劇場版「フリクリ プログレ」 誰の目にもおよそ不可能なBET
「オルタナ」に続いて公開された「プログレ」。
「フリクリ」の続編、「フリクリ プログレ」が公開された。
私はフリクリのカッコよさにブン殴られてから、脚本家やスタッフに注目してアニメを見るようになった。やがてアニメーターの名前を覚えはじめ、設定資料を買いこみ、さらにthe pillowsのコピーバンドまで始めてしまった。そんな具合であるからとりわけ個人的な思い入れが強い作品であるのは事実だが、「オルタナ」はそれを差し置いてもとにかく苦痛に満ちた時間でしかなかった(「オルタナ」については前回の記事をお読みいただきたい)。
「プログレ」についても、「フリクリ」を見てこれが出てきたかという思いは大きい。そして「オルタナ」に続き、作り手がthe pillowsについて関心があるようには見えなかった。とはいえ、ほぼ地面限界まで叩き落とされていたハードルのおかげか、比較的好意的に見ることができたのも事実である。これは自分のような原作絶対主義者に向けられた作品ではない。ただそれでも、誰かには届くだろう。
★以下、ネタバレを含みます
不発する「フリクリ」のエッセンス
「プログレ」はオリジナル版「フリクリ」を強く意識した作品となっている。それは第1話終了後のエンディング映像で流れるクレジットでサメジマ・マミ美と思われる少女の成長した姿を登場させたり、物語中盤以降で活躍(?)するマスラオが前作アマラオの息子であることをわざわざ指摘したり(声優も同一者を起用)、最後にカンチを登場させたり……といった成功しているとは言いがたい過去作ファンへの目配せがあるからだけではない。
本作の主人公であるヒドミは自分の肉体が腐り落ち、破壊される倒錯した夢を見続ける。父親不在の環境、母親ともうまくいかずに自分の抑圧を抱え込んでいるヒドミは、貞本義行のデザインも相まって魅力的なキャラクターだ。そしていかにも思春期ど真ん中の中学生男子である井出はオリジナル版主人公・ナオ太の幼さとアマラオの大人ぶりの中間に位置するキャラクターだ。
思い返せば「フリクリ」は小学生男子がクラスメイト・女子高生・宇宙人のお姉さんに言い寄られる話と言えなくもなく、物語の軸としてもリビドーは絶対に外せない点だ。本作の脚本は「オルタナ」と同じく岩井秀人だが、原作とのつながり、エッセンスについては「プログレ」の方により多く投入されている。
またアニメーション表現についても目を引くところが多数あったのはうれしかった。1話「サイスタ」についてはアバン、エンディングを含めてしっかりとした「魅力的なアニメの第1話」になっていた。その後2話、3話にて作画は早くも完全に息切れを起こしていたが、4話「ラリルレ」で持ち直し、5話「フルプラ」ではトレイラー映像でも目立っていた特殊な質感のアニメを見せてくれた。
これは全作を別監督が担当していることが功を奏したのだろう。本作は多彩な表現の中に性的メタファーと自己破壊のフェティシズムが大量にねじこまれており、少なくともヘンで、一筋縄ではいかない、記憶に残る作品にはなっている。その点については高く評価したい。
生かされない設定、物足りないサウンド
だが前述の通り原作ファンとして納得できない部分が多々ある。ハル子の分裂した片割れ・ラハルは「変な鳥」アトムスクに恋するただの乙女として存在が矮小化されており、突如現れるスラム設定や井出の筋肉アピールも物語上ほとんど生かされない。
何よりフォローしようがないのがアイコの扱いだ。「オルタナ」のペッツ同様、闇を抱えているはずの彼女のバックボーンについてあまりにも描写がおざなりなのは非常に残念だ。やはり脚本家の力不足が否めない――というより、おそらくアニメ的な思春期キャラクターの鬱屈、葛藤、執着を描くのにあまり向いていないのではないか。
音楽を使った演出面についても疑問が残る。「Thank you, my twilight」は確かに名曲だが、2時間半の映画の中でこうも何度も流されるとさすがに白けてしまう。本作屈指のバトルシーンでかかる4話の「サード アイ」を除き、「Freebee Honey」「Fool on the planet」「I think I can」「LAST DINOSAUR」は「オルタナ」での使用と重複していた。
また全ての楽曲はthe pillowsのキングレコード所属時代のリリースタイトルを新録したものであり、2007年エイベックス移籍後のアルバム9枚からは1曲も収録されていない。各話監督者の使いたい曲がたまたま被ったのか、総監督・スーパーバイザーといった統括者が一切機能していないのか、それとも使用できる曲にレコード会社側などから縛りがあったのか。例えそうであったとしてももう少しなんとかならなかったのかと思ってしまう。
「オルタナ」「プログレ」は前作「フリクリ」からスタッフが一新されている。各々の参加クリエイターがそれぞれの考える「フリクリの続編」を形にするべく努力したのは事実だろう。それが実っている部分も確かにある。だが「フリクリ」は各クリエイターの持つオリジナリティーと趣味とリビドーを爆発させたところから生まれた作品だ。半端に引き継いだ設定をベースに薄味の二次創作でお茶をにごすくらいなら、自分のバットを全力で振ってほしかった。"テキトーに出来てんじゃん"だなんて言い訳がましいキャッチコピーを使っているなら尚更だ。
(将来の終わり)
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