「2ちゃんねる」誕生から20年 名無しさんたちに聞いた“昔ながらの匿名掲示板”の魅力と今なお存続する理由連載「わが青春のインターネット」

SNS全盛の時代に、なぜ巨大掲示板群は生き残っているのでしょうか。

» 2019年08月20日 18時00分 公開
[マッハ・キショ松ねとらぼ]

 ある程度の年代の人なら、かつて巨大掲示板群「2ちゃんねる」が、かなり“あやしい”存在だったことを覚えているでしょう。独特なネットスラングが飛び交い、リンク先はブラクラ、書き込んでいるのは匿名のユーザーばかり。「殺伐」「アングラ」などと形容されていました。

 しかし、当時の“名無しさん”たちに取材したところ、返ってきたのは「自分に友達が少なかった理由を教えてくれた場所だった」「いろいろなことに長けた人たちが集まった『サーカス』に見えた」「『個』が求められない心地よさがあった」。一般に根付いているイメージとは大きく異なるものでした。

 令和元年を迎えた2019年は、2ちゃんねる誕生20周年の年。Twitter、InstagramといったSNSが台頭した今でも使われ続けている“匿名掲示板の魅力”とは何なのでしょうか。


2004年時点の2ちゃんねる入り口(Webアーカイブより)



※“分裂騒動”により、2ちゃんねる関連サイトの名称はややこしくなっています。本記事ではかつての「2ch.net」を「2ちゃんねる」、そこから発生した「5ch.net」を「5ちゃんねる」、「2ch.sc」を「2ちゃんねる(sc)」と表記します

「ハッキング」から「今晩のおかず」まで

 話を伺った名無しさん3人(女性2人、男性1人)が、初めて書き込みをしたのはいずれも2004年前後。“2ちゃんねるの第一印象”について聞いたところ、その答えは三者三様でした。

 「『私ブスだから』という女子同士のよくある会話に『写真出せ』『ブスは来るな』と言っている人がいて、リアルでは考えられないヒドい世界にドン引きした

 「いろいろなことに長けている人たちの集まり。『サーカス』『びっくり人間大集合』のようなイメージ

 「あまり覚えていませんが、sage進行(※)とかの独自ルールに困惑した覚えがある

※sage進行:スレッドの表示順位が上がらない投稿の仕方を推奨すること

 「『ハッキング』から『今晩のおかず』まで」というキャッチコピーの通り、この巨大掲示板群はいくつもの「板」、その中に膨大な「スレッド」を抱えています。有益な情報が得られるところもあれば、誹謗中傷の温床になっているところもあり、笑える投稿が集まるスレもあるという、極度に雑多な空間。

 どの板を利用していたのか尋ねてみても、ある人は「生活の変化に合わせて化粧→メンタルヘルス→株式と変わっていた」、またある人は「10年以上、男性向けゲーム、漫画を見ている」とバラバラ。同じ2ちゃんねるでも見る場所や見方が違えば、抱く印象が大きく変わってしまうのは当然のことでしょう。


ニュー速VIPのスレッド一覧ページ(5ちゃんねる)。見ていると目がチカチカするほどズラーっと並んでおり、話題もバラバラ


3人の名無しさんが初めて書き込みをした2004年前後は、ちょうど「電車男」が注目を集めていたころ。関連の過去ログをまとめたWebサイト(キャプチャー画像)が作られたほか、書籍化、テレビドラマ化なども。当時の筆者には「会ったこともないオタク青年の恋路を、名無しさんたちが応援する」というポジティブな2ちゃんねる観が新鮮でした

名無しさんと関わるということ

  それでも、あえて“2ちゃんねるらしさ”を考えるなら、まず挙がるのは「匿名性の高さ」。正体不明の誰かと関わるなかで生まれる出来事もまた、一口に説明できるものではなかったようです。

 「気になる人ができて美容系スレを見ていたら、整形相談で『(手術するお金がないから)自分でエラを削りたいけどどうしたらいい?』『自分で脂肪溶解注射を打ちたい。注射器はどこで買える?』みたいなヤバい質問に即座に真面目なレスがついていて、2ちゃんの深さを思い知った

 「ノリでクソスレ立てたり(まとめサイトに取り上げられた)、ネタ投稿したりして遊んでたんですが、あるとき、VIPの年代スレで馴れあってみたら『漏れ女きめえ』(※)って言われて、ショックで半年ROMってました(※)

 「自分では知りえないようなゲームやマンガの情報が書き込まれていて、『こんなに詳しい人たち、実際には会えないんだろうな』と思ってました

※漏れ:「俺」を意味する、いわゆる「2ちゃんねる用語」。女性が用いることもあったといいます

※ROM:ROMは「Read Only Member(書き込みはせず、読むだけの人)」のこと。動詞化すると「ROMる」


SNSが国民的に広まった今では当たり前のことですが、1人で向かい合っているモニターの向こう側にも“誰か”がいました

 リアルの対人関係では起こりそうにないことも、2ちゃんねるでは起こりえます。取材時にはショックな出来事を聞くことも多かったのですが、それがある種の荒療治として、人間的な成長につながることもあったようです。

 「上京して友達ができなくて、とにかく暇で2ちゃんを見ていたころ、一度メチャクチャたたかれたことがあって(笑)。『スレの雰囲気に合わない発言してるぞ。空気読め』みたいなことだったんですけど、リアルではそういうことを怒られたことがなくて。

 自分のコミュニケーションのまずさに気付いて、友達が少なかった理由が初めて理解できたような気がしました。20年以上生きてきて面と向かって言われなかったことを、指摘されたのは大きかったです

 また、現実世界では難しいこのような匿名性は、「TwitterやInstagramといったSNSと、2ちゃんねるの違い」という観点でもキーになるようです。ここについては、取材対象3人の意見が比較的似ている印象を受けました。

