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「E3 2008」これだけ読めば大丈夫?(後編)E3を総括――存在意義を問う(2/2 ページ)

現地時間の7月15日〜17日の期間、北米ロサンゼルスで「E3 Media and Business Summit」が催された。後編では、サードパーティのカンファレンスやE3全体について。

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E3全体を通じてのまとめ

かつての巨大なフェスティバルとしてのE3は、そこにはない

 小さな会場での小さな小間を大きなパブリッシャーと小さなパブリッシャーが公平に分け合って行われる「展示パビリオン」と、プラットフォーマーのプレスカンファレンス、そして各社のクローズドのミーティングルームで構成されたE3会場。ハードメーカーと一部の大手パブリッシャー以外のプレスカンファレンスは展示会場と同じくLACC内で行われたため、メディア関係者にとって昨年よりも取材はしやすかったものの、メディアセンターでネットが通じない状況が続くなど、粗悪な環境がE3の凋落ぶりを物語るものであった……。

 アクティビジョン他の不参加ももちろん、主催者側ESAに対する反発も大きいようだ。余談だが、ESAが行っていたE3自体のキーノート(基調講演)はテキサス州知事Rick Perry氏によってショー中日の7月16日(水)午前9時15分から行われたが、1000人が入る会場だったためガラガラ状態がさらに目立つ状況であった。

 基調講演は、テキサス州はゲーム開発会社が非常に多い土地柄ということもあり、子供から大人まで愛されるようになったゲームというもの(任天堂のおかげ?)を制作していくということはとてもすばらしいことで、テキサスはゲーム制作者たちに特別な扱い(税金など)を施しているといった内容であったが、つまり州としての招致をE3の基調で行ったということだ。E3に参加していないActivision Blizzardが前日の夜に非公式なプレスカンファレンスを行ったことなどもあり、早朝の基調講演はメディアも含めて関心は薄かったようだ。ここでもE3自体の存在意義を問うリアクションだったと言えよう。

 昨年は「Halo3」、「GTA IV」、「Metal Gear Solid4」などなど、巨大タイトルがあったが、今年はハードの意味でもソフトの意味でも昨年ほどのインパクトには達していなかったといえる。“ゲームショー”というよりは“ミニ展示会”であったと思う。あとは各社の「見せ方」の問題だけなのかもしれない。


 今回各ハードメーカーの発表で感じたことは、業界としての「イノベーティブ」の方向が2極分化していることであろう。任天堂はネットインフラWiiウェアにも触れず、「楽しいゲームとは? 新しい遊び方とは?」を追求し、SCEは、映画ダウンロードやYou Tubeとの提携も含め、マイクロソフトに後追いながらも、「トータルホームエンタテインメントとしての新しいコンソールのあり方」を模索している姿が見える。マイクロソフトもSCE同様であるが、少しだけ任天堂方向への道筋を残そうとしている様子が見える。そう考えると、ゲームソフト、ネット、ホームエンターテインメントをすべてバランスよく網羅したマイクロソフトが、今年も一番説得力のあるカンファレンスだったのではないかと記者は考える。

 任天堂は、終始一貫して「楽しさ」を追求しているところが好感を持たれるところであろう。今回のカンファレンスでも「人々にSmileをもたらす」がキーワードで、昨年から踏襲している。毎年恒例のラウンドテーブル(記事参照)で、アメリカのメディアからプロデューサーの江口氏に意地悪な質問が出ていた。「どうぶつの森やWii Resortなどのライト向けゲームを作っていると、本当はコアゲーマー向けに作りたいと思っているのではないのですか?」と。さすがの江口氏の回答は「コアゲーマーとはゲームをコアで遊んでくれる人、“コアゲーマー”をどう定義するかの違い。自分がコアゲーマーに向けて作っていないとは思っていない(要約)」。これぞ、100点満点の回答ではないだろうか。また、「ピクミンとか作らないんですか?」との質問に思わず「作ってます!」と言ってしまうお茶目ぶりも「伝説のゲームクリエイター」宮本氏が長く愛される理由だろう。

