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ゲームの可能性を広げるための「Kickstarter」という選択 「ロックマン」の生みの親、稲船敬二氏へのロングインタビュー[3/3]

「Kickstarterは、ファンとつながりながら一緒にゴールを目指すという非常に良い仕組み」――稲船敬二氏はこう語る。

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 ロックマンや鬼武者、デッドライジングなどの生みの親であるcomcept 稲船敬二氏によるKickstarterプロジェクト『Mighty No.9』のインタビュー第3回をお届けする。(第1回第2回

稲船 やってみてわかったのは、Kickstarterは、ファンとつながりながら一緒にゴールを目指すという非常に良い仕組みだということです。プロジェクトに参加してくれるメンバーはみんな何かしらの形でお金を出してくれている、いうなれば覚悟をもってそのプロジェクトに参加しているんです。だから、みんな、自分の理想のコンテンツを実現するために、思い思いの意見を出し合うのですが、それは決して無責任なものじゃない。仮に「俺がやりたいのはこんなゲームじゃない!」や「稲船、もっと早くゲームをだしてくれ!」というコメントがあったとしても、プロジェクトに参加してくれたメンバーからのメッセージだとしたら、クリエイターとして真摯に応えていかなくてはいけないな、という気持ちにさせられます。

――そういった、ファンにもゲーム作りに参加してほしい、という稲船さんの思いがあるからこそ、リワード(支援者への特典)の中には、自分の声をエンディングテーマに入れられる権利や支援者の顔をゲームのどこかに登場させられる権利といったものがあるのかと思います。こういったリワードの構想は、Kickstarterでプロジェクトを立ち上げた当初からあったのでしょうか。

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稲船 ファンと一緒にゲームをつくるというコンセプトは立ち上げ当初から持っていました。もともと『ロックマン』の時から、ボスキャラクターのデザインを公募していたので、それ自体はそれほど目新しいことではないかと思います。ただ、昨今、他のゲームがそういった試みをあまりしていないようなので、すごく良いタイミングで『Mighty No.9』を立ち上げることが出来ました。

――リワードの中には、ファミコン版やNES版テイストの説明書だったりパッケージもあげられていますが、これも過去のゲームの良さをもう一度思い返してほしいというメッセージなのでしょうか。

稲船 ファンから僕らに求められているのは、最新のFPSのようなゲームじゃないんです。求められているのは、日本のゲームが世界一と言われていた頃の日本のゲームなんです。ですので、リワードに関しても当時を思い出させるアイテムを揃えようと思いました。ダウンロード販売でディスクもカートリッジもないのに、外側のパッケージだけを作ります、という試みも面白いじゃないですか(笑)。

――たしかに! でも大変ですよね。

稲船 大変です。実際に手にすることが出来る形にすると、製造コストがかかってくるので、デジタル版と実際に印刷するものは分けることにしました。正直、このリワードに関しては大分お金がかかるんです。本来はゲーム開発にすべての資金を注ぎ込むべきなのかもしれないのですが、ゲーム以外の要素でも価値を感じてもらえるプロジェクトにしたかったんです。テイストは昔のゲームなのに、完全新作で、プレイしてみたら新たな楽しみがあるって凄いじゃないですか! また、せっかくKickstarterという仕組みを使ったので、今回のプロジェクトをひとつのイベントとして、参加した方全員がもっともっと楽しんでもらえるものにしたいなと思っています。もちろん、プロジェクトに参加されてなくても、正式版がでてからゲームを遊んでいいただくことは可能です。けれど、今この瞬間だからこそ楽しめる部分もあると思うんです。「あのとき、『Mighty No.9』のプロジェクトに参加しておけばよかったな……」と、今、遠巻きで見ている方たちに言ってもらえるほどのコンテンツに育てたいなとも思います。この場ではまだ明かせませんが、みんなにもっと驚いてもらえるような企画は用意していますので、今後の展開にはぜひとも期待してもらいたいですね。

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――そこは非常に気になるところですね!

