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マンションの中に異空間! 畳が光るサイバー茶室に行ってきた千利休もびっくり

茶道はスタイリッシュでした。

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 茶室というと、あまり縁がない人からすれば竹林の奥にひっそりとたたずむわびさび感じるイメージだが、最近の茶室は怪しげなブラックライトに照らされぼんやりと光っているのだとか。ハリウッド映画に出てきそうなこの“サイバーな茶室”、いったいどこにあるのかと言うと……。

ハリウッド映画のワンシーンに出てきそうな茶室

 実は横浜のマンションの1室にある。

こうみえて、マンションの中なのです

 ここは、茶人である松村宗亮さんが主宰する茶の湯文化を普及するプロジェクト「SHUHALLY」の茶室。その名前は「守 破 離(しゅ は り)」という千利休が残した茶道の心得から名付けられた。松村さんは2009年の秋よりこの場所を拠点に、「基本を守り、創意工夫を加え、独自のスタイルとして確立する」茶道の場として、独自の茶文化の追求を行っている。

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shuhally看板
光る茶室の主がこの人、松村宗亮さん

 先ごろネットでも話題になった光る茶室は、奥にある「小間」と呼ばれる場所。茶室というのは入口から庭など、お茶をいただくまでに通る場所も含めて演出されていく。SHUHALLYもマンションのなかに作られているということを忘れてしまうようになっている。しかし、日本の伝統文化である茶室を怪しく光る黒い部屋にしたのはなぜなのか?

入ってすぐにあるお部屋
小間へは庭を通っていく。マンションの5階とは思えない光景が! まるで天空の庭のよう
現代アート作品がそこかしこに飾られている
木戸を抜けて、さらに奥へ。ここマンションですよね?
外でお茶をいただくこともできる設えが
マンションの5階のベランダにあたる部分ですよ。何度もいいますが……
いよいよ光る茶室とご対面
にじり口の引き戸を開けると怪しく光る空間がそこに!

 松村さんによると、もともとの設計時は一般的な畳を使う予定だった。

漆黒に塗り込められた世界に黒い畳から光が通り、天井に反射している

「設計も終わり、施工を進めていた2009年のお正月に京都で読んだ新聞で、たまたま光る畳の広告を見つけました」

 使用しているのは「光畳HIKARI-TATAMI」という熊本産業の商品で、もともとは飲食業界向けとして発売されたもの。いぐさと光る繊維素材を組み合わせ、編み上げた畳を内蔵したLEDライトで照らしている。こちらの小間では壁面も黒くしているため、茶室というまるでSF映画のワンシーンのように変化する。

 光らせるのは廊下にあるスイッチのオン・オフで行う。畳のここだけ、というような光らせ方にはなっていない。

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部屋の中心にある釜にもアートが施されていてサイバーなあかりを受けて怪しく光っている
床の間にはブラックライトを設置し、ブラックライトに反応する彩色をした陶芸作品など、その場を生かした作品が飾られる。この作品は26歳の若手陶芸家の篠崎裕美子さんによるもの

 異色の茶室の主である松村さんも、お茶の世界では異色の経歴を持つ人物。

松村さんの着物の紋はスカル柄だった

 型破りな人物というと、代々伝統を受け継ぐ家系の人が新しいチャレンジを……というイメージがあるが、松村さんは社会人になるまでお茶の世界に触れたことはなかった。それどころか、子供のころはインターナショナルスクールに通い、友達の家では外国の料理が並ぶ。日本に生まれながら、異文化に囲まれて育ち、学生時代にはHipHop音楽に染まった。その後、大学に進学し、元々あった欧米への憧れから3年生のときにフランスから転々と旅を続けたが、そのなかで感じたのは自分の日本文化に対する理解不足だった。

「出会う人たちに日本のことをたくさん聞かれるのですが、日本っぽいことをやらないまま育ってしまったため語る言葉を持っていなかった。フランスに行ってからようやく、オヅ(小津安二郎監督)やクロサワ(黒澤明監督)の作品を観たぐらいで……」

