一般色覚者にはほぼ分からない“小さくて大きな違い” JIS改訂で「日本社会における色のルール」はどう変わったのか(1/3 ページ)

標識などに使われる「安全色」が変わったのですが、多くの人は気付いていないはず。

» 2018年12月29日 11時00分 公開
[ねとらぼ]

 道路工事中の赤ランプ、踏切、非常口のマーク―― 2018年4月、JIS(日本工業規格)の改訂に伴い、こういった場所に使われている「安全色」が変わったことをご存じでしょうか。

 設備の入れ替わりに時間がかかるため、ひょっとしたら、まだ“新色版”を目にしていない人もいるかもしれません。ですが、仮に見ていたとしても、多くの人は気付かないままでしょう。というのも、一般的な色覚を持つ人には、“小さな違い”しか分からない調整が行われているからです。


上下どちらが改訂前、改訂後なのか分かりますか?

 しかし、この改訂により、あるタイプの色弱者には「色味が感じられなかった標識がカラーになる」など“大きな変化”があるのだといいます。安全色に起こった小さくて大きな変化とは、どのようなものなのか。CUDO(カラーユニバーサルデザイン機構)副理事長・伊賀公一氏に話を伺いました。

約60年前から配慮されていた「色覚の多様性」

―― 基本的な話になりますが、規格化されている「安全色」とは何でしょうか。

 JISでは、工業製品などの規格が定められています。例えば、「全国各地の工場で、作られているネジの長さ、形状の単位や規格がバラバラ」という状況だと、どれを使ったらいいか分かりにくて不便ですから、そこを統一しようというわけです。

 同じように、色に関してもJIS規格があって、安全色はその名の通り、「安全に関する注意警告、指示、情報」などを示すのに使われます。具体例を挙げると、立入禁止などの標識や各種信号灯、駅の出口表示、気象情報……と多種多様です。

 安全色にはそれぞれの色に意味があって、例えば、赤色は「禁止」「停止」、緑色は「安全状態」「進行」などを表します。

―― 色と意味の対応は、直感的に理解しやすいですね。

 ただ、色弱などによって色の見え方には個人差があって、「ある人には見やすい色を使った標識などが、別の人には見にくい」という可能性があります。

 例えば、一般的に“目を引く”と考えられている色が、人によっては“目立たない色”に見えることがあります。「白い紙に黒色で文字などを書き、重要なところを赤色で強調」というのはよくある書き方ですが、ある種の色弱では、濃い赤と黒が似た色に見えるんですね。

―― 「ここは重要だよ」という意味を込めて、色を変えて目立たせようとしたところが、かえって見にくくなってしまうわけですか。


色覚のタイプによる見え方の違いを再現する「Chromatic Vision Simulator」にて制作。以下、比較画像は同サービスを利用したもの



 赤・黒とは別の色の組み合わせになりますが、ゲームの世界にも似た話があります。

 PS4用ソフト「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」は開発中、マルチプレイのチーム分けに「赤色・緑色」が使われていたものの、ある開発者の意見から「赤色・青色」に変更されたといいます。動画内では、その方は色弱で「一部の赤と緑を区別できない」と説明されています。


開発元は、米国のノーティードッグ社。色弱者の割合は、日本より欧米の方が高いことが知られています。なお、色弱はP型、D型といった種類に分類でき、人によって程度の差もあるため、「僕は色盲だから」という説明はやや言葉足らず




「赤・緑」「赤・青」でシミュレーション。この例ではP型、D型で色の違いが大きくなっています

―― そういえば、安全色にも緑色と赤色がありましたが、これは問題ないのでしょうか。

 アンチャーテッド開発者が区別できなかったのは「“一部の”赤と緑」。裏返すと「その一部を除けば、区別できる」わけです。緑色と一口に言っても黄緑色、濃い緑色のように幅がありますから、色合いを調整することで“他の色と見分けるのが難しいゾーン”を外すことができるんですね。

 この点については、1956年に施行された安全色のJIS規格でも考慮されていて、「色神異常者(色弱者のこと)にも、誤認・混同のおそれがない」色を使う、と明記されています。

