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ゲームの可能性を広げるための「Kickstarter」という選択 「ロックマン」の生みの親、稲船敬二氏へのロングインタビュー[1/3]

ゲームクリエイター稲船敬二氏がクラウドファンディングサービスサイトKickstarterでゲームプロジェクトを立ち上げた。その背景について聞いた。

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 アメリカのゲームイベント・PAX Primeにて、現地時間2013年8月31日、ひとつのゲーム開発プロジェクトが産声を上げた。ロックマンや鬼武者、デッドライジングなどの生みの親であるcomcept 稲船敬二氏が、自らのセッションにおいて、新作の横スクロールアクションゲームを開発中であることが明らかにしたのだ。また、その開発費をクラウドファンディングサービスサイトKickstarterによって募るという試みがさらなる話題を呼んだ。そして、プロジェクトはイベント会場では熱狂的なファンの大歓声で迎えられるとともに、Kickstarterでは、最低目標に掲げていた90万ドルを公募からわずか40時間という異例のスピードで達成した。9月6日現在、支援者は増え続け、3万人に達しようとしている。今回、その話題の渦中にある稲船敬二氏にインタビューの機会をいただけたので、その模様をお送りする。

――前回のソウル・サクリファイスのインタビューに続き、本日もインタビューのお時間をいただき誠にありがとうございました。本日はKickstarterのお話をお聞かせいただければと思うのですが……。

稲船 驚いてくれたでしょ?

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――大変驚きました!! Kickstarterを開始されて3日間で150万ドル達成、すごい勢いですね。

稲船 いやぁ、凄いことはわかっているのですが、こう数字が出てきますと、もっともっとと欲が出ますね(笑)。これからもより多くの方々に支援いただけるよう、僕ら自身、もっと頑張らなくてはいけないな、と思います。

――現状一番高いストレッチ目標が250万ドルだったと把握しているのですが、もちろんそこも狙われるんですよね?(インタビューを行った9月5日の朝までは250万ドル達成でPS3版、Xbox 360版、Wii U版の開発となっていた)

稲船 実は、その上もまだまだ色々な目標を用意しているんです。また、ユーザーから非常に多くのご要望をいただいたので、PS3版、Xbox 360版、Wii U版の開発を220万ドルで行うという形に、ストレッチ目標を変更したんです。Kickstarter自体が、柔軟なプロジェクトなので、ならば僕らもユーザーの希望に柔軟に対応しようじゃないか、と。多分、今後は3DSやPS Vitaなどの携帯ゲーム機版や今度発売される次世代機版も開発してほしい、というご要望もいただくと思うのですが、やはり開発にはお金がかかるので、それは支援いただきつつ、資金が許す限り対応していきたいなと思います。

――最初の目標である90万ドルをほぼ一日で達成されましたが、それほどの速さで達成されることを想定されていましたか。

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稲船 想定していなかった、というと嘘になります。過去の事例をみれば、一日で100万ドルを集めるようなプロジェクトもありましたので、本当に上手くいけば一日で最低ラインの90万ドルは達成できるかもしれないな、と考えていました。ほぼその通りになったので本当に良かったです。

――今、世界中のゲームファンから注目が集まっていらっしゃることは間違いないと思います。先日のPAX Primeでも、熱狂的なファンたちに迎えられたとお聞きしておりますが、実際にはいかがでしたか。

稲船 多くのファンに迎えられ、本当に目頭が熱くなりました。プレゼンテーションが終わった後の反応で、自分の思いがどれだけ伝わったか実感できるんですが、会場から「このゲームを俺は待っていたんだ!」「新作ゲームを作ってくれてありがとう!」という声があちこちから聞こえて、本当に感無量でした。また、その後もcomceptのホームページに、世界中の方からメッセージが寄せられています。とにかく英語の問い合わせが急激に増えましたね。幸いスタッフに英語が出来るものが多いので、なんとか対応できていますが、とにかくファンからの熱気は間違いなく感じます。

