「ハイスコアガール」がアニメになるまで 制作統括・松倉友二のこだわりとJ.C.STAFFの挑戦(1/2 ページ)
初挑戦となったフル3DCG。そして、アニメの中にゲーム画面を組み込む難しさとは。
7月13日に放送開始したテレビアニメ「ハイスコアガール」も、8月10日の放送で第5話を迎えます。大野晶という無口美少女との衝撃的な出会いと別れが描かれた小学生編が終わりを告げ、第4話からスタートした中学生編では、新たなヒロイン・日高小春が登場。早くも視聴者の人気を二分する勢いで、その魅力を振りまいています。
原作は、月刊『ビッグガンガン』(スクウェア・エニックス)で2010年に連載開始した押切蓮介さんによる同名マンガ。格闘ゲームブームに沸きに沸いた1990年代のゲームセンターを舞台に、あのころのノスタルジーと甘酸っぱい恋模様を詰め込んだ異色のラブコメディーです。
ねとらぼでは、アニメの制作統括を担当しているJ.C.STAFFのチーフプロデューサー・松倉友二さんにインタビュー。筐体を探しに走り回ったというゲーム愛に満ちたエピソードから、アニメの中にゲームの映像をはめ込むという異例のチャレンジ、これまでの放送で寄せられた反響など、制作陣だからこその裏話をお届けします。
そして「ハイスコアガール」へ
―― 「ハイスコアガール」の話に入る前に、まず、松倉さんについてお聞きしていきます。1992年に専門学校を卒業後、J.C.STAFFに入社し、20代という若さでプロデューサーに就任。J.C.STAFFでは全ての作品に携わっていますが、そういったスタンスはいつごろから始まったのでしょうか。
松倉友二(以下、松倉) 「少女革命ウテナ」(1997年)が終わった後なので、たぶん98年ぐらいからです。
―― プロデューサーになってすぐのころですね。他のアニメ制作会社も含め、全ての作品に携わるプロデューサーというのは珍しいと思います。
松倉 そうですね。半分は結果論なのですが、テレビ版「ウテナ」をやったときは名刺上ではまだプロデューサーではなく、上司がいたり、同じ並びのラインプロデューサ−が何人かいたりという状況だったんです。でもアニメ業界では目立った存在だったみたいで、20歳のころから有名だったんです。
―― 有名というのは?
松倉 J.C.STAFFに元気のいい若手が入ってきたぞ、みたいな。20歳で制作進行から半年たたずで一本立ちしたんですけど、そのとき組んだのが高山文彦さんという、業界内では超有名な演出家/監督だったんです。高山さんと最初に作ったアニメが「超時空世紀オーガス02」(OVA)というタイトルなんですけど、キャラクター原案が美樹本(晴彦)さんなんですね。それで、美樹本さんにキャラクター上げさせた20歳の若手がいるぞと(笑)。
松倉 あの時代に、クリエイターや制作会社の人とか、いろいろな人と出会って関係ができていきました。メーカーさんとも同じように関係ができていって、その結果、仕事の話が自分に来るようになっちゃったんです。
―― 20歳で一本立ちというのもすごいですが、出てくる名前がレジェンド級ばかりなのも驚きます。その中で、思い出深い作品というと?
松倉 やっぱり、「オーガス02」と初めてのテレビ作品である「ウテナ」ですね。それから、四半世紀をへて「ハイスコアガール」にたどりつくという……。自分がもともとゲーム業界出身ということもあって、ずっとゲーム好きというのは公言していたし、ゲーム関連の仕事もいろいろやらせてもらっていたんですけど、その中で1つ像を結んだというか。
―― ゲーム業界で働かれていたのはいつごろの話ですか?
松倉 18歳から20歳まで、実質2年間しか籍を置いていなかったんですけど、京都にある「トーセ」というゲーム会社で働いていました。業界では超有名な、いろんな意味ですごい会社です(笑)
―― 「トーセ」といえば有名タイトルを多数手掛けながら、名前はほとんど表に出てこないことから影武者とも称される……。時期的には、学校に通いながらだったんですか?
松倉 そうですね。朝は学校、午後になったらゲーム会社、夜はゲーセンでバイト、そういう生活でした。
―― ハードな学生生活ですね。「ハイスコアガール」の制作に当たっては、所持しているゲーム機をモデリング用に貸し出したと聞きましたが、集めるのもお好きなんですか?