―― 半世紀以上前から「色弱者にも見やすい色を使おう」という考え方があったんですね。

 ええ。でも、「とにかく他の色と見分けやすければいい」という発想だったようで、実は別の問題が起こっていたんですよ

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2409/17/news147.jpg 青木菜花、22歳急逝した“俳優夫の遺品”が3歳娘の宝物に……小さな手でぎゅっと握る子に「なんだか愛着湧いちゃうな」
  2. /nl/articles/2409/17/news060.jpg 「すごい」「ヤバッ」 ATMでお金を下ろしたら…… “衝撃の結果”にSNS興奮 「たまにはじっくり見とかないとダメ」
  3. /nl/articles/2409/16/news018.jpg 88歳女性「誰もしてないようなメッシュにしたい」→驚がくの大変身が850万再生 「どぅえええええ?!」「カッコ良すぎて憧れます」
  4. /nl/articles/2409/16/news010.jpg 100均のクッションゴム、まさかの使い方に目からウロコ 家中の“プチストレス解消法”に「思いつかなかった!」「これはすごい」
  5. /nl/articles/2408/11/news034.jpg 「なんなんだよwww」 新紙幣期待してATMで引き出し→“信じられない結果”に思わず二度見 「逆にすごい」
  6. /nl/articles/2409/15/news052.jpg 高校3年生で出会った2人が、15年後…… 世界中が感動した姿に「泣いてしまった」「幸せを分けてくださりありがとう」【タイ】
  7. /nl/articles/2409/16/news037.jpg 「とんでもなく遠い」 空港に向かうドライバーを絶望させる“衝撃の標識”が話題 「なぜそこに」「飛行機が必要そうな距離」
  8. /nl/articles/2409/17/news173.jpg 普通に買い物してる!? 佐々木希、 “すっぴんノーガード状態”で地元スーパーに出没「違和感半端ない」「隠しきれない美人オーラ」
  9. /nl/articles/2409/16/news032.jpg 100均の紙粘土でこのクオリティーを!? 『ファイブスター物語』のモーターヘッドを制作、野生の原型師に称賛
  10. /nl/articles/2409/17/news137.jpg “リビング約100畳の豪邸”前澤友作、屋内の“超巨大プール”もとんだ常識外れ……ゴージャス環境&全長18メートルに「異次元すぎ」「施設が高級ホテル」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 高校3年生で出会った2人が、15年後…… 世界中が感動した姿に「泣いてしまった」「幸せを分けてくださりありがとう」【タイ】
  2. 「エグいもん売られてた」 ホビーオフに1万1000円で売られていた“まさかの商品”に「めちゃくちゃ欲しい」
  3. “緑の枝付きどんぐり”をうっかり持ち帰ると、ある日…… とんでもない目にあう前に注意「危ないところだった」
  4. 「僕ですかこれ」 垢抜けたい男性が“劇的イメチェン”→その大変身に「すげええ!」「泣けたわ」と仰天
  5. 第5子妊娠中の宮崎麗香、子どもたちとの“奇跡の1枚”が撮影される ギャップ満載な“現実”ショットも話題に
  6. そうはならんやろ “バラの絵”を芸術的に描いたら……“まさかの結果”が200万再生 「予想を超えてきた」【海外】
  7. 天皇皇后両陛下の那須静養、愛子さまが天皇陛下のため蚊を手で払う場面も…… “仲むつまじいショット”が約240万再生
  8. 「脳がおかしくなった」 新宿駅を出る→“まさかの光景”に思わず三度見 「意味わからん」「田舎者にはマジでダンジョン」
  9. 合宿前の兄たち、0歳末っ子と離れたくなくて…… メロメロな“別れの光景”に「あーもうなんて尊い」「幸せ」430万再生突破
  10. 雑草だらけの庭が“たった1台の草刈り機”で…… “見事な変化”に7000万再生 「よくやった」「まさにプロ」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 釣れたキジハタを1年飼ったら……飼い主も驚きの姿に「もはや魚じゃない」「もう家族やね」 半年後の現在について飼い主に聞いた
  2. 「もうこんな状態」 パリ五輪スケボーのメダリストが「現在のメダル」公開→たった1週間での“劣化”に衝撃
  3. 「コミケで出会った“金髪で毛先が水色”の子は誰?」→ネット民の集合知でスピード解決! 「優しい世界w」「オタクネットワークつよい」
  4. 庭で見つけた“変なイモムシ”を8カ月育てたら…… とんでもない生物の誕生に「神秘的」「思った以上に可愛い」
  5. 「米国人には想定できない」 テスラが認識できない日本の“あるもの”が盲点だった 「そのうちアップデートでしれっと認識しそう」
  6. ヒマワリの絵に隠れている「ねこ」はどこだ? 見つかると気持ちいい“隠し絵クイズ”に挑戦しよう
  7. 「昔はたくさんの女性の誘いを断った」と話す父、半信半疑の娘だったが…… 当時の姿に驚きの770万いいね「タイムマシンで彼に会いに行く」【海外】
  8. 鯉の池で大量発生した水草を除去していたら…… 出くわした“神々しい生物”の姿に「関東圏では高額」「なんて大変な…」
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「なんでこんなに似てるの」 2つのJR駅を比較→“想像以上の激似”に「駅名だけ入れ替えても気づかなそう」