サブストーリー・第4回:安 全
三晩前,北ノ巣の鼠人の村は,遠くに独特な,不安をかきたてるような音を聞いた。
それは何千もの嗚咽と,すすり泣きと,叫び声にも似ていて,まるで精神や肉体の苦痛から生まれてきているようだった。彼らは恐怖に駆られ,村の長たちへ報告に行った。
長たちは互いに論じ合ったが,結論は出なかった。
二晩前,護衛は同じ音を聞いた。その音がより大きく,より近くなってきたと言う者がいる一方,よりかすかに,遠くなっていると言う者もいた。
悩みと不安に,長たちは我々ではどうにもならないという結論に達し,非常に敬われている巫女の“裂け舌”の元へ使者を出した。
彼女は人里から数里も離れた場所に住んでいるが,その知性から多くの富と権力を得ていた。そこへの往復は“跳び足”あたりの名うての走り手ですら丸一日かかるが,とにかくその任を受けた使者が差し向けられた。
夜が近付いていた。黄昏の中,二人の護衛は心配そうに持ち場の周りを歩き回っていた。
「月が赤いなあ」
“白髭”は自分のあだ名の由来となった黒い髭の中に1本だけ亜麻色に光る髭を引っ張りながら,心配そうに言った。
「月なんか見ないの。“跳び足”を待ちなよ」
と“腐れ息”が諌めた。彼女はいらいらしながら歩き回り,まるで彼女の意志の力が走り手の速度を増せるかとでも言うように,暗闇を覗き込んでいた。
「聞こえたかい?」
「早過ぎるだろう。ここ二晩は,真夜中過ぎないとあの音は聞こえなかったぞ」
「でも,何か聞こえたんだよ」
低いうめき声は,村をとりまく沼の外側からでなく,護衛と村落の中間から聞こえていた。
“白髭”と“腐れ息”は振りかえり,刀を構えた。彼らが闇に武器をかまえたとき,刀の切っ先は動揺のため,震えていた。
そのとき,うめき声が笑い声に代わり,不似合いな鎧を身につけた人間の戦士が灯りのもとに進み出てきた。
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