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文章あってのサウンドノベル――「かまいたちの夜×3」は原点を見つめ直した作品である「かまいたちの夜×3」落合信也ディレクターインタビュー(2/2 ページ)

シリーズ完結編として「かまいたちの夜×3」が発売され、早くも透や真理たちのその後を見ることができた人たちも多いのではないだろうか。本作のディレクターである落合信也氏に、制作秘話とストーリー解決のための、ちょっとしたヒントなどをうかがった。

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複数主人公になったワケ

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――「かまいたちの夜2」でやり足りなかった部分とはいったい何でしょう。

落合 「かまいたちの夜」ファンを十分に満足させてあげられなかったということですね。原因としては、ハードがスーパーファミコンからプレイステーション 2に移行したことで、グラフィックを豪華にしたり、シナリオをダイナミックにしたりと、どんどん舞台を広く広くしていってしまったことがあると思います。でも「かまいたちの夜」が好きな人は、もっと狭いところでジワジワと怖さを感じていく部分を評価してくれていたみたいで……。それから、当時はゲーム離れが叫ばれていたこともあって、初心者にもプレイいただけるよう、あまり難しすぎないように、フローチャートを入れるなどの工夫をしたんですが、“簡単すぎるぞ”という意見も多かった。そういった部分を反省した結果、「かまいたちの夜×3」では空間を限定し、身近な人を疑うようなシナリオにしたんです。

――“登場人物同士の疑心暗鬼”がひとつのテーマになったということでしょうか。

落合 そうですね。ただ、「かまいたちの夜」シリーズには非常に大きな問題がありまして。それは登場人物たちが全員顔見知りということなんですよ。初対面だったのは「かまいたちの夜」の時だけなので、“この人、一見いい人風だけど……”といった疑心暗鬼にとらわれるようなシーンが作りにくいんです。そのため、身近な人を疑わせるために、それぞれの主人公の内面を掘り下げて、心理描写を詳しくしていく必要がありました。プレイした主人公たちのように、全員が同じ風景を違う目で見ているのかもしれない、と感じることが、顔見知りでも疑心暗鬼を高める有効な手段だと判断したわけです。

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――でも複数主人公というシステムは、逆に疑心暗鬼を和らげることにもつながりますよね。

落合 確かにそうなんですが、そこはもちろん工夫を凝らしてありますよ。例えば、透が主人公の時、俊夫を犯人だと思ったとするじゃないですか。でも俊夫も主人公のひとりなので、彼の目線でプレイすれば自分が犯人ではない、ということが明確に分かる。しかし、4人目の主人公である啓子でプレイすると、やっぱり俊夫が怪しいように思えてくるといった感じですね。そういう風に主人公間でも疑いの目を持つような伏線が張ってあります。とは言え、やはり自分で物語を追えば安心しますよね。その安心感を逆手に取ったのが、まさに○○なんですよ。

――その話を詳しくすると、犯人に触れてしまいますね(笑)。ただ○○は、一生懸命推理しながら頑張っていた人にとっては、衝撃的な内容になると思います。これは最初から入れようと考えていたんでしょうか。

落合 登場人物が集まるシチュエーションや、それぞれのキャラクターの立場、そして館の中でどんなことが起こるのか、といったことおおまかなことはプロットの段階で出来ていました。この時はまだ主人公が決まっていなくて、例えば、最初私は8時から9時までは透、俊夫、啓子だけをプレイし、9時から10時までは、美樹本、香山、真理をプレイする、といったように、時間帯によってキャラクターごとの場面場面を見ていく、という状態だったんです。これをベースに中村と我孫子さんと相談した結果、ゲームとしてややこしくなってしまうため、通してプレイする主人公を限定することになりました。

――ということは、○○に衝撃を受けた人は、チュンソフトにしてやられたことになりますかね。

落合 そうなったらうれしいですね。今回、エンディングをすべて見るのって意外と大変なんですよ。ですから、頑張ってすべてを出そうとしている人に、ごほうびのつもりでああいう仕組みを作ったんです。

――複数主人公にして、それぞれの行動が全員に影響を与える、というシステムにしたのは、「街」を継承したからなのでしょうか。

落合 継承したというよりは、原点を見直したかったというのが大きいですね。サウンドノベルは、やはり文章あってのサウンドノベルじゃないですか。映像がどんどん豪華になって、音楽も良くなっていったら、最終的にテキストはただのセリフになってしまうのではないかと思うんです。それは“映画のような進化”といえば聞こえはいいかもしれませんが、サウンドノベルではないと思うんですよね。では、何がサウンドノベルなのか、ということを突き詰めると、セリフ以外の“地の文”なんですよ。地の文を生かすのは、主人公の心情を描くこと。だから、複数主人公というシステムを取り入れたんです。

――そこはやはり我孫子さんの表現による助力が大きかったわけですよね。

落合 基本的なプロットは私が考えているとはいえ、“俊夫はヤサグレてます”とか、あいまいな指定しかしていないですからね(笑)。それを膨らませてああいう文章に仕上げてくれるのは、やっぱり我孫子さんならではですよ。ここまでやっていいんですか、と我孫子さんから聞かれたこともありますが、ほとんど心配していなかったので、どうぞ好きにやってくださいという感じでしたね。

