アニメ制作会社「STUDIO 4℃」社員が未払い残業代を求めて提訴 「海獣の子供」の制作進行を担当、労基が是正勧告も未だ支払われず
顔出しで業界の悪習を変えたいと語るAさんにお話を伺ってきました。
ブラック企業ユニオンが10月18日に厚生労働省記者クラブで会見を開き、アニメ制作会社「STUDIO 4℃(スタジオよんどしい)」の社員Aさんが未払い残業の支払いを求めて同社を提訴したと発表しました。
会見にはSTUDIO 4℃で制作進行として働くブラック企業ユニオンの組合員・Aさんのほか、旬報法律事務所の大久保修一弁護士、蟹江鬼太郎弁護士、ブラック企業ユニオン代表の坂倉昇平さんが出席。提訴に至るまでの経緯を語りました。
今回の訴訟で求めているのは、未払いとなっている残業代286万7375円(2017年4月1日〜2019年7月31日)と付加金。Aさんは専門業務型裁量労働制を適用されて勤務していましたが、この「裁量労働制の適用が違法であったことが今回の訴訟の主張な論点の一つとなる」と坂倉さんらは語ります。
すでに三鷹労働基準監督署から是正勧告を受けているSTUDIO 4℃
2019年4月11日から未払い残業代の支払いを求めているAさんですが、STUDIO 4℃側が支払いに応じなかったため、Aさんが三鷹労働基準監督署にこの状況を申告したところ、同労基署は6月25日付でSTUDIO 4℃に対して労働基準法37条違反についての是正勧告を行ったといいます。
しかしSTUDIO 4℃側は「タイムカードに記載された時間は実労働時間ではない」と主張。残業代の支払いは現在に至るまで行われていないと言います。
残業代請求後に基本給6万円が減額に
坂倉さんらによると、残業代の請求をしたのち、Aさんにのみ「1年前の労働条件通知書(※)」を提出してきたというSTUDIO 4℃。その内容は、Aさんは「裁量労働制」が適用されている社員であるため残業代が支払われない対象だというものでした。しかし、Aさんはこの「労使協定」をこれまで見たことがなかったばかりか、前年度の基本給が22万円であったのに対し、本年度の基本給は15万8600円と大幅な減額がなされているなど不可解な点が多いといいます。これについてAさんはまったく知らされておらず、同意した記憶はないとのこと。
(※)労働基準法第15条第1項には、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と規定されており、労働者に労働条件通知書を提示しないことは違法(参考)。
これについて蟹江弁護士らは「STUDIO 4℃の主張では、2018年4月から2019年4月までAさんは裁量労働制が適用されているとあるが、この労働条件通知書が渡されたのは2019年5月のこと。また適用条件である専門業務型裁量労働制に関する労使協定が作成されたのは2019年2月からなので、それ以前に対しては裁量労働制は適用されない」と語ります。また労使協定によれば、みなし労働時間は1日9時間15分となっていましたが、実際には「最大でひと月約103時間の残業があった」としています。
Aさん「STUDIO 4℃だけの問題ではなく業界全体の問題。労基署の対応にも限界を感じる」
会見に際してAさんは「(未払い残業は)アニメ業界では当たり前のようなもので横行している」とコメント。アニメ業界の1社だけの問題ではなく、映像業界全体の問題だと話し、「STUDIO 4℃だけが払っていないというものではありません。アニメ産業のビジネスモデルそのものが問題になっていて、クリエイターやアニメーター、制作進行など現場の人間にしわ寄せがきているのです」と胸の内を明かしました。
またアニメ制作現場の状況については「そもそも作品を制作するための適正な予算が用意されておらず、そのしわ寄せが低賃金へとつながっています。低賃金と長時間労働は密接な関係があります。低賃金だからこそキャパシティ以上の仕事を取ってこなくてはいけないということにつながるからです。残業代をきちんと支払うことや、クリエイターに適正な賃金が支払われることは長時間労働の抑止化につながります。自分がやっていることはお金(残業代)を求めることであるのですが、ある意味では働き方や健康を守ること、長時間労働の抑止につながるのではないかと考えています」と本件の訴訟を通じて業界へ一石を投じたい旨を明かしました。
