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シンフォニック=レイン
 
プレリュード05 『Phorni』

 ……作り話決定か。

「それでね,人知れずここで暮らしていたわけ。そしたらクリスが突然やってきて,手紙なんか書き始めるから,話しかけたってこと」
「……はあ」

 気のない返事を返す。ようするに,なにもまだわかっていない。

「で,どうしてここに住んでたの?」
「……理由なんかないよ。私は最初からここにいたんだから。それに意味をもたせて,姿をもたせたのはクリスなんじゃない?」
「だから,聞かないでってば」
「名前もないけど,それは本来ならクリスがつけてくれるものなの。なぜなら,クリスが私を知覚してくれて初めて,私はこういう存在になることができたんだから」
「……それはつまり,僕が作り出した幻だからってことでいいの?」
「ち・が・う。私は元々そういう存在だったんだけど,今までは誰もその存在に気づいてくれなかったから,名前もなかったし,世界からみればその存在も確定していなかったってこと」

 いつの間にか彼女は饒舌になり,世界だとか,存在だとか,そんなことを熱っぽく語り始めた。どこかで聞いたことのあるような話ではあったけど,それがなんだかは正確には思い出せない。

「あ!」

 と思ったら,口に出ていた。

「な,なに?」
「……いや,ちょっと思い出しただけ」
「な,なにを?」

 突然大きな声で叫んだ僕を見て,驚いたように彼女は訊ねた。

「……昔読んだことのある小説で,そんなことが書いてあった気がする」

 詳しい内容までは覚えていない。ただ,人ではない何者かが,世界に生み出されてから死ぬまでの物語を綴ったものだった。アルかトルタのどちらかに面白いと言われて読んでみた本だ。
 ……これでまた,僕の脳内設定の可能性が増えただけだけど。

「ほほう。それは良い作家さんね。事実は小説よりも奇なり。って誰かが言ってたっけ」
「つまり君は,一般的に言われている妖精という存在で,僕がその存在を認めたことによって,そういう形を取り,そうして同じ言葉で話しかけている……と,そういうわけだね?」
「まあ,そうね。それに,魔法だって大昔には確かに存在していたのよ。私のような存在も,たくさんいたんだから」

 言われてみると,確かにその通りのような気がする。僕が弾くことのできるフォルテールだって,確かに『魔力』という科学の領域を超えた,なんらかの力を必要としている。そして実際に,僕には魔力があった。それだけは確かだろう。もっとも,科学の領域を超えているというよりは,科学がまだ追いついていない,という表現をする学者の方が多いと聞いた。

「あ,それはそうと,私のような存在って言いにくいから,なんか名前でも考えて」
「……僕が?」
「うん。なんでもいいから」

 名前,と言われてもとっさには思いつかない。本当にこれは僕の決めなくてはいけないことなんだろうかと訝しんでいると,彼女はさらに声をあげた。

「早く!」
「フォ……フォーニ?」
「……あら,なんかよさげな名前だね」

 なんでもいいからと思い,とっさに目に移ったのは,フォルテールのケースに書かれた,製造メーカーの名前だった。この国で唯一,つまり世界で唯一フォルテールを製造している会社で,名前の由来は交響曲を指すシンフォニー……だとかなんとか。
 その妖精は,その適当な名前が気に入ったのか,何度か自分で繰り返してみて,にっこりと微笑んだ。

「じゃあ私の名前はフォーニで決まりだね。よろしくね,クリス」
「よ……よろしく」

 握手でもしよう思っているらしく差し出された手は,小さすぎて,握ろうにも握れない。

「指でいいよ」

 言われるままに指を差し出すと,一番小さい小指でも,フォーニが手を丸太でも掴むかのように大きく開かないと,握れないほどだった。
 でも――
 その指からは,その小さな身体からは信じられないくらいの暖かさが感じられた。なぜかほっとするような,そんな気分になる。

 話も,それなりに通っている……と言えなくもない。とりあえず目の前に存在する彼女自身は本物だろうし,それを否定することはできない。頭ごなしに信じないのも,なんだか嫌な気がした。

