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伝説の「コミケ雲」ができる条件を科学的に考える

雲ができるほどの熱気とはいったい……。

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 毎年2回、東京ビッグサイトで行われる同人誌即売会「コミックマーケット(通称:コミケ)」には、ある種の「伝説」とされている現象があります。それは夏開催時に、混み合う参加者たちの熱気によって天井付近にできる「コミケ雲」。近年では、2013年の「コミックマーケット84」で発生し、話題になりました。

 熱狂したライブなどで似た現象が発生することもありますが、東京ビッグサイトのように広く、風通しがある空間で雲ができるのは並々ならぬ事態。今回は「コミケ雲」ができる理由を科学的に考えてみます。

なぜ雲ができるのか

 人が集まって雲ができるのは、汗などの水分が空間の湿度を上げるから。しかし、単に湿度が高ければ、雲ができるというわけではありません。加湿器を置いただけで、室内に霧がかかってしまったら大変です。

 白く見える雲や霧の正体は、空気が冷えて飽和水蒸気量(空気が含むことのできる水蒸気の量)が小さくなり、水蒸気が細かい液体に戻ったものです。


飽和水蒸気量(空気が含むことのできる水蒸気の量)は、温度が低くなると小さくなります。つまり、湿った空気が冷えると、水蒸気の一部が液体に戻ります

 実は、コミケ雲のでき方は、自然の雲とかなり似ています。

 上空ほど気温が低い自然界同様、コミケ会場上部の空気も、空調で冷やされています。人が集まって湿度が増した会場下部の空気が天井付近まで上昇すると、空気中に含まれていた水蒸気が「コミケ雲」として白く現れるのです。


メカニズム的には、本当の雲とあまり変わらない「コミケ雲」

「コミケ雲」が発生する条件

 さて、具体的にどれだけ混んでいれば雲が発生するのか計算してみましょう。

 ここでは、1平方メートル分の床を切り取って考えてみます。コミケの主要会場である東京ビッグサイト・東展示ホールの天井高は、最も高いところで31メートル。この空間が保持できる水蒸気は、どれくらいの量でしょうか。

 人が密集した床付近は暑く、天井付近は空調の冷気があるとして、床の温度を34℃、天井の温度を20℃とします。また、湿度は、どれだけ多人数で汗をダラダラかいたとしてもせいぜい80%でしょう。雨の日でも、湿度は80〜90%にしかならないそうですから。

 床付近のジメジメした暑い空気が、天井に向かって上昇し冷やされると飽和水蒸気量が低下。天井で湿度100%に達する場合、空気中の水蒸気量は746グラムとなります(※)。

 空気中に数グラムの水滴が浮かぶと濃い霧になるそうなので、1立方メートル当たり750グラムの水蒸気を出せば「コミケ雲」ができると考えられます。

※温度と湿度は一定の割合で変化するとした。

どれだけの汗を流せばいいのか

 人間はじっとしている状態でも1時間に約25グラムの水分を放出するとされています。1平方メートルの空間に8人立っているとすると、それぞれがさらに75グラム、計100グラムの水蒸気を放出すれば、1時間足らずで750gを超えることになります。


男性の肩幅を平均45cm、頭の直径を平均20cmとすると、これくらいの人数は入るはず

 実際には、気象条件や会場の様子など、その他さまざまな要素が複合的に関係してくるため、この通りの状況で雲ができない場合もあるでしょう。また、計算の都合で単純化してしまいましたが、実際には会場外との空気の入れ替わりもあるので、もっと水分が必要かもしれません。

 とはいえ、「コミケ雲」が現れるには、「汗がめちゃくちゃ出るくらい暑い」「人がぎっしり集まっている」という条件が必要なことはよく分かったのでは?

 想像してみてください。気温34℃湿度80%の会場で、押しくらまんじゅうする過酷さを……。「コミケ雲」は会場内の暑さ、それから、お宝を求める参加者たちのアツさから生まれる汗の結晶なのです。

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