アミ・トンプソンはいかにして20代でディズニー「シュガー・ラッシュ:オンライン」のアート・ディレクターとなったのか

リッチ・ムーア監督が「間違いなくスーパースター」と絶賛する才能の塊に聞きました。

» 2018年12月20日 17時30分 公開
[西尾泰三ねとらぼ]

 今から5年ほど前、YouTubeに投稿されたある動画が大きな反響を呼んだ。

 動画のタイトルは「Basilisk(バシリスク)」。動画を作成したのは、当時、カナダのシェリダン大学に籍を置いていたアミ・トンプソン。大阪生まれのハーフである彼女が産み出した映像は将来を期待させるに十分な才能を感じさせ、世の耳目を集めた。

「Basilisk by Ami Thompson」

 あれから数年、私たちは再びアミ・トンプソンの名を目にすることとなった。若くしてディズニーのアート・ディレクターに抜てきされた彼女を。

 アミがアート・ディレクターを務めたのは、12月21日公開のディズニー・アニメーション最新作「シュガー・ラッシュ:オンライン」。ゲームの裏側の世界を舞台に、アーケードゲームのキャラクター、ヴァネロペとラルフの冒険と友情を描いた「シュガー・ラッシュ」の続編は、広大な“インターネットの世界”が舞台に。一足早く公開された米国では週末ランキングで3週連続No.1を獲得するなど注目を集めている。

アミ・トンプソン ディズニー アート・ディレクター シュガー・ラッシュ:オンライン インタビュー Basilisk リッチ・ムーア ジブリ

動画が取得できませんでした
「シュガー・ラッシュ:オンライン」本予告

 同作の監督であるリッチ・ムーアは、ねとらぼの取材で「間違いなくスーパースター」とアミを絶賛。「本当に誇りに思っている。彼女はまだ若いのにものすごい才能を持っていて、ユーモアやデザインへの理解も深く、アニメっぽいものからリアルなものまで何でも表現できて、毎回、こちらが想像していたもの以上にパーフェクトなものを必ず出してくれるからすごく信頼している。彼女にとってもこの作品は大きな一歩。これからの成長が楽しみだ」と惜しみない賛辞を寄せている。入社3年目でアート・ディレクターに抜てきされたシンデレラが久しぶりに日本へ帰国したことを知り、訪ねて話を聞いてみた。

アミ・トンプソン ディズニー アート・ディレクター シュガー・ラッシュ:オンライン インタビュー Basilisk リッチ・ムーア ジブリ 「最近刺激を受けたのは東京。今は米国に住んでいるので、カルチャーも違いますし、国が違うだけでやり方もこんなに違うのかという驚きがあります」と話すアミ・トンプソン

―― ご存じか分かりませんが、5年ほど前、あなたが大学の卒業制作で作られた「Basilisk」という映像がネットで大きな話題になりました。当時から既に才能の片りんが感じられましたが、あれからディズニーのアート・ディレクターになるまでどんな道のりを歩まれたのですか。

アミ 私もよく分からないんです(笑)。「ズートピア」でアート・ディレクターを務めたコーリー・ロフティスからオファーをいただいたんです。ちょうどエイプリルフールの日で、最初は冗談かと思っていましたけど。

 自分でも何でこんなことになっちゃったんだろうと驚くのですが、子どもの頃から絵を描くのは本当に大好きでしたので、その気持ちが伝わったんじゃないかなとも思います。リアル系だったりカートゥーン系だったり、いろいろなジャンルの絵を描くのが大好きですから、今作でもそうしたさまざまな絵を描けたのはとても楽しかったです。

アミ・トンプソン ディズニー アート・ディレクター シュガー・ラッシュ:オンライン インタビュー Basilisk リッチ・ムーア ジブリアミ・トンプソン ディズニー アート・ディレクター シュガー・ラッシュ:オンライン インタビュー Basilisk リッチ・ムーア ジブリアミ・トンプソン ディズニー アート・ディレクター シュガー・ラッシュ:オンライン インタビュー Basilisk リッチ・ムーア ジブリ

―― ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオやスタジオジブリでインターンの経験をお持ちですよね。

アミ はい。スタジオジブリのインターンは大学に入る前です。高校のときにアニメーターを目指そうと考えて、スタジオジブリにポートフォリオを送り、インターンをさせていただいたことでアニメーションというものを深く教わりました。そのインパクトが私にはとても強くて、もっと深くアニメーションを学びたいと考え、実家があるカナダのシェリダン大学で本格的にアニメーションを学びました。

―― シェリダン大学はアニメーションのハーバードと呼ばれるほどデジタルメディアの世界では有名です。卒業後のキャリアは選択肢があったでしょうが、ディズニーに決めたポイントは?