 マイクロソフトのカンファレンスでスクウェア・エニックスの和田社長が発表した「FFXIII」のXbox 360での欧米展開はどう思われただろうか? 過去にはエクスクルーシブが当たり前だった日本の業界から見ると「驚き」という風にも見えるが、「FFXIII」クラスの開発を考えると、費用の回収の意味でも、できるだけ多くのユーザーに遊んでもらいたいと思うのは至極当たり前の話である。

 現在の北米においてはインストールベースでも、ソフト装着率でもXbox 360がPS3を大きく上回っている。さらに、コアユーザーがXbox 360を好む傾向は否めない事実であろう。従って、北米というピンポイントのテリトリ(とはいえとても大きい市場だが)だけ、Xbox 360というプラットフォームを追加した、ということであろう。「ソフトがハードを牽引する」――言い古された言葉だが、それはファーストパーティが考えるべきことであろう。ソフトメーカーはきちんと回収ができ、1人でも多くのユーザーの手元にソフトを届けることが本来第一義であるからだ。

 マイクロソフト、任天堂と続いて、最後にカンファレンスを行ったSCEに関しては、非常に残念だったと言わざるを得ない。インストールベースでもソフトの売上でも両者に届いていない状況では、プレゼンテーションで「やはりSCEは違う」という安心感を業界関係者に与えてほしかった、いや、与えるのが義務ではなかっただろうか? また、マイクロソフトがダッシュボードを発表した時に「Wiiのまねっこ」として紹介した記事は多かったが(あくまでもアバター部分)、記者がこれを見て感じたのは「SCEは、後から来たマイクロソフトに追い抜かれてしまった」ということである。

 ユーザーインタフェースがイマイチと言われている(特に日本ではそう言われている)Xbox 360がこの方向に流れる前に、SCEは「Home」を出さなければならなかった。「Home」というユーザーインタフェースが、シームレスにコンテンツのアーカイブをつなぐという前フリを散々していたのに、結局は「Home」が立ち上がらないまま、PSNや映像コンテンツの話などが先に進んでいる。また、すでに一番ネットにつなぎやすいハードとして認知されているXbox 360なので、インタフェースをここまで強化すると期待されていなかったにも関わらず、マイクロソフトは「ダッシュボード」を発表して今秋までに立ち上げると言うではないか。PS3はどうなるのか? 本当に「Home」は立ち上がるのか? と業界関係者を不安にさせる。日本のサードパーティが積極的にタイトル供給を行うためには、PS陣営の成功はマストである。これからの施策に注目していく必要がある。

 ある大手日系パブリッシャーの幹部が語っていたが、このE3はあくまでもメディアのためのショーである。メディアは各社を渡ってどのようなタイトルが作られているかが確認できるが、パブリッシャーや業界関係者は競合他社のミーティングルームには入れないし、何が行われているか察知することはできないという。過去の、各社が大きなブースを構えていたE3ではパブリッシャーは出せるものはすべて出していこう、という傾向にあったため、業界としてのトレンドや、各社の個性がブースを見れば察知できたからだ。

 この小さなEXPOの意義は何かと考えるともちろん「皆無」ではない。少なくとも北米における大きな発表(特にハードメーカー)をする場合や、年末商戦に向けてタイトルを発表するにあたりタイミングがよく、メディアに取り上げてもらうチャンスを考えると、これ以外のものはないのだから。要するに、「北米のゲーム業界がメディアに対して発表を行う場」ということだ。ここに日本のメディアは含まれていない。あくまでも北米のためである。

 では、日本人にとって価値はあるのか? 是である。日本の5倍とも6倍とも言われるアメリカ市場が、グローバルなゲーム市場のトレンドを作り出しているのは、残念ながら否定できない。この最新のトレンドと技術、マーケットが一度に分かる(分かることは難しいかもしれないが、感じ取れる)場であることは事実であろう。また、業界関係者が一堂に会するこの機会に、新たなビジネスチャンスやパートナーを見つける場であることも否めない。ただし、シャイな日本人がどこまで入り込んでいけるのかは、その人のキャラクターによるだろうが……。

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