 日本人として、日本の文化を語れるものを持っていない自分を痛感。帰国後、不動産関連企業での仕事をしながらいくつか始めた日本文化へのチャレンジの1つが茶の湯だった。

「茶の湯には日本文化のエッセンスが詰まっています。茶席ではお花が生けられ、お香を焚き、書が飾られ、着物で席につく人がいて、焼き物の椀でいただく。茶室の建築や庭もです。その他金属や木製の道具や日本料理等。1つのことを理解すると、他のことにも関心が深まり茶の湯への理解も連鎖的に深まっていきます」

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 本格的に学ぶために、京都のお茶の専門学校で3年間弟子入りのように茶の湯の文化について学んだ。卒業後には茶室作りのため、知り合いや茶室の国宝や重文の茶室などをまわって研究を重ねた末作ったのがSHUHALLYだ。お茶というのは、日常からのトリップ。茶室に向かうまでの道筋も別世界に旅立つ過程となる。

「マンションの扉を開けるといきなり和室があるというシチュエーションは、どこかフィクションっぽい。最初のアプローチは竹をたくさん使い、藪の中を抜け、扉を開けて入る物理的な制限があるものの、奇をてらわず、お茶室の枠にあるものを作っています。

 光る小間の広さは、千利休さんのお孫さんである宗旦が作った又隠(ゆういん)と同寸法、形式は超クラシックです。四畳半という広さは歴史的、思想的背景もあり大事にしたく、これらの寸法を変えるとデザインに走ってしまい茶の湯ではなくなってしまう、という危惧がありました。しかし、一般には屋外にある立派な木材や土壁によって構成されている数寄屋建築をマンション内に入れ込むのは自然ではないのではないか、と思いまして。むしろ僕が子供の頃から慣れ親しんでいる素材、ガラスや金属で構成したほうが今の自分にとってはより自然に感じることができました。また陰陽といった茶の湯にある思想を現代の技術で体現したいと思っていた時にちょうど出会えたのがこの光る畳でした」

 前代未聞の光る茶室は話題となり、2010年にグッドデザイン賞を受賞。茶の湯の世界に新しい風を起こした松村さんは、どこか遠く感じている茶の湯の文化をもっと広めたいと思っている。

グッドデザイン賞の証

「そもそも利休さんが始めた当時のお茶というのは、アバンギャルドでパンクなものでした。僕のようなお茶の家に生まれたわけではない、ただの兄ちゃんだった者が同世代や下の世代に、このお茶の素晴らしさを伝えられたら。

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 茶の湯が長く続いてきた文化であるのは、その時代時代でお茶が好きな方がいたからだと思うのですが、茶の湯の元々の姿勢は新しい美を創造したり、既成概念を打ち崩したものでした。ときにはその時代の流行を取り入れて現在の形になっています。いま日本には各流派のお茶が発展していて、それぞれに詳細な型がありその素晴らしさは歴然としていますが、利休さんの時代には個々の茶人がそれぞれの茶の湯のあり方を模索していました。流派の茶の湯をしっかりと習得していく過程に終わりはないのですが、その中に個人個人がその人の考え方や美意識、哲学などを体現していけるのが、茶の湯の楽しみの1つだと思います」

 2013年は活動を海外にも拡大。独自の茶の湯のスタイルをニューヨークやパリ、ポーランドなどでも披露する機会を持った。SHUHALLYでは若手の現代アートの作家の個展を定期的に開催する活動も行っている。

「僕もまだまだ修行中ですが、いずれは自分の価値観が反映されたお茶を体現したいし、そうじゃなければいけないと思っています。いまの生まれている価値観を自分のフィルターを通してお茶の世界に取り込んでいきたいですね。現代アートの作品を茶の湯のコードにのせて、お客様に提示して、新しい文化を若い芸術家の方たちと作っていければ。

 海外の方たちにお見せする際、『クールジャパンだよね』と言われがちなのですが、いやそうじゃない。ホットジャパンなのだと。熱い日本の文化で海外の方たちも巻き込み、海外の文化から学んだ自分が日本の文化を発信することで恩返ししていきたいですね」

 この茶室は、アートの作品展やお茶の教室時には一般の方も入ることができる。

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