稲船 余談になるんですが、1万ドルのリワードが僕との食事だって言ったら、妻に笑われたんですよ。「えぇ、これはないでしょ?」っていうものだから、すでに3名の方が名乗りを上げてくれているよと伝えたら、返ってきた言葉が「うそー!」ですよ。「憧れのアイドルと食事できるなら、1万ドル払う人はいるだろ?」と言ってやったら、「あなたはアイドルじゃないもの」、そんなこと分かってるよ、ものの例えだよって(笑)。クリエイターの価値は、作ってきた作品で決まりますが、ファンは僕のことを理解してくれているなと実感しました。僕の妻は理解してくれていませんが(笑)。

――今後ゲーム業界で、Kickstarterはひとつのゲーム開発プラットフォームとして定着していくと思われますか。

稲船 定着するかどうかは未知数だと思います。ただ、僕自身はこれからもっとインディーズのゲームが増えていってほしいですし、Kickstarterはそのインディーズゲーム業界を支える有力なプラットフォームになると思います。「俺達が全く新しいコンセプト・キャラクターのゲームを作っていくんだ」という試みが大分減っていっている現状を打破するのは、色々なしがらみにとらわれないインディーズゲームだと僕は考えています。そのための起爆剤として、日本にももっとKickstarterに挑戦するクリエイターが増えて欲しいんです。日本での成功例がないので、尻込みしてしまうのはあまりにももったいない。だから、僕自身が先陣を切って、次の人達が挑戦しやすくなる土壌を作ろうと思いました。将来、「日本でインディーズゲームが広がったのは『Mighty No.9』があったからだよ!」と言われるようになったら本望ですね。ですので、今Kickstarterでプロジェクトを立ちあげたいという人たちがいたら、アドバイスは惜しまないです。

――仮にそういった方たちが現れたら、具体的にはどんなアドバイスをされますか。

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稲船 一番重要なのは覚悟ですね。甘く考えていないかどうか、を問いただします。なんでもそうだと思うのですが、駅前に募金箱を持っているだけではお金がぜんぜん集まらないということを知っておいて欲しいんです。お金をいただくからには、支援してくれる方たちに対して、なんで支援して欲しいのか、どうして支援する必要があるのかを明確に伝える必要があります。表面的に美辞麗句を並べたところで、誰の心にも響かないんです。やはりユーザーの心に思いを届けるプロデュース能力は必要になってきますし、なによりユーザー視点に立ってシビアにものを考えないと、プロジェクトは絶対に成功しません。

――ぜひとも後続の方たちを育てていただけることを、ひとりのゲームファンとして期待しております。

稲船 『Mighty No.9』がどれくらいの規模のプロジェクトになるかはわかりませんが、今回の記録を越えていく企画が、将来的にどんどん増えていけばいいなと思います。ただ、みんなに忘れないでいて欲しいのは、最初にやる人間が一番大変だということです。僕は、昔から先頭を切って色々なチャレンジをしてきたので身にしみてわかるのですが、あとになればなるほど道は舗装されているんですよね。

 例えば野球で言えば、野茂英雄が大リーグに挑戦した時、だれも彼がどうなるかなんて知らなかった。年俸も日本にいる時と比べれば大分下がる。それでも彼は渡米したんです。かたや、ダルビッシュ有は、渡米する前から数百万ドルの年俸が確定している。もちろん、彼の活躍ぶりを否定しているわけではありません。ただ、今のダルビッシュ投手が大リーグにいるのは、野茂投手の存在があったからだ、ということは忘れてはいけないと思うんです。Kickstarterでも多分、同じことが言えます。今、必死で僕が集めている金額を、将来的には軽々と越えていく時代は間違いなく来る。だからといって、その時『Mighty No.9』の記録を見て、「大したことないなぁ」であって欲しくはないんです(笑)。

――でも稲船さんは、常に先頭を走っていたい方ですよね?

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稲船 そうなんです、僕は「初めて」「日本初」「業界初」って言葉が大好きなんです(笑)。報われないと分かっていても、僕は決してめげないですし。

――今後ともゲーム業界を盛り上げていただければと思います。それでは最後に全世界のゲームファンに向けてメッセージをいただけますか。

稲船 今回、Kickstarterを通じて、やっと全世界のファンと心がつながったと感じました。色々な国を回らせてもらって、すべての国で「『ロックマン』を作ってくれてありがとう」といっていただきました。中には会った瞬間に涙してくれるファンさえいて、改めて自分の作ったゲームの影響力をしりました。本当に嬉しかったです。今、全世界のファンの方々から少しずつ力を分けていただきプロジェクトを進めていますが、もっともっと大きな広がりを作っていけるクリエイターでありたいなと強く思っています。精一杯頑張りますので、今後ともご支援よろしくお願いいたします。

Mighty No. 9 Kickstarter Page

英文:Interview with Keiji Inafune, the Father of Mega Man, on Choosing Kickstarter to Expand the Potential of Game Development[3/3]

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photo by Miyuki Suemitsu



© Tokyo Otaku Mode Inc.

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