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解読不能の奇書「ヴォイニッチ手稿」、ついに解読!? 懐疑的な意見も続々

何度解読されれば気が済むのか……。評価は芳しくなかったようです。

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 英語圏の権威ある文学誌「The Times Literary Supplement(TLS)」に9月5日、「内容不明の古文書、ヴォイニッチ手稿の解読に成功した」というニュースが発表され、インターネット上でも大きな話題を呼びました。ただしその内容には、世界中から否定的な意見も寄せられています。

ヴォイニッチ手稿の記事が掲載されたTLS誌の表紙

 TLSに解読の記事を寄稿したのは、イギリスの歴史学者ニコラス・ギブズ(Nicholas Gibbs)氏です。同氏は古文書内の文字ではなく絵に着目し、ヴォイニッチ手稿に描かれているイラストと、中世ヨーロッパの各種文献に描かれているイラストやシンボルとの類似点から、文章の解読に成功したと主張しています。

 同氏によれば、ヴォイニッチ手稿の正体は同時代に存在していた医学書の寄せ集め、特に「女性向けの健康法」をまとめたもので、解読不能な文章は「ラテン語の単語を短く書いた略号(電車の“キハ”のような文字記号のこと)」だというのです。

ヴォイニッチ手稿とは

 「ヴォイニッチ手稿」は1912年にイタリアで発見された、15世紀に書かれたとされる著者不明の古文書です。その内容が、多数の奇妙な絵と解読不能な文字のみで構成されているところから、「何が書かれているのかわからない謎の奇書」として知られています。

 解読不能な文章と絵に関しては、これまでに暗号解読の専門家、言語学の権威をはじめ、プロ・アマ問わず数多くの人々が解読を試みており、内容の仮説もさまざまに存在していますが、発見から約100年が経過した今なお、文章の内容も絵の意味もまったく分かっていません。

 ここまで来ると実は何の意味もない、適当に書かれたデタラメな本なのでは、という疑問を抱かれるかもしれません。ですがヴォイニッチ手稿内の文字列には、言語学の統計解析によって「デタラメな文字列ではなく、確かな意味と規則性を持つ文章列である」という分析結果が出ています。

 2017年9月現在、ヴォイニッチ手稿は原本を所蔵するイェール大学図書館によって、インターネット上で自由に閲覧・ダウンロードが可能な状態となっています。


ギブズ氏による解読のポイント

 ギブズ氏は「これまで解読を試みた人物が、古い時代の文献について無知であったことが問題を引き伸ばした原因である」と断言。歴史学者としての知識を生かし、古代から中世までの医学書に描かれたイラストと、ヴォイニッチ手稿内のイラストとの共通性を指摘しています。

ヴォイニッチ手稿内に繰り返し登場する「水に漬かった裸の女性」(左)と、中世の女性向け医学書に描かれた入浴健康法の挿絵

 同氏は「中世に書かれた女性向けの医学書(De Balneis Puteolanis)」「古代ギリシャ時代に書かれた医薬品書(De Materia Medica)」のイラストと、ヴォイニッチ手稿内のイラストとの類似性から、手稿はそれらを参考に書かれた医学書である、と推測しました。

 特に女性向けの医学書には「入浴が健康に良い」と、入浴がイラスト付きで紹介されており、手稿内に繰り返し登場する「水に漬かった裸の女性の絵」は入浴法の紹介、と考えれば不自然さはなく、これが大きなヒントになったのだとしています。

ヴォイニッチ手稿の「球体の絵」

 同時に「中世において、占星術は医学とされていた」ことにも着目しました。大きな9個の球体が書かれた折り込みページや、円形の図は天体図が描かれたものと考え、これもまた、ヴォイニッチ手稿が医学書であることの証拠だというのです。

ヴォイニッチ手稿の植物の絵と、古代ギリシャの医薬品書の絵

 またギブズ氏は「ヴォイニッチ手稿には、当時の医学系文献と同様に、病気名や植物名などの記載された検索用の目次(インデックス)が存在していたはず。各ページの内容が記されている目次が失われてしまったため、手稿は意味不明のものとなったのだ」ともコメントしています。

ギブズ氏によるヴォイニッチ手稿内の2文節の解読(TLSから

 そして医学書という共通性から、古代ギリシャの医薬品書と手稿内の文章の共通性に注目。ギブズ氏は手稿内の文字が、医薬品書に書かれているラテン語の略語から引用されたものと推測し、手稿内の文字を「aq=aqua(水)、dq=decoque/decoctio(煎じ薬)、con=confundo(混ぜる)、ris=radacis/radix(根)」などに当てはめ、2行の文章を解読したのです。

世界中から反論が続出

 しかし、世界のヴォイニッチ手稿の研究者や専門家、マニアたちからの、この記事に対する反応は相当に冷ややかなものでした。日本でも複数の懐疑的な意見が見られますが、海外では研究者や専門家による、記事内容に対する反論が次々にわき上がっています。

 特にITデータの暗号化を得意とするドイツの科学者フォン・クラウス・シュメー(Von Klaus Schmeh)氏は、反論記事を書くにあたり「ケネディ大統領の暗殺とヴォイニッチ手稿は、マニアと研究者によって幾度となく解決されてきた」と揶揄(やゆ)しています。

 こうした数多くの反論には、以下のような内容が見られました。

  • 「自説に沿う2文節を抜き出し、当てはめただけのもの」
  • 「これで5行以上解読できたら大したものだ」
  • 「すでに試みられている解読法だが、今後役立つ可能性のある新たな視点は含まれている」
  • 「解読法のひとつに過ぎない内容にも関わらず、権威あるTLSが大々的に“解読に成功した”と伝えた理由がよく分からない」

 結局のところ「権威と実績のあるTLSから“ヴォイニッチ手稿の解読に成功、その内容は健康法を紹介する医学書であった”と大々的に報じられたことで大きな話題を呼んだが、実際には解読説がひとつ提示されたに過ぎない」という程度の話であるようです。

たけしな竜美

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