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シンフォニック=レイン シンフォニック=レイン
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シンフォニック=レイン
 
プレリュード03 『Falsita』

 もっともな疑問を投げかけてみると,彼女は少し目を逸らし,物思いに耽るように少しの間,口を閉ざした。

「気になったんです」

 というのが,しばらくして出した彼女の答えだった。

「とはいっても,一昨日からずっとフォルテール科の演奏を聴いてみて,今日までにいろんな人にも声をかけてるんです。パートナーがまだ決まっていない良い人がいないかと思いまして」
「まあ,その質問に対する答えなら,すぐにでも答えられる。クリスのパートナーは,まだ決まっていない」
「そうでしたか。ありがとうございます」

 ずいぶんと積極的なことだが,その姿勢には好感がもてた。そういえば,講師の間でも受けがよく,将来はプロになるのが確定しているという噂もあった気がする。
 こうして何人に声をかけているかは知らないが,他のフォルテール科の講師なら,喜んで自分の生徒を紹介したくなるだろうな。ただし私の場合は,紹介する生徒に癖がありすぎる。両方の生徒のことも考えて,少し慎重に考えざるを得なかった。

「何が気になったのかはわからないが,彼は喜んで勧められる生徒でないことだけは,最初に言っておこうか」
「ええ,それでもいいんです。今日はちょっと,その確認だけしておきたかっただけですので」
「そうか。一応話しておこうか?」
「いえ。その時になったら自分で話してみます。他の方とも色々お話ししないといけないので」
「わかった,一応君のことは覚えておこう。なにかあったら,私のレッスン室に来なさい。平日はだいたいそこにいる。レッスンの時間帯でなければいつでも構わない」

 レッスンの時間帯は,三年になるとほとんど変わることはない。一,二年の頃は他の科の基礎を習ったり,様々な講義を受けなくてはならないが,三年になるとほぼ個人レッスンが中心となる。特別講義などがたまにあるが,直接単位に影響することはなく,生徒の自主的な判断に全てが委ねられる。
 だからこそ,生徒数も限られ,講師の数も普通の学校に比べ,格段に多くなっている。今の私の仕事は,受け持ちの生徒のレッスンだけだ。毎日決められた時間に生徒がここに来て,個人レッスンを繰り返す。そしてそれは,声楽科も同じだった。

「ありがとうございます。機会がありましたら,お世話になることもあるかと思います」
「ああ,是非来なさい」

 彼女はまた,丁寧すぎるお辞儀をして,その場を去っていった。根が生真面目なのか,その仕草も堂に入ったものだ。これなら,ピオーヴァ音楽学院の名だたる講師達も気に入るわけだ。
 学院の特色でもあるが,ここの講師には,世界で活躍している現役の音楽家も数多くいた。だいたいは,現役を退いた元音楽家であったが,中には一線で活躍している者も,非常勤講師として在籍していたりする。
 そして,基本的に音楽家は自尊心が強く,おだてに弱い。彼女は知って知らずか,気に入られる術を身につけているようだった。
 私のように,学院を卒業してそのまま講師になるケースは,本当に稀だった。教えるほうが性にあっていると学生の頃に気づき,その判断は間違っていなかったようだ。講師としての実力は学院内でもそれなりに認められ,現状に満足もしている。だからかもしれないが,こうした卒のない生徒よりも,基本的になにかが欠落した,いわゆる手の掛かる生徒の方が好きだった。
 とはいえ,彼女の音楽に対する姿勢や,はっきりとした物言いには好印象を抱いていた。あのクリスも,彼女のような生徒と組めば,少しは変わるだろうか。

「……さて」

 レッスン室に待たせている当の本人が,そろそろしびれを切らしている頃か。時計を確認して,歩き出す。
 機会があったら,彼女の方からまた会いに来るだろう。その時には,一度その歌声も聴いてみたいものだ。
 不肖の弟子のため,彼女の名前を一応記憶に留めておいた。