「それで,君はなにがしたいの?」

 よろしく,と言われたからには,ここでしばらくは一緒に暮らすことになるんだろう。その表現が正しいか正しくないかはともかくとして,じゃあさようならという雰囲気では,少なくともなかった。

「そうね……あ,あそこにあるのってフォルテールじゃない?」
「え?」

 さっきの話でフォルテールが出ていたから,もう気づいているものだとばかり思っていたけど,そうではなかったらしい。慌ててケースに駆け寄り,箱を倒すような形で,ケースについた社名のシールを剥がす。

「う,うん。一応フォルテール奏者なんだ。来週からこの街の音楽学院に通うことになってる」
「あ,ピオーヴァ音楽学院だね,知ってるよ」
「そ,そうなんだ」

 妖精改めフォーニの知識は,どの程度のものなんだろうか。僕の知らない知識でも披露してくれたのなら,今よりはもう少し信じてもいい気がする。
 なにか良い質問でもないかと頭を巡らせていると,それよりも先にフォーニが答えた。

「ならさ,アンサンブルしよ!」

 羽をぱたぱたとはためかせ,嬉しそうににっこりと微笑んでいる。どうやら,さっきのどうしたい,という質問に対する答えらしい。

「え? なにかできるの?」

 そのサイズからは,楽器を弾いている姿は想像できない。そもそも,そんな楽器など存在しない。

「楽器は弾けないけど,歌なら歌えるよ」

 フォーニは,自信に満ちあふれた声で続ける。

「だって私は,音の妖精だから」

それから僕達は,いろんな曲を協奏した。彼女は自分のことを音の妖精だと言ったが,どうやら嘘ではなかったらしい。その歌声は,今まで聞いた誰の歌声よりも素晴らしかった。プロのコンサートなんかも何度か聴きに行ったことがあるけど,それよりも上だと言わざるを得ない。
 それほどの彼女の歌は完成されていて,不覚にも感動をしてしまった。一緒に演奏していること自体が奇跡のように感じられ,気づけば何曲も何曲も,演奏し,それが終わる頃にはなにもかもがどうでも良くなっていた。

「おつかれ,クリス」
「……うん,お疲れさま」

 フォーニはあれだけ歌った後なのに,息一つ切らしていない。まだまだ歌い足りないと言う顔はしていたものの,僕の方は病み上がりと言うこともありへとへとで,これ以上は無理そうだった。
 でも,アンサンブルが一応の終わりになるまで,ほとんどそれに気づくことはなかった。それほどに集中して,音楽を作りあげていた。

「……ふう」

 大きく息を付いてベッドに寝転がる。アルへの手紙はまだ書いていなかった。でも,明日にでも書けばいいだろう。どのみちこれから書いても,ポストの手紙を郵便局が回収するのは明日だ。それよりなにより,書く内容もまだ決まっていない。
 フォーニとのことを書いても,きっと信じてはもらえないだろう。僕でさえ今でも疑っているくらいだ。他の人には見えなかったとフォーニは言っていたけど,アルには見えるんだろうか? そして,いつかここに来たときにでも,フォーニと話す日が来るんだろうか。

「はあ,気持ちよかったね」
「え? ああ,うん」

 音楽を純粋に楽しいと感じられるのは,幸せなことだ。風邪や,止まない雨のせいで落ち込んでいた気分も,今ではすっかりと元通りになっていた。

「それで,僕はもう寝るけど,フォーニはどうするの? というか,いつもはどうしてるの?」
「私? 私は消えて,好きなだけ休んでるよ」
「……消えて?」
「うん」

 と言った次の瞬間,ぽんと奇妙な音を立てて,フォーニはその姿を消す。そしてまたすぐに,同じような音を立てて元いた場所に現れた。

「こんなふうにね」
「……はあ」

 なんというか……。不思議生物に物理法則なんかを問いただすつもりはない。でも,あまりに現実離れした光景を見せられると,それが実際に目の前で起こったことでもあるに関わらず,信じられないような気になる。消えたままフォーニが二度と現れなかった方が,まだ真実味があっただろう。 次のページへ

 

 

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