 「SNSは自分自身を発信する場所、2ちゃんねるは共通のテーマを発信する場所だと思います。興味のベクトルが自分なのか、話題なのかという差

 「SNSは現実世界に近くて、社交辞令もモラルも建前もある。だから、モラルに反する投稿は全力で炎上するし、多少空気を読まない発言をしても、リアルな世界同様うやむやになってしまう。『建前無用で好きなことが書ける』という点では、2ちゃんの方が面白かった

 「2ちゃんでもコテハン(※)やスレ主(※)は目立ちますけど、基本的には『個』が求められない場所だと思います。匿名で使えたり、掲示板特有の口調で話すと自分ではないみたいに振る舞えたり。反対にSNSでは『個』が求められるので、ある意味、逆かなあ

※コテハン:固定ハンドルネームの略称

※スレ主:スレッドを立てた人のこと


電車男関連スレッドの一部。電車男が話題の中心になり、名無しさんたちの投稿が集まっています

“昔ながらの匿名掲示板”が生き残っているワケ

 誕生から20年が過ぎ、2ちゃんねるに始まる掲示板群の存在感は以前ほど強くありません。次から次へと新サービスが現れるインターネットの変化の速さを考えれば、これだけの期間、生き残っているだけでも驚くべきことでしょう。“昔ながらの匿名掲示板”はなぜ今なお存続しているのか、取材対象の1人はこう話してくれました。

 「私は現在、ボランティアとして5ちゃんねるの運営に関わっています。全体を把握しているわけではないのですが、私の分かる範囲だけでもボランティアスタッフは30人くらいいます。あれだけ『板』があるとけっこうな管理維持費がかかるでしょうから、人件費に予算を割くのが厳しいのかもしれません。

 5ちゃんねるを閉鎖させようとする人もいるんですけど、それでも維持できているのは皆の善意というか。運営側に金もうけのためではなく、『楽しむ場所を作りたい』という気持ちがあるから存続しているのだと思います

 強い愛情を感じさせる説明ですが、その一方で「同掲示板群がいつまで続くか」という話題になると、彼は俯瞰(ふかん)的な態度を見せました。

 「掲示板で新しいタイプのスレが現れたら、その影で古いスレが消えていく。新しいカテゴリーが現れれば、古いカテゴリーが消えていく。諸行無常というか、新しいものが定着すれば、古いものは廃れていくものだと思います。

 インターネット全体でもこういったサイクルは起こるので、2ちゃんねるから始まった掲示板群もいつかは廃れるんでしょうね


 2ちゃんねるを揶揄(やゆ)した表現に「便所の落書き」というものがあります。書き込み内容のヒドさなどが由来とされていますが、トイレで他人との交流を楽しんだり、情報交換したりする人はまず考えられませんから、あくまでも匿名掲示板の特徴を“部分的に捉えた”表現でしょう。

 2ちゃんねるをあえて比喩するならば「居酒屋などに置かれている、来店者が自由に書いていいノート」の方が実態に近いのではないか、というのが筆者の印象です。居酒屋のノートは不特定多数が開けますが、関わり方は人それぞれ。読むだけの人もいれば、熱心に書き込む人もいます。良いことを書く人もいれば、酔い方が悪いのか、そもそも性格が悪いのか、ヘンなことを書く人もいます。

 ですが、ある日、店主が「長年ノートを置いてきたが、もう撤去しよう。今はSNSが流行っているのだから、書きたいことがあるならそっちを使ってくれ。似たようなことができるだろう」と言い出したら、利用者たちはどう感じるでしょうか。

 FacebookにはFacebookの雰囲気が、TwitterにはTwitterの雰囲気があるように、今回取材に応じてくれた名無しさんたちは、SNSとは違う匿名掲示板の雰囲気、そこだから書き込めることを肌で理解しているようでした。

 もしも、その“昔ながらの匿名掲示板”がなくなってしまったら―― ちょっと大げさかもしれませんが、「ネット上の居場所」「表現したいことを表現する自由」を喪失したような感覚を覚える人が、少なからず現れるのではないでしょうか。


連載「わが青春のインターネット

この記事は、ねとらぼとYahoo!ニュースの共同企画による連載記事です。平成時代とともにに生まれ、育ってきたインターネット。これまで約30年、さまざまなWebサービスや出来事、有名人が生まれては消えていきました。かつて一世を風靡した「あのサービス」を振り返り、同時に今のネットの問題点を考えることでWebの栄枯盛衰や怖さを伝えつつ、失われることのないネットの楽しさの本質に迫っていきます。そして、令和時代のインターネットの将来について考えていきます。



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

先週の総合アクセスTOP10
  1. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  2. 富山県警のX投稿に登場の女性白バイ隊員に過去一注目集まる「可愛い過ぎて、取締り情報が入ってこない」
  3. 2カ月赤ちゃん、おばあちゃんに少々強引な寝かしつけをされると…… コントのようなオチに「爆笑!」「可愛すぎて無事昇天」
  4. 異世界転生したローソン出現 ラスボスに挑む前のショップみたいで「合成かと思った」「日本にあるんだ」
  5. 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  6. 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  7. 1歳赤ちゃん、寝る時間に現れないと思ったら…… 思わぬお仲間連れとご紹介が「めっちゃくちゃ可愛い」と220万再生
  8. 業務スーパーで買ったアサリに豆乳を与えて育てたら…… 数日後の摩訶不思議な変化に「面白い」「ちゃんと豆乳を食べてた?」
  9. 祖母から継いだ築80年の古家で「謎の箱」を発見→開けてみると…… 驚きの中身に「うわー!スゴッ」「かなり高価だと思いますよ!」
  10. 「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」