インターネットのあけぼの「ありす in Cyberland」:ゲイムマンの「レトロゲームが大好きだ」(3/3 ページ)
今回取り上げるゲームは、グラムスの「ありす in Cyberland」です。千葉麗子さんプロデュースという触れ込みで売り出された“ギャルベンチャー”。これの失敗が原因で、グラムスは倒産したといわれていますが、果たしてゲーム自体の出来はどうだったのでしょうか?
今日のネット事情を予測していた?
こうした、当時の要素や過去の要素を散りばめながらも、ゲーム内の時代は21世紀という設定なので、未来のインターネット事情も予測され、シナリオの中に盛り込まれている。そして意外と、それらの予測は当たっていたりする。
例えば、ネットを介したコンピュータウィルスのまん延。1996年当時もインターネットの普及とともに増えつつあったが、まだ今ほどではなかった。ゲームの中ではウィルスによって、女性キャラクターの顔のデータに、セクシーな服を組み合わせた画像が、教室中の端末に送りつけられたり、渋谷の街なかにいくつも映し出されたりする。
このウィルスは、彼女たちの顔のデータを、区役所の戸籍データから取り込んでいた。つまりネット社会におけるプライバシー保護の問題も合わせて描かれているのだ。もちろんまだ、個人情報保護法が成立する前である。
それから、メールが送受信できる小型端末は、今の携帯電話に似ているし、テレビは既にデジタル放送になっている(というか、完全CGで番組が作られていて、デジタルデータの状態で電波に乗る)。世界中で暗躍するハッカー(クラッカー)を、一部のネットユーザーが持ち上げて神格化するなんていう描写まである。
ありす in Cyberlandでは、当時流行した作品の要素と、過去の作品へのオマージュ、将来のネット社会の予想図、これら過去と現在と未来のファクターが、アドベンチャーゲームのシステムでつながっているのだ。
惜しかった点も多々
登場人物の設定はよく練られ、人気の高い声優陣が実力を発揮し、音楽や映像も充実しているありす in Cyberland。しかしながら惜しかった点も多々あって、ちょっと手放しでは絶賛できない作品になってしまった。
まず、短いストーリーの割に、登場人物が多すぎた。そのためせっかく出てきた魅力的なキャラクターが、意外に活躍できなかったり、エピソードを完結できないまま終わってしまったケースが多い。
特に、生徒会長の二階堂陽子(CV:渡辺久美子)と、その子分の如月真琴(CV:菊池志穂)。ありすたちのライバル的存在として描かれ、第2話ではサイバーランドで遭遇。これから先どうなるんだろうと思っていたら、その後は第3話の頭に出ただけで、以降まったく登場しなかった。
ほかにも、ありすたちの同級生・大谷舞(CV:丹下桜)のアイドルへの道も中途半端なままだし、加藤優子(CV:根谷美智子)は終始見せ場がなかった。佐藤久美子(CV:久川綾)も目立たない存在だが、こちらは第3話で(ある意味)大活躍をする。
ありすに助言を送る、謎の女性・セラ(CV:三石琴乃)は、物語の中でさまざまな謎を残しながら、結局謎の女性のままで終わる。
それから、エンディングでルシアが、サイバーランドの最下層部までありすを迎えに行く理由と、その後いなくなる理由がよく分からなかった。どちらもなんか唐突だった。
登場人物とエピソードが多かったのは、クロスメディア展開と、続編の制作が、早くから念頭にあったからかもしれない。実際、マンガと小説とドラマCDとアニメビデオが登場したらしいが、グラムスの倒産により、続編は発売されなかった。
シナリオの小中千昭氏のサイトでは、幻の続編となった「ありす in Cyberland 2 第七のプロトコル」のシナリオが公開されている。また、“誰もがネットワーク端末を持っており、それによってつながっている”という設定は、後に小中氏が手がけたアニメ(ゲームも発売された)の「serial experiments lain」に生かされている。
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