“テレポートするナメクジ”を追った5年間 調査の内容をまとめたレポマンガに興奮を隠せない司書メイドの同人誌レビューノート

104ページという力作。

» 2018年12月09日 12時00分 公開
[シャッツキステねとらぼ]
シャッツキステ

 子どもの頃、都市伝説や怪異の話に引かれたりはしませんでしたか? 私は「○○の鏡という語を20歳まで覚えていると息絶える」というのを定期的に思い出しては震えていましたが、ありがたくもつつがなく過ごしております。

advertisement

 いかにも怪談な話や、超常現象を学問として研究されていたけれど、今となっては眉唾(まゆつば)じゃないかと思われるようなエピソード……不思議なお話は、そわっとする魅力がありますね。

 今回ご紹介する同人誌の作者さんは、幼い日に出会った「ナメクジはテレポートできる」というエピソードに引きつけられ、その源流をたどるべく、大調査を続けていらっしゃるのです。

今回紹介する同人誌

『ナメクジテレポートここまでのまとめ+α』

A5 104ページ 表紙・本文モノクロ

作者:くまみ

同人誌 シャッツキステ ナメクジ テレポート まとめ 研究同人誌 シャッツキステ シャッツキステ ナメクジ テレポート まとめ 研究 ナメクジテレポートとは? 大調査がはじまります

ナメクジがテレポートする!? 1冊の本からの思い出をたどる

 作者さんは、幼いときに読んだ本がきっかけで「ナメクジはテレポートできる」と思い込んでしまいます。成人後につい本気でその話を披露して、その場の爆笑を誘うも、作者さん的には「えっ! 私、だまされていた!?」と衝撃に襲われます。そんなてん末をネットでつぶやいたところから調査はスタート。

 「ナメクジはテレポートする」と書かれた本を探すことからはじまり、やがてそのエピソードは昭和10年(1935年)の雑誌や、昭和11年(1936年)の本に掲載された目撃談が発端なのではないかと源流を突き止めていきます。それは2013年から現在まで、なんと足かけ5年に渡ります!

advertisement

 その長きにわたる疑問と調査の経緯を、こちらのご本ではマンガ形式で、丁寧にたどって描かれています。手足は棒線のカエルさんが、驚いたり、頑張って資料を探したり、時に諦めたり……、日々の中で意外とたくさん寄せられる情報に触れながら、ナメクジテレポート(略して“なめテレ”)にはまっていく様子が伝わってきます。

同人誌 シャッツキステ ナメクジ テレポート まとめ 研究同人誌 シャッツキステ シャッツキステ ナメクジ テレポート まとめ 研究 ドヤっ! と発言したなめテレエピソードがその後へ続く……

「なめくじテレポート」に関しては誰よりも詳しくなりたい!

 最初は「幼いときに出会った本をまた見たいなー」という動機だった作者さん、やがてだんだんと心境に変化が起こります。

 ターニングポイントは探していた文献を知人から紹介されたとき。出会ったうれしさを「すごいや! ラピュタは本当にあったんだ!」という気分だった……としつつも、「先に調べてくださった人がいて楽ちんラッキーだし、なのに私、いますごく同時に先を越されて悔しいって思っている」という感情の芽生えに気付きます。

 さらに調査を進める中で、いままで知らなかった情報にあたり、ついに「もっと調べたい」「可能な限り調べたい」「そしてなめくじテレポートに関しては……誰よりもくわしくなりたい!」と決意するに至ります! わああ! 熱い! 描かれているのは、棒線手足のカエルさんですが、そのカエルさんの凜々しい表情に、調べる楽しさに胸が昂まる気持ちが伝わってきます! 果てしない“なめテレ”坂を駆け上がり始める、その心境に、読んでいるこちらも思わず盛り上がってきました。

advertisement

 作者さんの調べ方は多くの人を一度に動員するようなものではありません。基本的にネットや知人から寄せられた情報を元に、自分で図書館に足を運んで文献をきちんと確認し、いままでの資料と照らし合わせるという、自力、独力での調査です。丁寧に、まとめて書き込まれた情報群に、作者さんが誠実になめテレについての情報をみんなに伝えようとされているのを感じます。