またねとらぼ編集部から「こうした交渉や訴訟に踏み切ることで仕事に影響は出ていないか」を聞かれると「正直働きづらくはなっています」とAさん。具体的には携わっていた「海獣の子供」の公開を無事に迎えて次の作品の話も来ていたのに、次第に仕事が振られなくなってきていること、これまでよく話していた上司や後輩もAさんに対して話しかけづらそうにしているということ、会社の上長から「敏感な問題を抱えているAさんはアニメーターのいる2階の作画室には出入りしないように」と言われたことなどを明かしました。
そのうえで「あまり言いたいことではありませんが、『あいつも一緒になって残業代を請求しようとしているんじゃないかと思われるので、正直Aさんとは話したくないんです』と言われたことがあります」と答えました。また「アニメが好きでこの仕事を目指したと思うが、今後もアニメ業界で働き続けるか」について尋ねてみたところ、「非常に迷っています」と言葉を詰まらせました。
今回の会見でAさんが問題提起したのはアニメ業界の問題だけではありません。それは労基署でできる対応には限界があるということ。「労基署で対応して下さった方の個別の問題というわけではなく、行政のシステムが十分ではなくできることには限界があるんだなと強く感じました」と語り、今回でいえば、タイムカードを根拠に「STUDIO 4℃残業代を支払うべき」という内容については是正勧告できたものの、具体的な金額であったり、労働時間であったりという部分に関しては介入が難しいという状況だったと振り返りました。
裁判費用はクラウドファンディングで
会見では、Aさんの残業代未払いを求める訴訟についての費用50万円を10月18日にスタートするクラウドファンディング「アニメ・クリエイティヴ業界の違法な裁量労働制に、訴訟でルールをつくりたい!」の支援で集めたい方針であることも発表されました。坂倉さんによると、近年アニメ制作会社に関する労働相談が増えてきており、現在交渉中のマッドハウスの交渉(関連記事)のほかにも、有名アニメ制作会社に関する相談が舞い込んでいるとのこと。こうした状況について坂倉さんは「アニメ業界をはじめ、クリエイティブ業界、映像業界、エンタメ業界など裁量労働制が広く適用されているところが多く、あきらめている人も多いのですが、今回こうして声を上げた方がいて、それが業界全体に判例を作っていくことにつながっていくと考えています。Aさん個人のためにでもあるけれども、各業界を健全化していくための訴訟なんだとご理解いただき、ぜひ応援していただければと思います」と語りました。
またAさんはクラウドファンディングについて「さまざまな業界の方が共感して下さる訴訟なのではないかと感じています。『アニメ文化』というものにも関わる訴訟であり、作り手はもちろんですが、視聴する側の皆さんにも興味を持っていた抱ければと考えています。また雇う側の意識も変えなくてはなりませんが、雇われる側がきちんとした対価のもとで労働するという意識を持つことが一番大切です。支援と一言で言っても、さまざまな形の支援があると思うので、ぜひこの機会にアニメ業界、クリエイティブ業界、映像業界の働き方を考え直してほしいです」と語りました。
(Kikka)
関連記事
- アニメ会社マッドハウス、労基から是正勧告 スタッフが月393時間労働や37連勤など労働実態を証言
マッドハウスは問題を一部認めていますが……。 - なぜアニメの放送は“落ちる”のか 放送が落ちる理由や待遇問題について現役アニメーター・制作進行に聞いた
アニメーターからの見方、制作進行からの見方、双方を取材しました。 - 放送が落ちるのは「悪い状態」に慣れてしまっているから 女性アニメーターに聞くアニメ業界の今
女性アニメーターの小谷杏子さんにお話を聞きました。 - 「諸悪の根源は製作委員会」ってホント? アニメ制作における委員会の役割を制作会社と日本動画協会に聞いた
製作委員会ってそもそも何をする組織なの。 - 東京駅の自販機で「売り切れ」続々発生も「頑張れ!」「もっとやれ」の声 背景にサントリーグループの残業代未払い問題
ブラック企業ユニオンや、順法闘争に参加しているジャパンビバレッジの社員にも話を聞きました。 - 「全財産が138円」「ライフラインがどんどん止まってる」 人気エステサロン「白鳥エステ」の賃金未払い問題で何が起きていたのか
白鳥エステことHSbodydesignの賃金未払い問題の状況を整理しました。 - 「しゃぶしゃぶ温野菜」めぐるブラックバイト問題 学生バイトへの暴行容疑で元従業員逮捕
昨年9月から続いていた「しゃぶしゃぶ温野菜」のバイトと店側のブラックバイト事案。11月28日に運営企業DWE JAPANの元従業員が逮捕されました。 - 今治タオル工業組合、NHK「ノーナレ」報道の企業は「組合員等の縫製の下請企業」と報告
