマップ画像に「これが北海道」「大きすぎる」
  5. /nl/articles/2403/18/news042.jpg 生後1カ月の赤ちゃん「ぼく泣かないもんねっ」 うるうるおめめとへの字口が「はぁ〜たまらん!」「ぐぁぁああああっっ」取り乱すほどかわいい
  6. /nl/articles/2403/15/news126.jpg 「一番イチャイチャしているように見える」 大谷選手が公開した写真でドジャース山本由伸選手の“手つなぎ”?が話題に 「そっちに目が行く」
  7. /nl/articles/2312/29/news019.jpg 「妻の服を勝手に着て脱げなくなったムキムキ夫とデカワンコ」に爆笑の嵐 シュールすぎる状況が500万表示突破
  8. /nl/articles/2403/18/news025.jpg “おしりが5日で変わる”トレーニング! 「明日からやるか」「1日1回だけなら続けられる」と累計3000万再生突破
  9. /nl/articles/2403/18/news056.jpg 大好きなボールを100個プレゼントされたときのワンコの表情に「放心ww」「引いてない?」 直視できない姿がSNSで話題
  10. /nl/articles/2403/18/news064.jpg 赤ちゃんが妙に静かだと思ったら…… 思わぬものへの“真剣モード”に笑顔になる人続出「たれたもちもちほっぺたまらん!」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  2. 昭和時代に“無かった物”が写っている……? 細かすぎて伝わらない「未来から来たことがバレた写真」に6万いいね
  3. 「マジで汚い」「こんなもんです」 辻希美、“大散乱”のリビングと“新”キッチンの差を公開し共感の声集まる
  4. 双子の赤ちゃん、姉が全力でくしゃみして…… 被害にあった妹の反応に「生後3ヶ月でドリフのコントw」「めちゃどっちもカワイイ」と絶賛の声
  5. 「よくも病院に連れてきたな……」とにらむ猫、先生が来た瞬間 驚きの変貌に爆笑の声「これがほんとの猫かぶり」
  6. 急に片耳がたれたワンコ、慌てて病院にいった結果…… 「こんな可愛い診断結果初めて見たよw」「笑っちゃった」と反響
  7. 「何羽いる?」一見普通の“草むら”、よく見ると……? 思わず絶叫まちがいなしの1枚に「どっさりいるw」「まさに迷彩!」
  8. 店員に「この子は懐きませんよ」と言われたチンチラ、家に来て3日後…… 人を信じる姿に「愛が伝わったんですね」
  9. 元SDN48光上せあら、目を離した隙に……子どもが商品を触り“全買取” 「子連れママに厳しすぎないか?」
  10. 柴犬を子どものように育てた結果、人間みたいな行動をするようになった 何気ない幸せな日常に「完全に家族の一員」「全部が愛くるしい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 釣れたキジハタを1年飼ってみると…… 飼い主も驚きの姿に「もはや、魚じゃない」「もう家族やね」と反響
  2. パーカーをガバッとまくり上げて…… 女性インフルエンサー、台湾でボディーライン晒す 上半身露出で物議 「羞恥心どこに置いてきたん?」
  3. “TikTokはエロの宝庫だ” 女性インフルエンサー、水着姿晒した雑誌表紙に苦言 「なんですか? これ?」
  4. 1歳妹を溺愛する18歳兄、しかし妹のひと言に表情が一変「ちがうなぁ!?」 ママも笑っちゃうオチに「かわいいし天才笑」「何度も見ちゃう」
  5. 8歳兄が0歳赤ちゃんを寝かしつけ→2年後の現在は…… 尊く涙が出そうな光景に「可愛すぎる兄妹」「本当に優しい」
  6. 1人遊びに夢中な0歳赤ちゃん、ママの視線に気付いた瞬間…… 100点満点のリアクションにキュン「かわいすぎて鼻血出そう!」
  7. 67歳マダムの「ユニクロ・緑のヒートテック重ね着術」に「色の合わせ方が神すぎる」と称賛 センス抜群の着こなしが参考になる
  8. “双子モデル”りんか&あんな、成長した姿に驚きの声 近影に「こんなにおっきくなって」「ちょっと見ないうちに」
  9. 犬が同じ場所で2年間、トイレをし続けた結果…… 笑っちゃうほど様変わりした光景が379万表示「そこだけボッ!ってw」
  10. 新幹線で「高級ウイスキー」を注文→“予想外のサイズ”に仰天 「むしろすげえ」「家に飾りたい」