 こつこつとした苦労を入れ込みながらも、そこから伝わってくるのは、知ることの楽しさ、面白さです。調査には国立国会図書館から地元図書館、県外の図書館への調査依頼に加え、ネットも駆使されています。使えるツールは便利に使い、過去の資料を保存して提供するという役割を持つ図書館もしっかり使いこなし、そして、その結果をこうして作品として残してらっしゃることに、図書館司書としてもうれしさがこみ上げます。

 利用した図書館の近隣のちょっとしたお食事情報が載っているのも楽しいですよ。

同人誌 シャッツキステ ナメクジ テレポート まとめ 研究同人誌 シャッツキステ シャッツキステ ナメクジ テレポート まとめ 研究 ご協力により調査が進んだことをうれしく思うも、少しだけ複雑な思いで……その心境の変化も素直につづられています

調べるのって面白いな! を支える、探究心とネットワーク

 こうした調査の結果、なめテレに関する情報を着実に精査していき、なめテレエピソードの源流の要人と思われる「動物学者」さんが、実は動物好きの巡査さんで、「動物学者さんが見たなめテレエピソード」は伝言ゲーム的に後世に流布されたのでは……ということも突き止めていかれます。

同人誌 シャッツキステ ナメクジ テレポート まとめ 研究 なめテレエピソードに頻出の「学者」さんの正体は……

 はぁ……もう楽しい……。ご本を読むまでなめテレのことを考えたことはなかったのに、作者さんが丹念に調べた知識も読書として得つつ、苦労話とミックスされて書かれることで「この資料とはこうして出会ったんですね!」とうれしくなります。論文でなく、エッセイマンガのように描かれた形ならではの楽しさで知識に触れる喜びに私も胸高鳴ります。もー面白い!

 しかし、ここまで調べても、まだ作者さんが出会ったご本とは再会を果たしていらっしゃいません。いつかこの楽しいなめテレ本に出会うことができますように……!

同人誌 シャッツキステ ナメクジ テレポート まとめ 研究 出会った文献まとめも、マンガ形式で紹介されているのが分かりやすくてすばらしいです

サークル情報

サークル名:しかま家

Twitter:@kumami_

Webサイト:http://www.hamkumas.net/hub/nt

今週のシャッツキステ

シャッツキステ メイド 同人誌 異国でのルームシェア実体験マンガ『サトコトナダ』の展示を館内で行っています。こちらではなじみの薄いお菓子やお茶をお出ししたりも。香りやお味を楽しみながらページをめくる、作品が一層近づいた気がします

著者紹介

シャッツキステ メイド 同人誌 司書メイド ミソノ 司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る