アミ 全てです。子どもの頃からディズニー・ショート(ディズニーの短編アニメ)も含めディズニー映画を全てみているくらい大ファンで、ディズニーのキャラクターをまねて絵を描いたりしていて、憧れが強かったので。小さい頃は、アニメーションのキャラクターは実在すると思っていて、「何でこんなリアルなキャラクターが描けるんだろう、アニメーションって魔法のように面白い」といつも思っていました。だから、いつか私も映画制作に携われたらと突き進んできたらこうなっていました。

アミ・トンプソン ディズニー アート・ディレクター シュガー・ラッシュ:オンライン インタビュー Basilisk リッチ・ムーア ジブリアミ・トンプソン ディズニー アート・ディレクター シュガー・ラッシュ:オンライン インタビュー Basilisk リッチ・ムーア ジブリアミ・トンプソン ディズニー アート・ディレクター シュガー・ラッシュ:オンライン インタビュー Basilisk リッチ・ムーア ジブリ

―― 若くしてディズニーのアート・ディレクターを務めるのがまずすごいですが、アート・ディレクターというのは実際にはどんな作業をするのですか?

アミ キャラクター全般を担当しました。私のメインの仕事は“絵を描くこと”といえますが、キャラクターをデザインしてOKが出れば終わり、ではありません。完成したデザインがモデリングに渡り、CGとなる。それがアニメーターに渡ってアニメーションになっていく。いろいろなステップがありますが、最後の最後まで他の部署やスタッフに付き添ってみんなでキャラクターを産み出していく作業でした。

 初めてアート・ディレクターの仕事を担当させていただいて、その中で学ぶこともたくさんありました。絵を描くだけでなく、何百人もの人と一緒に仕事をしていくので、コミュニケーションやプロセスなど、大変でしたが本当に楽しいプロジェクトでした。

アミ・トンプソン ディズニー アート・ディレクター シュガー・ラッシュ:オンライン インタビュー Basilisk リッチ・ムーア ジブリアミ・トンプソン ディズニー アート・ディレクター シュガー・ラッシュ:オンライン インタビュー Basilisk リッチ・ムーア ジブリアミ・トンプソン ディズニー アート・ディレクター シュガー・ラッシュ:オンライン インタビュー Basilisk リッチ・ムーア ジブリ
アミ・トンプソン ディズニー アート・ディレクター シュガー・ラッシュ:オンライン インタビュー Basilisk リッチ・ムーア ジブリアミ・トンプソン ディズニー アート・ディレクター シュガー・ラッシュ:オンライン インタビュー Basilisk リッチ・ムーア ジブリアミ・トンプソン ディズニー アート・ディレクター シュガー・ラッシュ:オンライン インタビュー Basilisk リッチ・ムーア ジブリ

―― ヴァネロペとラルフは前作にも登場しますよね。デザインもある程度固まっていたのでは?

アミ テクニカルな面でいうと、ディズニーはテクノロジーもすごく進化しています。以前、ディズニーのレンダリングソフトはRenderManを使っていましたが、今はHyperion。これがものすごくハイテクで、色や光の表現も本当に良くなって、ヴァネロペやラルフの映り方など全てにおいてきれいになっているのでアレンジを加えた部分もあります。とはいえ、できるだけそのキャラクターを壊さずに表現したかったので、前作を何度も見返して、ちゃんと描けるようにスケッチを繰り返したりもしました。

アミ・トンプソン ディズニー アート・ディレクター シュガー・ラッシュ:オンライン インタビュー Basilisk リッチ・ムーア ジブリ

―― 作中のお気に入りのシーンは?

アミ 個人的に今でも興奮が収まらないのはプリンセスのシーンです。最初にスクリーニングを見たとき、私を含めたスタッフ全員が「何だこれは?」と衝撃を受けました。私を含めてみんなプリンセスが好きですから、また会えてよかったという気持ちもあります。思い出深いシーンです。

アミ・トンプソン ディズニー アート・ディレクター シュガー・ラッシュ:オンライン インタビュー Basilisk リッチ・ムーア ジブリ

―― 仕事ではどんなチャレンジがありましたか?

アミ 今作の主な舞台である「インターネットの世界」というのがどんな世界かを考えるのがとても難しく、また楽しい作業でした。普段は画面越しで見る世界ですが、リアルなものだったり、カートゥーンなものだったり一つ一つの世界観を考えながら作っていきました。

 あと驚いたのは、ベストなストーリーを探求するディズニーの姿勢です。作品が完成するまでには、幾つものストーリーを作り替えながら作っていくんです。今作でも脚本が全く違うストーリーが幾つもありましたが、最終的に1つのストーリーが選ばれていく。ものすごく時間も根気もいるプロセスで、一緒に仕事させてもらっている中で学ぶことや知ることがたくさんありました。

アミ・トンプソン ディズニー アート・ディレクター シュガー・ラッシュ:オンライン インタビュー Basilisk リッチ・ムーア ジブリ

―― 実写と比べてアニメーションのいいところを挙げるとすれば?