 初めてファルシータ・フォーセットに出会ってから,三カ月以上が過ぎていた。出会ってすぐに,声楽科の講師や,顔見知りの講師,彼女のことを知る生徒などに話を聞いてみたこともあった。
 皆一様に絶賛するばかりで,あまり当てにはなりそうもなかったが,そういう評価をもらえるということだけでも,聞いた価値はあったと思う。
 礼儀正しく,才能もあり,努力もしている。非の打ち所が無いところがかわいげがないが,嫌味も感じさせないほど,さわやかでもあった。かくいう私も,話してみて気に入っていたので,そんな風に地道に聞いてもみたものだ。クリスのパートナーとしては,出来すぎな気もする。
 あれから三ヶ月も音沙汰がなく,さすがにそのときのことも忘れかけていた。それが今朝,彼女を私に紹介した当人である声楽科の講師から,今日話を伺いに行くかもしれないと聞き,ふと思い出したのだ。そしてついでに,来るのなら午後の授業の前にでも,と彼に伝言を頼んでおくのも忘れていない。

 卒業演奏の本番が一月の半ばで,暦も今日で十二月に入った。残された時間があまりないというのに,当のクリスはまだお気楽に考えているようだ。彼女の話を聞く機会を設けておくのは,クリスのためにもなるだろう。

 街に出て急いで昼食を終え,昼休みの時間がまだ半分以上も残っている状態で校舎に戻る。レッスン室の鍵は開けておいたから,もうすでに彼女なら待っている頃かもしれない。
 第一校舎の廊下を急いで歩いていると,前から私の師でもある人物が歩いてくるのが見えた。急いではいたが,礼を欠かすわけにもいかず,私は脇にずれ,立ち止まって彼がこちらに気づくのを待った。

「コーデルか」
「こんにちは。グラーヴェ先生」

 威厳すら漂わせる重々しい口調で,彼は私の方を一瞥した。彼は名だたる貴族でもあり,かつこの世界では有名すぎる音楽家である。身に付いた威厳というものは,こんな何気ないところまで出てしまうのだと,妙な感心をいつも覚える。
 かつてはここの講師も務め,私の担当でもあった。今はもう,生徒に直接教えることはないが,年に何回かはピオーヴァ学院長自らの願いで,特別講師として招かれている。それほどまでに,この世界では力を持った人物だった。

「また,特別講師として呼ばれたのですか?」
「ああ。学院長の奴が,またお願いすると言ってきたのでな」
「参考になりますので,ご見学させていただく機会がございましたら,そのときはよろしくお願いします」

 儀礼的になりすぎないように,かといって,非礼になってはいけない。上に立つ立場になったとしても,やはり人間関係は難しい。

「いや,君なら大丈夫だろう。フォルテールの才能はなかったようだが,教える方の才能は,私よりもありそうだ。噂は聞いているよ。正しい道に進んだようだな」
「……いえ。私などまだまだです」

 彼に才能がないと言い切られてしまったら,返す言葉もない。悔しい,という気持も起きない。例え口が悪くとも,彼が偉大な音楽家であることには間違いなかった。それに,私もあまり人のことは言えはしないだろう。グラーヴェ先生を毛嫌いしている昔からの知り合いからは,口の悪さが移ったなどと言われる始末だ。

「では,失礼する。なにかと忙しい身分でな」
「はい……あ,ひとつ,よろしいですか?」
「ん? なんだ?」
「ファルシータ・フォーセットという生徒をご存じですか?」

 彼の専攻はフォルテールであったが,こと音楽に関しては幅広く手を広げている。名前だけでも知ってはいないかと軽く訊ねてみると,意外にもその反応は良かった。

「ん? ああ,もちろん知っている。彼女は良い」
「は……はあ」
「なにかあったのかね?」
「いえ……そろそろ卒業演奏の時期なので」
「ああ,担当の生徒と組ませたいのか。気持ちは分かる。彼女がまだ一年だったなら,是非組ませたい者がいたんだが」
「そうでしたか。ありがとうございます」 次のページへ

 

 

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