松倉 好きですね。基板も買っていましたし、ハードも、基本的には出ているものは全部1回は触れたいと思っているので。アニメの制作を始めてからは貧乏だったので、中古でネオジオ買うのも大変だったりとか、セガサターンが驚愕の値段だったりして、生活をかなり圧迫しました。
最初は反対された3DCG
―― 「ハイスコアガール」では、J.C.STAFFとしては初めてフル3DCGに挑戦しています。なぜ2Dではなく3Dを選択したのでしょう。
松倉 押切さんの独特なタッチを2Dで表現することが難しいことなど、いろいろな観点から複合的に判断したのですが、主な理由は筐体やゲーム画面の再現とキャラクターとのマッチングです。あとは大野の表現ですね。春雄は表情が豊かだったので自分の中でハードルが高かったんですけど、大野は逆に顔が固定されるというか、手描きって無表情を描いてもどうしても表情が出ちゃうので、もうちょっと表情が出ない形を安定的に作りたかったんです。
―― 大野といえば、春雄に頭突きしたりなぐったりというアグレッシブな動作が出てきますけど、ああいう動きは3Dの方がやりやすかったりするのでしょうか。
松倉 いやー、そんなことないですよ。手描きの方が楽は楽なんですけど、ゲーム画面と筐体、ゲームセンターを再現するっていう大きなテーマもあると思っていたので、大量の箱物が並んでいる空間をどうやって再現するか、そこでどうやって違和感なくキャラクターを遊ばせるかということを考えたときに、いまみたいな3Dがいいなと。当時は、みんなから反対されましたけど。
―― 反対というと?
松倉 いまもそうですけど、3Dのキャラクターは表情が硬かったり、動きに違和感があったりして、ある種キャラものとしての一面を売りたいと思っていた人たちからは評判が悪かったんです。
―― アニメ好きの中でも、3Dを苦手とする人は少なくない印象です。一方で、アニメを見た人からは「3Dだから心配していたけど結構よかった」というポジティブな意見も目立ちました。
松倉 そこは現場が頑張ってくれたおかげです。3Dを作る前に、一度2Dのデザインを起こしますけど、そこは3Dのことを分かっているデザイナーが担当した方がいいので、SMDE(小学館ミュージック&デジタル エンタテイメント)さんのデザイナーが線画を起こして、それを基に3Dを作っています。SMDEさんは、「ゾイド -ZOIDS-」や「団地ともお」などを手掛けてこられた老舗ですし、とても細かいテクニックを駆使してもらって、映像も破綻がないように仕上げてくれています。
―― J.C.STAFF内にもCG部がありますが、SMDEに外注したのはなぜですか?
松倉 純粋に、技術力とキャパシティーが段違いだったからです。
―― キャラクターデザインもSMDEが担当していますね。
松倉 フル3D自体が初めてだったので。部分的に3Dを使う場合はこちらがキャラクターなどの資料を出して、これに合わせてやってくださいと依頼するんですけど、今回は頭から絵作りも全てお願いすると決めていたので、まるまるお渡ししました。もちろん上がってきたデザイン画に対しては、ここをこうしようなどの話はしましたが、最終的な落とし込みは監督のチェックの下にSMDEさんでやってもらっています。
―― キャラクター以外では、筐体の採寸もかなり苦労したと聞きました。
松倉 大変でしたよ(笑)。「ストリートファイター」「モータルコンバット」「スペースガン」などの特殊筐体ものは、なかなか現存していない状況で、いろいろと調べて、「どこどこになにがあったぞ、じゃあ採寸できるように手配するぞ」と。汎用筐体(ミディタイプ筐体)も30年近く前のものとなると全然残っていなくて、「エアロシティ」(セガ)はないし、「コンソレット」(ナムコ)も見当たらず。置いてないんだったら中古で買って提供するしかないかと真面目に考えはじめて、嫁に「エアロシティを買いたいんだけど。冷蔵庫ぐらい大きいんだけどさ」って相談したらブチギレられましたけど(笑)。それで肩を落として秋葉原をさまよっていたら偶然見つけて、飛び込みで「責任者の方はいらっしゃいますか!」って名刺を渡して。
松倉 そんな感じで、時間を見つけては秋葉原のショップを回って、資料を提供してもらえないかと直談判で交渉していました。アーケードだけじゃなく、春雄は家庭用のハードも持っているんですが、また律儀(りちぎ)に箱にしまうきっちりしたヤツじゃないですか(笑)。むき出しの本体なら中古で売っているんですけど、箱ってなかなかないんですよ。「ツインファミコンの外箱ありませんか」「初代ゲームボーイの外箱が入荷したら連絡ください」って探し回って。Beepさんやスーパーポテトさんが、名刺渡したら無償で貸してくれたりして。ありがたかったですね。
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