「大丈夫?」って聞かれて「大丈夫じゃない」って答えられる? 「やがて君になる」8話(1/2 ページ)
ほんと厄介な先輩だよ……。
人を好きになるって、なんだかとっても難しい。「やがて君になる」(原作/アニメ)は、思春期に体験する「止められない恋」と「恋がわからない」気持ちを繊細に描いた作品。しっかり者なのに好きな人に甘えてしまう先輩と、人を好きになれない後輩の、ちょっぴり厄介なガールズラブストーリー。
今までのあらすじ
高校一年生の小糸侑(ゆう)と、二年生の七海燈子。クールで優等生な燈子は、侑のことをすっかり大好きになり、デレデレに。
超完璧優等生に見えて、実は頑張りすぎている部分がある燈子。侑は彼女の支えになろうと考えて、生徒会を手伝いはじめた。
同じ生徒会にいる佐伯沙弥香は、燈子の親友。彼女は恋愛対象として燈子を見ていることを自覚しており、親友であり続けるため踏み込みすぎないように距離を置いていた。生徒会劇の話を巡って侑と接点が増え始めた沙弥香。燈子が侑に対して距離を詰めていく様子を見て、複雑な気持ちを抱えていた。
人を好きになれないということ
燈子をはじめとした人たちの「好き」があふれている学生生活。しかし侑は、誰かが特別になるという感情が開花しきっておらず、ぼんやりとした日々を送っています。
ある雨の日、学校の友だちの朱里は、気になる先輩の背中を見つめていました。気付いた侑は「行ってきなよ」と背中を押します。めっちゃ気が利くんですこの子。さて、みんな心の中に「特別な人」が生まれて、楽しそうにしている。わたしは、どうなるんだろう?
憂鬱そうな顔が目を引くシーン。第1話にも出てきたように、彼女は恋愛に興味はあります。でも自分の心が動くほどの体験が今のところない。
それが気楽、と思えればいいのですが、彼女の中ではずっとコンプレックスのままだから、難しいところ。雨が降った校内、傘のない彼女は誰かに送ってもらおうかと考えていたものの、みんなもう帰っていってしまった。いろいろ入り混じって、置いていかれた感が押し寄せてきます。人恋しいわけではない。感覚が成長しているか否かの話。
そこでふと思い出す、先輩の電話番号。自分から燈子に連絡を取るという選択肢が一瞬頭をよぎるも、やっぱりやめてポケットにしまう。この含みからの、燈子とのやりとりが見どころ。物思う分析家の侑ならではのブレーキの踏み方が見えます。
甘えん坊だよ燈子先輩
帰り際にやってきたのが燈子。ごく当たり前のように「一緒に帰ろう」と言ってきます。いやあ楽しそうだなあ先輩は。キラキラしている。
侑が気遣いしすぎる子だからというのもあるのですが、燈子が濡れた頭を侑に拭かれるシーンは、身長差もあってとてもかわいいことに。侑がこれを変に思っていないのは「燈子は背伸びをしている弱い女の子」というのを強く意識しているからかもしれません。いや、それにしたって幼児の世話のよう。
燈子もまんざらでもない様子。ただ、気にはかけています。
燈子「本当は私の相手をするの嫌だったり疲れたりしてるのに 我慢してくれてるだけかもしれない 嫌われたらどうしよう……って 大丈夫?」
この言葉の言い回し、とても気にかけて心配しているのは間違いないのですが、あくまでも「自分が嫌われたらどうしよう」が不安要素なのがミソ。迷惑かけてごめんね、ではないです。加えてこういう言い回しは、相手の退路を断つ発言でもあります。不安な相手に「大丈夫じゃないよ」と言えるわけがない。
これを侑がモノローグで、冷静に分析しています。
侑「それをわたしに聞いてしまうのが一番の甘えじゃないだろうか」
燈子の発言は確かに、侑に「大丈夫って言って」というニュアンスの期待がチラ見えする。これこそが最大の甘えだと侑は考えます。
とはいえ侑は燈子のこういうところを知った上で、甘えてきてもいい、支えたい、と決めているから、この関係は成立しています。
侑は燈子が、好きになることを以前「許可」した。では侑側が変わることは許されているのか?
燈子が侑と一緒に帰ろうとしたことに対して侑は「嬉しかった」と何の気なしに言いました。それを聞いて燈子は疑問を感じます。「嬉しかった?」好きな相手に言われてその返し、だいぶ奇妙。
燈子が侑を好きになった。侑がそれを許可した。侑は先輩を好きにならない、と発言した。「(先輩は)弱い自分も完璧な自分も肯定されたくないくせに 誰かと一緒にいたいんだ」という侑の発言(2巻10話)を踏まえた上での、今の関係です。
侑が燈子に対して、会えて「嬉しかった」と言ったならば、それは「弱い自分」か「完璧な自分」を肯定し、好意を持ったことになる。だから怪訝な表情になった、という流れです。
結果として侑は、「先輩を好きにならない自分」を通す選択をしました。以前から引き続き、特別扱いはしません。というかしそうになったら、やめます。
侑「いいか べつにこのままでも」
自分が燈子に会えて「嬉しかった」こと、燈子に軽口をたたきながら笑い合うのが楽しいこと、体温高い先輩の手に触れたかったこと。何かが芽生え始めては、抑え込んでいる状態です。
そもそも「先輩と一緒の環境を保つために、自分の心を何らかの形で抑え込んでいる」時点で、「燈子のことを好きにならない役」を意識していることになります。それはもう特別な相手じゃないか。先輩の沙弥香が燈子のそばにいるため恋心を隠しているのと、少し似ているように見えます。
燈子分析班、侑と沙弥香
燈子のややこしい部分を知っているのは、侑と沙弥香だけ。沙弥香は以前から燈子に心を惹かれ続けていますが、それを秘めたまま、サポート役として立ち回っています。
2人は仲が悪いわけではありません。ただ、侑はここも気を使っちゃう子なので、沙弥香に声をかけてファストフード店へ。もちろんそんなのお見通しで「後輩に気を遣わせちゃったみたいでかっこ悪いわね」と沙弥香に言われてしまう。
この2人は「燈子の本性を知っている」「じゃあこれからどうするべきか」を迷う、特異な関係になります。それぞれ燈子への思いはあるので、単純にはいきません。とはいえ今後2人の会話は増えていき、お互い嘘をつかない良い距離感になっていきます。侑が特に、ズバズバ言うタイプなのがうまく効いている。2人の信頼関係ができた第一歩が、次のシーン。
気になる相手の、愛ある愚痴を共有できるのは、ほかにない絆。2人はただの先輩後輩ではなく、燈子の心のリハビリ組として、接触が徐々に出てきます。
特に現段階の燈子は、とても厄介。次回のアニメが原作のままだったら、かなり大変な暴走が起こることになる。
暴走がなんなのか気になる人は原作3巻を読もう。
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