関連キーワード

同人誌 | まとめ | 調査 | 図書館 | 漫画 | 面白い | 国会図書館

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2503/31/news050.jpg 自宅の犬小屋に住み着いた野良猫、1年後の姿に「泣いた」と大反響 それからどうなった?現在の様子を聞いた
  2. /nl/articles/2503/31/news073.jpg 100万円の“錦鯉”を自宅の池に入れたら…… 「おかしいでしょ」3日後、まさかの事態に「鯉は難しい…」「信用が大切ですね」
  3. /nl/articles/2504/01/news111.jpg 中村江里子、20年間住み続けるパリ自宅が“ぶっ飛び”すぎていた! 4メートル高天井&来客のド肝抜くデザイン尽くしに視聴者「日本の既成概念からは遠い」
  4. /nl/articles/2504/01/news124.jpg 松屋が、松屋を……! エイプリルフールに企業公式の投稿が続々→“楽しいウソ”に「コレは笑える」「素敵なコラボ」【エイプリルフールまとめ】
  5. /nl/articles/2504/01/news118.jpg 四肢欠損のママタレ、育児動画に誹謗中傷で1カ月超の“沈黙”……4歳娘への書き込みが「最も胸に突き刺さった」
  6. /nl/articles/2504/02/news031.jpg 英国人女性と出会った男性→8年後…… まさかの姿に反響 「めちゃくちゃ垢抜け!」「爆イケに!」
  7. /nl/articles/2504/01/news102.jpg 第5子妊娠の辻希美「昨夜から中学生が6人泊まりで来てまして」 食べ盛りの子どもたちに“大量に作ったごはん”が圧巻
  8. /nl/articles/2503/31/news036.jpg ペットショップで売れ残っていた5万5000円の柴犬→お迎えして半年後…… “一目瞭然の姿”が240万表示「うるってなった」
  9. /nl/articles/2504/01/news015.jpg 散歩中、愛犬が拾った“まさかのもの”に「どうすんのコレww」 飼い主もビビった“ホンモノ”「え?」「大手柄だね」
  10. /nl/articles/2502/14/news033.jpg コメダ珈琲店で朝、ミックスサンドとコーヒーを頼んだら…… “とんでもない事態”に爆笑「恐るべし」「コントみたい」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 福袋に入ってた“定価3万円”の高級魚を大事に育てたら…… 「やりやがったな」涙する結果に「すごい」「ほんと感動」
  2. 「日本人だけが感じる絶望」 職場に置かれたドーナツ → “抹茶味”かと思いきや…… “まさかの事実”に反響「怖くて泣いちゃった」「笑いました」
  3. 自宅の犬小屋に住み着いた野良猫、1年後の姿に「泣いた」と大反響 それからどうなった?現在の様子を聞いた
  4. 「全てが完璧」 無印良品の“1990円バッグ”に称賛続出 「やっぱりこれ」「文句なし」「使い勝手抜群」
  5. ペットショップで売れ残っていた5万5000円の柴犬→お迎えして半年後…… “一目瞭然の姿”が240万表示「うるってなった」
  6. “有吉弘行も大ファン”の「伝説の女装愛好家」が死去 亡くなる2日前に「志半ばにして逝きますが燃え尽きる思い」とメッセージ
  7. 普通のクリップを2つつなげるだけで…… あると助かる“便利グッズ”に大変身 「マジで!」「素晴らしいアイデア」【海外】
  8. 皇后さま、服から靴まで「ロイヤルブルー」 天皇陛下のネクタイとの“おそろいコーデ”
  9. 「大当たりでした」 ユニクロ新作“9990円アウター”が売り切れラッシュの大反響 「今までと全く違う」「大切に着たい」
  10. 「これはうれしい」 引っ越しのあいさつでもらった手土産、開封したら…… “センス抜群の中身”に「参考にしたい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 【べらぼう】“問題のシーン”、「子供に見せられない」 身体張った27歳俳優へ「演技やばくない?」
  2. 「恩師ビックリするやろなぁ」 中学3年で付き合い始めた“同級生カップル”が10年後…… まさかの現在に反響
  3. 「本当に迷惑」 宅急便の「不在連絡票」と酷似のチラシが物議…… ヤマト運輸「配布中止申し入れ」
  4. 「うそでしょ!?」 東京ディズニーランド、“老舗”レストランの閉店を発表 「とうとう来てしまったか」「いやだああああ」と悲しみの声
  5. 雑草ボーボーの運動場に“180羽のニワトリ”を放ったら…… 次の日、まさかの光景に「感動しました」「すごい食欲」
  6. 40歳・女性YouTuber「18年間、脇毛を処理していない」→“処理しない理由”語る 「脇のみならず……」
  7. コメダ珈琲店で朝、ミックスサンドとコーヒーを頼んだら…… “とんでもない事態”に爆笑「恐るべし」「コントみたい」
  8. 息子の小学校卒業で腕を組んだ34歳母→中学校で反抗期を迎えて…… 6年後の姿に反響 「本当に素敵!」「お母さん、変わってない!?」
  9. Koki,、豪邸すぎる“木村家の一室”がウソみたいな広さ! 共演者も間違えてしまうほどの空間にスタジオビックリ「コレ自宅!?」「ちょっと見せて」
  10. 使わない靴下をザクザク切って組み合わせると…… 目からウロコの再利用法が2500万再生「とてもクリエイティブ」【海外】