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――“俊夫はヤサグレてます”と出ましたが、俊夫はとにかくネガティブなキャラクターです。

落合 カタルシスを持たせたかったキャラクターだったんですよ。だから、とにかくネガティブにネガティブに思考するキャラクターにしました。プレイ当初はプレーヤーの中で一番評判が悪いんですよ(笑)。“なんでこんな暗いことを考えるんだ”とか。でも、彼はハードボイルドな探偵役でもあるんです。最後まで行くと好きになってくれると思いますよ。

――キャラクターづけという意味では、各キャラクターごとに特徴的なサウンドがつけられていました。

落合 かなりこだわってますね。俊夫は誰にも相談せずに一年前の事件をひとりで解決しようとさまよっている。まるで孤独のジプシーの雰囲気なんです。ですから、フラメンコギターを使っています。啓子は二面性を持っているピエロなんですよ。表の道化師のようなおどけた部分もあれば、裏のジョーカーのような部分もあるので、サーカスのような音楽にしてもらったんです。それを恋愛やコメディの風味になるように使っています。

ストレートに事件を解決することは可能

――心理描写のほかに力を入れた部分はあるのでしょうか。

落合 「かまいたちの夜2」はメインストーリーの「完」でも、犠牲者が出たじゃないですか。「かまいたちの夜」の「完」は、最初からある死体以外、犠牲者が出ませんよね。物語りが積み重なった結果として、あのエンディングがベストだとは思っているのですが、犠牲者が出たままの「完」という部分に、どうしてもしこりのようなものが残っていて……あのあと全員が幸せになってはいないのではないかと気になってしまうんです。

――「かまいたちの夜2」のエンディングでは、仲良く遊んでいたころのシュプールでの集合写真で終わりますよ。

落合 あれは、少しでも死者を浄化できればという思いからきた、苦肉の策だったんです。でも、失った生命を取り戻すことはできません。だから、今作ではそれをもう少し補っておきたくて、一番最後に見るエンディングは、あのような画面で終わらせています。

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――今回、どちらかと言えばギャグを前面に出したシーンが多いですよね。楽しい雰囲気が続きます。

落合 犠牲者が出た後という始まりの暗さをやわらげたかったんです。その点で香山のキャラクター性には助けられました。彼は何をやっても許してもらえる、といった得な性格をしていますので。香山が自分の昔話を延々としている時、誰もまったく聞いていないというシーンがありますが、あれは選択している主人公ごとに見え方を変えているんですね。最低4回は同じシーンを見せなければならないことになるので、プレーヤーに飽きられてしまうと困ります。ですから、演出をそれぞれ変えて、ギャグにすることで退屈を打ち消し、面白さを出すという工夫をしているんですよ。

――繰り返しだから省略したという表現の中に、チュンソフト独特のトラップが隠されていたりとか。

落合 それはもう(笑)。小説と違って、全部見えた上でのトリックなので、工夫しないと難しいんですよ。それでもびっくりしてもらえたら、開発者冥利(みょうり)につきますね。

――ちなみに、透をプレイしただけでストレートに事件を解決することは可能なのでしょうか。

落合 設計上は可能ですね。ほかの主人公を始めるために、いくつかエンディングを見なければなりませんが、各主人公を1回ずつプレイして「完」になるようできています。その手前までならば、ノーミスでいけるようにできています。ただ、発売前のサンプルの段階ではまだひとりもできていません。でも全国には、これを簡単にストレートで抜けてしまうようなつわものがいるんでしょうね。

――もし続編を出してほしい、と言われたらどうしますか?

落合 開発スタッフとしては彼らキャラクターに非常に思い入れがあるんです。ただ、これ以上連続殺人に彼らを巻き込みたくない、という思いもありまして。もし「かまいたちの夜4」を作るとしても、たぶんすべてを一新すると思いますね。

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――落合さんとしては、どのように本作を遊んでもらいたいですか。

落合 そうですね、4人の主人公はそれぞれ自分の心情を細かく描写しているので、分かりやすいと思います。しかし、できれば細かく描かれていない、そのほかの登場人物も感じてもらえたら、うれしいですね。もともと「かまいたちの夜×3」を作ろうと思った時は、全員を操作できるようにしたいと思ってたくらいですから。そうした意味で言えば、「かまいたちの夜2」から見直してもらえると、いろいろなことが見えてくると思います。例えば、みどりさんは今刑務所にいるわけですが、小林夫妻の命日にも関わらず、自分だけ供養に行けないわけじゃないですか。一番償いたい人の命日に参加できないわけです。俊夫もみどりにしても、小林夫妻との別れ際にすら立ち会えていないんですよ。そんな二人が、小林夫妻の亡くなった湊で何を思ったのか、香山から誘いを受けた俊夫は、どういう感情だったのか、今作のエンディング後に、みどりは何を感じているだろうか。といったことを考えてみると、ドラマもより奥深くなると思います。そこまで楽しんでいただけたら、もう言うことはありません。

――本日はありがとうございました。

(C)CHUNSOFT/我孫子武丸/田中啓文/牧野修
(C)2006 CHUNSOFT/我孫子武丸/羽毛田丈史


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