アミ 私は恥ずかしがり屋で、心情を言葉で表現するのが苦手ですので、絵で表現する方が自分が出せるんです。アニメーションのいいところは、自分が思っているものを描いて表現できることに尽きます。頭の中に思い浮かべたものを絵に描いて、キャラクターを生きたように見せたりできるのは素晴らしいことで、それができるのがアニメーション。それに魅了されて、私は今も求め続けています。

アミ・トンプソン ディズニー アート・ディレクター シュガー・ラッシュ:オンライン インタビュー Basilisk リッチ・ムーア ジブリアミ・トンプソン ディズニー アート・ディレクター シュガー・ラッシュ:オンライン インタビュー Basilisk リッチ・ムーア ジブリアミ・トンプソン ディズニー アート・ディレクター シュガー・ラッシュ:オンライン インタビュー Basilisk リッチ・ムーア ジブリ

―― SNSを見ると、「セーラームーン」が好きなのかなと思いました。

アミ 大好きです。セーラームーンにはインスピレーションをたくさんいただいています。キャラクターの個性を設定するのは作品を作っていく上でとても難しいことなのですが、セーラームーンはそれがきちんと設定されて、かつリアルに表現しているのがすごいなと思うんです。デザインも映画制作も、ストーリーを考えるのは一番大切なことで、どのデザインにもストーリーが入っていてナンボなんですが、その情報密度はすごいですね。

―― 入社3年目でディズニーのアート・ディレクターというのはある種のシンデレラストーリーですが、そんな経験をした後で新たな目標などは生まれましたか?

アミ また新しい映画の企画があればアート・ディレクターをやってみたい気持ちは強いです。それと、何年掛かるか分かりませんし、学ぶことも多々ありますが、いつか監督として、自分の作りたいフィルムを作りたいです。好きなものはとことん追いかけていくべきだと思いますし、重要なことです。その間、努力したり大変なこともあるでしょうが、結果は必ず待っています。自分のペースで進むのが大事です。

(C)2018 Disney. All Rights Reserved.



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/16/news007.jpg まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  2. /nl/articles/2411/16/news013.jpg 自宅のウッドデッキに住み着いた野良の子猫→小屋&トイレをプレゼントしたら…… ほほ笑ましい光景に「やさしい世界」「泣きそう」の声
  3. /nl/articles/2411/15/news016.jpg 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. /nl/articles/2411/17/news066.jpg 「ヤバすぎwwww」 ハードオフに1万8700円で売っていた“衝撃の商品”が690万表示 「とんでもねぇもん見つけた」
  5. /nl/articles/2411/16/news014.jpg 330円で買ったジャンクのファミコンをよく見ると……!? まさかのレアものにゲームファン興奮「押すと戻らないやつだ」
  6. /nl/articles/2411/14/news014.jpg ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  7. /nl/articles/2411/11/news056.jpg 大量のハギレを正方形にカット→つなげていくと…… “ちょっとした工夫”で便利アイテムに大変身! 「どんな小さな布も生き返る」
  8. /nl/articles/2411/17/news038.jpg 58歳でトレーニングを始めたおばあちゃん→10年後…… まさかまさかの現在に「オーマイガー!!!」「これはAIですか?」【海外】
  9. /nl/articles/2411/17/news039.jpg 母犬に捨てられ山から転げ落ちてきた野良子犬、驚異の成長をみせ話題に 保護から6年後の“現在”は……飼い主に話を聞いた
  10. /nl/articles/2411/17/news004.jpg 「水曜どうでしょう」“伝説のシーン”そっくりな光景にネット騒然 「ダメだ笑っちゃう」「なまら怖い」
先週の総合アクセスTOP10
  1. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  2. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  3. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  4. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  6. 「この動画お蔵かも」 親子デートの辻希美、“食事中のマナー”に集中砲火で猛省……16歳長女が説教「自分がやられたらどう思うか」
  7. 老けて見える25歳男性を評判の理容師がカットしたら…… 別人級の変身と若返りが3700万再生「ベストオブベストの変貌」「めちゃハンサム」【米】
  8. 「ガチでレア品」 祖父が所持するSuica、ペンギンの向きをよく見ると……? 懐かしくて貴重な1枚に「すげえええ」「鉄道好きなら超欲しい」と興奮の声
  9. 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  10. 「天才」 グレーとホワイトの毛糸をひたすら編んでいくと…… でっかいあのキャラクター完成に「すごい」「編み図をシェアして」【海外】
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた