スルメとスイカで“スルメスイカ” 同人誌『キ生物図鑑』に描かれた動物と植物の融合が奇妙でぞわぞわ司書メイドの同人誌レビューノート

リアルな描かれ方にストーリーを感じます。

» 2019年01月13日 12時00分 公開
[シャッツキステねとらぼ]
シャッツキステ

 年明けから穏やかな日差しが続いていた私設図書館のまわりでも、ここ最近急に冷え込んできました。年末年始、皆さまがお過ごしになったところはどんな風景だったでしょうか。こちらでも、ある日はぽかぽかお部屋の中で窓から差し込む冬晴れの陽射しに日向ぼっこをし、またある日は小雪舞い始めた寒風が窓ガラスを鳴らすのを聞いて、と、がらりと様相の違う冬景色が繰り広げられています。一つの季節のなかでくるくる変わる「冬らしさ」を体感していると、なんだかふわふわと別世界に連れて行かれるような……。今回は、ふしぎなふしぎなイラストの同人誌です。

今回紹介する同人誌

『キ生物図鑑』

B5 24ページ 表紙・本文カラー

作者:まりも


同人誌 シャッツキステ キ生物図鑑 空想 「キ」に込められた意味を探りたくなるタイトルです

キクラゲは菊クラゲ? 言葉遊びから生まれた奇妙ないきものたち

 こちらの同人誌は、いきもののイラスト集です。ただし、描かれるのはどこかで聞いたことのあるような、それでいてどこででも見掛けたことのない、架空のいきものたちです。

 例えばキクラゲ。「キクラゲってクラゲだと思っていた」ということ、ありませんか? こちらのご本によりますと、キクラゲとは「菊」+「クラゲ」。体を発光することができ、夜の海に漂うきれいな姿が見られるのですって。でもお花の部分には毒があるので要注意とのこと。……作者さんオリジナルのイラストに、こういう解説がついているのがいかにも図鑑ぽくって高まります!

 こういうノリでいくならば、スルメスイカは「スルメ」+「スイカ」。緑色でしましまなイカは、海に生息しているのだとか。丸い頭部は暑い時期に食べると甘くておいしいらしいですよ!

 「キクラゲ」も「スルメスイカ」も、ちょっとした言葉のつながりや連想で、動物と植物が組み合わされた、不思議ないきものになっています。「もしかしたら、キクラゲってクラゲなんじゃない?」そんな言葉遊びからの想像が、目の前に細密なイラストになって示される楽しさがあります。

同人誌 シャッツキステ キ生物図鑑 空想 海で浮かんでいるとしたら、夏場はひんやりしていて、採れたてはさぞおいしいでしょうねぇ

同人誌 シャッツキステ キ生物図鑑 空想 たくさん浮かんだところを見てみたい

絶妙にぞわっ! クラシックなムードが恐怖を呼ぶ

 しかし、そのいきものたちを見ていると、ただただ楽しいだけじゃなくて、なんだかぞわっとする感覚があるのはどうしてかしら……と思ってページをめくっていたとき、やられました! 私がうっ! と怯んだのは「アジサイ」のページです。「鯵」+「紫陽花」のアジサイは、たくさん集まった鯵が、満開のお花もかくやという勢いで、ぽっかりと口を開けて固まっています。小さなものが集合して一輪になっているという状態が、花弁が鯵になることでインパクトを放ちだしたのを、まざまざと見せつけられます。……あああ、鯵がみんなこっちを見ている気がしますよ……。

 そして「白サイ」の「白菜」+「サイ」は、サイが白菜に寄生されてゆき、おなじみの皮の厚そうなサイから、やがて薄く瑞々しい葉を纏う白菜が体を覆っていくさまが描写されているのです。

 単純に2つのものを組み合わせたなら、それらをもっとデフォルメしたり、カラフルに描いたりすることも可能だったでしょう。けれどあえて繊細にリアル寄りの描写をしながら、クラッシックなペン画のような筆づかいと、抑えた色味と相まって、2つのものが組み合わされた故に生まれた違和感にぞわっと恐怖し、うんと過去の探検家が発見して描き残したようなノスタルジックな雰囲気と、今はもう存在していない絶滅動物を見ているような、寂寥(せきりょう)感を呼び起こされました。

同人誌 シャッツキステ キ生物図鑑 空想 そろってこちらを見ていそうなアジサイ

同人誌 シャッツキステ キ生物図鑑 空想 白サイの朽ちてゆく感じがこわいです

寄生という融合。生き物は動いてゆく

 イラストはどれも動物と植物の融合です。登場するいきものは、空想なのに、その行く末が気になるような描かれ方だと感じます。それはどのいきものも動くことを前提に設定されているからではないでしょうか。キクラゲは漂い、白サイはサイの身を借りてゆっくりと生息範囲を変えていきます。普段、根を張ってどっしりと構え、ときには儚く1年で枯れていく植物の「静」が、「動」のいきものの身に移ることで、どこに行こうとしているのか……。

 言葉遊びの足し算を経て、出てきた答えは摩訶不思議ないきもの。「静」と「動」の融合したその先を、恐る恐るのぞいてみたくなりました。

同人誌 シャッツキステ キ生物図鑑 空想 薔薇の花咲く「カピバラ」。薔薇が咲いていても気にしなさそうなところは、ほんわかした雰囲気かも……

サークル情報

サークル名:まりもの家

Twitter:@marimo_8_house

次回イベント参加予定:コミティア127


今週のシャッツキステ

シャッツキステ メイド 同人誌 冬休みに整理していたら、作冬のころの写真が出てきました。ちょうど1年前くらいに撮ったはずなのですが、日差しが意外と明るそうで、冬の午後のやさしい光に思いをはせました。初春っていい言葉ですよね

著者紹介

シャッツキステ メイド 同人誌 司書メイド ミソノ 司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る

関連キーワード

同人誌 | クラゲ | イラスト | 動物 | カピバラ


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
先週の総合アクセスTOP10
  1. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  2. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  3. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  4. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  5. 田代まさしの息子・タツヤ、母の逝去を報告 「あんなに悲しむ父親の姿を見たのは初めて」
  6. 「遺体の写真晒すのはさすがに」「不愉快」 坂間叶夢さんの葬儀に際して“不適切”写真を投稿で物議
  7. 大友康平、伊集院静さんの“お別れ会”で「“平服でお越しください”とあったので……」 服装が浮きまくる事態に
  8. 妊娠中に捨てられていた大型犬を保護 救われた尊い命に安堵と憤りの声「絶対に許せません」「親子ともに助かって良かった」
  9. 極寒トイレが100均アイテムで“裸足で歩ける暖かさ”に 今すぐマネできるDIYに「これは盲点」「簡単に掃除が出来る」
  10. 「奥さん目をしっかり見て挨拶してる」「品を感じる」 大谷翔平&真美子さんのオフ写真集、球団関係者が公開
先月の総合アクセスTOP10
  1. 釣れたキジハタを1年飼ってみると…… 飼い主も驚きの姿に「もはや、魚じゃない」「もう家族やね」と反響
  2. パーカーをガバッとまくり上げて…… 女性インフルエンサー、台湾でボディーライン晒す 上半身露出で物議 「羞恥心どこに置いてきたん?」
  3. “TikTokはエロの宝庫だ” 女性インフルエンサー、水着姿晒した雑誌表紙に苦言 「なんですか? これ?」
  4. 1歳妹を溺愛する18歳兄、しかし妹のひと言に表情が一変「ちがうなぁ!?」 ママも笑っちゃうオチに「かわいいし天才笑」「何度も見ちゃう」
  5. 8歳兄が0歳赤ちゃんを寝かしつけ→2年後の現在は…… 尊く涙が出そうな光景に「可愛すぎる兄妹」「本当に優しい」
  6. 1人遊びに夢中な0歳赤ちゃん、ママの視線に気付いた瞬間…… 100点満点のリアクションにキュン「かわいすぎて鼻血出そう!」
  7. 67歳マダムの「ユニクロ・緑のヒートテック重ね着術」に「色の合わせ方が神すぎる」と称賛 センス抜群の着こなしが参考になる
  8. “双子モデル”りんか&あんな、成長した姿に驚きの声 近影に「こんなにおっきくなって」「ちょっと見ないうちに」
  9. 犬が同じ場所で2年間、トイレをし続けた結果…… 笑っちゃうほど様変わりした光景が379万表示「そこだけボッ!ってw」
  10. 新幹線で「高級ウイスキー」を注文→“予想外のサイズ”に仰天 「むしろすげえ」「家に飾りたい」