「今治タオルの振興を図る取り組みをしています当組合としましても、社会的責任及び道義的責任があると考えており、この問題を非常に重く受け止めております」 - 「全問正解で有給チャンス」 サントリー子会社のジャパンビバレッジ、“有給取得クイズ”メールの存在認める
「従業員はおもちゃじゃない」など、ジャパンビバレッジに対し批判が集まっています。 - ブラックな事案で送検された企業を一覧にしたサイト「ブラック・ブラック企業」が登場 件数が棒グラフで一目瞭然に
厚労省の“ブラック企業”リストから知りたい情報を得るためのサイトです。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
1歳赤ちゃん、寝る時間に現れないと思ったら…… 思わぬお仲間連れとご紹介が「めっちゃくちゃ可愛い」と220万再生
-
【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
-
「プロ野球チップス」で誤字 伊藤大海投手を「176m」と記載してカルビー謝罪
-
「ママ友襲来10分前」→さぁ、どうする……? 大爆笑の“あるある”再現が400万再生突破「腹ちぎれました」「バナナ食べんでもええやん」
-
富山県警のX投稿に登場の女性白バイ隊員に過去一注目集まる「可愛い過ぎて、取締り情報が入ってこない」
-
21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
-
「大型魚の餌に!!」 熱帯魚店の“思わず目を疑うPOP”に恐怖 「サメでも飼うの?」
-
2カ月赤ちゃん、おばあちゃんに手をスリスリされた瞬間…… 愛と幸せあふれる空間に笑顔になる「これぞ天使だ」
-
漂う違法感 東京に戻る息子へ持たせた“大量のブツ”に「九州人あるある」「帰省からの帰りいつもこれ」の声
-
異世界転生したローソン出現 ラスボスに挑む前のショップみたいで「合成かと思った」「日本にあるんだ」
- 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
- 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
- 安達祐実、成人した娘とのレアな2ショット披露 「ママには見えない!」「とても似ててびっくり」と驚きの声
- 兄が10歳下の妹に無償の愛を注ぎ続けて2年後…… ママも驚きの光景に「尊すぎてコメントが浮かばねぇ」「最高のにいに」
- “これが普通だと思っていた柴犬のお風呂の入れ方が特殊すぎた” 予想外の体勢に「今まで観てきた入浴法で1番かわいい」
- 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
- 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評
- お花見でも大活躍する「2杯のドリンクを片手で持つ方法」 目からウロコの裏技に「えぇーーすごーーい」「やってみます!」
- 弟から出産祝いをもらったら…… 爆笑の悲劇に「めっちゃおもろ可愛いんだけどw」「笑いこらえるの無理でした」
- 3カ月の赤ちゃん、パパに“しーっ”とされた反応が「可愛いぁぁぁぁ」と200万再生 無邪気なお返事としぐさから幸せがあふれ出す
- フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
- 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
- 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
- フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
- スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
- 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
- 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
- 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
- がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
- 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」