――ちなみにどういった国の方からメッセージが多く届いていますか。

稲船 世界各国からです、日本以外の(笑)。もちろん今のは冗談ですが、外国からのメールの量に比べると日本の方からのメッセージは少ないかなと感じています。

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――個人的に大変興味深かったのは、今までのKickstarterで立ちあがった日本のプロジェクトは、英語のページだけで完結させるものばかりだったと思うのですが、今回の『Mighty No.9』では日本語のページもご用意されていますね。

稲船 実は、日本語版のページを用意した一番の目的は、日本にいる方たちに、Kickstarterの存在を知ってもらうことなんです。支援していただきたいという思いももちろんあるのですが、僕自身が日本の方たちにKickstarterを紹介したかったんです。

――そうだったのですね。

稲船 日本の方たちに伝えたかったのは、クリエイターがユーザーの要望にダイレクトに応えながらゲーム作りをすることが、Kickstarterを使えばできる、ということなんです。今までのゲーム開発は、ユーザーとクリエイターの間に企業が入り、どんなゲームを開発するかどうかを企業が決め、予算を確保し、クリエイターにゲームを作らせるというモデルでした。例え、クリエイターが「こんな面白いゲームがあるんだけど」とアイディアや企画を出しても、企業の都合や判断で「作りません」と言えば、ユーザーの手にそのゲームは決して届かなかった。逆もまたしかりで、ユーザーが「こんなゲームを作ってくれ!」と要望を出したところで、企業が売れそうにないと判断すれば、クリエイターはどれほどユーザーの欲するゲームを作りたくても作れない。その、企業という壁を取っ払って、ゲーム開発を可能とするのがまさにKickstarterなんです。クリエイターとユーザーがダイレクトに結びついたすごく良い関係が実現できるんです。もちろんその分だけ、ユーザーの要望に対して真摯に応えていかなくてはいけなくなりますけどね。

――その点はKickstarterに挑戦されたアニメプロダクションの方も、同じことをおっしゃっていらっしゃいました。ユーザーの期待が金額という形で可視化されることで、今まで以上にプレッシャーを感じるし、その期待には絶対に応えたいというモチベーションも湧いてくる、と。

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稲船 僕自身kickstarterに挑戦してみて、非常に面白いと感じておりますし、もっと多くの日本のクリエイターに挑戦してほしいと思っています。今回の試みで、Kickstarterの存在が今まで以上に日本国内で脚光を浴びて、今後のクリエイターにとってのひとつの道筋となってほしいと思うんです。少なくとも、100万ドルという大金が、日本のクリエイターへの支援金として全世界から集まった、その事実だけでも、後に続く人にとって大きな自信になるはずです。

――日本国内にもクラウドファウンディングサービスは有りますが、そちらを利用しようという考えはあったのでしょうか。

稲船 最初から僕らは海外を見ていました。事実、100万ドルという大金は、海外のファンに目を向けたからこそ実現できた結果です。クラウドファウンディング自体は日本国内にも有りますが、規模がまだまだ小さい。ゲームを開発するための資金を集めるとなると、必然と世界中のファンの力が必要になるんです。ですので、クラウドファウンディングでゲームを開発するなら、そのための選択肢はKickstarterと最初から決めていました。

――Kickstarterでゲーム開発をする、という構想はどれくらい前からお考えだったんでしょうか。

稲船 半年ほど前ですね。

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――思っていたよりも最近、という印象を受けました。

稲船 Kickstarter自体は2年ほど前から、ずっとやってみたいと思ってはいたんです。ただ、本腰を入れて、具体的な構想を練り始めたのは、半年前からなんです。「何を作ればいいのか」「どう作ればいいのか」という作品のコンセプトは、その頃から少しずつ形になってきたという感じです。→第2回

Mighty No. 9 Kickstarter Page

英文:Interview with Keiji Inafune, the Father of Mega Man, on Choosing Kickstarter to Expand the Potential of Game Development [1/3]

photo by Miyuki Suemitsu



© Tokyo Otaku Mode Inc.

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