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コッペパンに節分豆をそのままぎっしり 変なパンを売るパン屋「翠玉堂」へ「節分パン」を食べに行った

「おせちパン」「お雑煮パン」「七草粥パン」「ひなあられパン」「鯉パン」「うなぎパン」「クリスマスパン」「おはぎパン」「コロッケの中身パン」「ナムルパン」「かに玉パン」「ポトフパン」「カルボナーラパン」「麻婆豆腐パン」「年越しそばパン」もあります。

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 埼玉県行田市にあるパン屋「翠玉堂」は何かがおかしい。なんでもかんでもパンに挟んでは新商品を開発し、Twitterに投稿しているのだ。お正月にはおせち料理をパンに挟んだ「おせちパン」を作り、年末には年越しそばをパンに挟んで「年越しそばパン」を作る。季節のイベント時期以外にも、「カルボナーラパン」や「麻婆豆腐パン」といった妙な惣菜パンを定期的に売り出している。

左が「おせちパン」、右が「年越しそばパン」
左が「カルボナーラパン」、右が「麻婆豆腐パン」

 1月末からの数日間は毎年「節分パン」が売り出されるという。節分の豆がパンの間に挟まれている代物だ。2016年の「節分パン」の売り出し開始は1月31日から。1月31日11時の開店を待って、さっそく買いに行ってみた。

この貼り紙は定期的に内容が変わるが、特に意味はない。店の前を通りがかった人をモヤッとさせたいから貼っているのだそう

 行田市駅から歩いて5分ほど、瓦屋根の建物が「翠玉堂」だ。店内に入ると、ちょうどお客さん3~4組が次々と節分パンを買っているところだった。

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そこそこ混み合っている

 私が買った時点で「節分パン」は残り4つ。10個作ったうち、開店から30分ほどでこれほど売れるのは異例のことだという。

一番下に「節分パン」が
私が買ったことで残り4つに
ちゃんと普通のパンも売っている

 事前に電話で聞いたときも、「開店は11時ですが、売り切れることはないと思うので何時に来ていただいても大丈夫です」と言われていた。だが、決しておいしくはないそうだ。店主はお客さんに、「あの、別にこれ、おいしくはないと思いますよ? 大丈夫ですか?」と言いながら売っている。

さあ食べよう

 店主がそこまで言うなら、本当においしくないのだろう。あまり期待せずに、買ったばかりの節分パンをかじってみる。

いただきます
……うん

 ……うん。豆。すごく、豆である。豆、食べてる~、パン、食べてる~、という感じだ。それ以上に言いようがない。通常、惣菜パンとは、パンと何か別の食べ物が合わさることでよりおいしさが増すようにできている。挟まれているのが卵なら、味の付いた卵と合わさっておいしい、といった具合に。だが、この節分パンは、豆は豆、パンはパン、と完全に各々が各々の道を突き進んでいる。合わさることで何らかのおいしさが増した気配はゼロ。本当に、どうして挟んでしまったんだろう……。

 店主に聞いてみると、こういったおかしなパンを最初に作ったのは5年前の正月。もともと「翠玉堂」は営業日が毎週木曜~日曜で、月曜~水曜は定休日。営業日が少ない代わりに、年末年始も月曜~水曜でなければ例外なく営業している。お正月からわざわざ買いに来てくれるお客さんのために、せっかくなら正月らしいものを、と作ったのが「おせちパン」だったのだという。

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店主の平川真之さん

 ちなみに、今までに売った創作パンは、冒頭で紹介した「おせちパン」「年越しそばパン」「カルボナーラパン」「麻婆豆腐パン」のほかにも、「お雑煮パン」「七草粥パン」「ひなあられパン」「鯉パン」「うなぎパン」「かに玉パン」「クリスマスパン」「おはぎパン」「コロッケの中身パン」「ナムルパン」「ポトフパン」と多岐にわたる。

左が「お雑煮パン」、右が「七草粥パン」

 「お客さんからの感想は、案外大丈夫。大丈夫じゃない。悪くはないが良くもない。無理。意味不明。まずい。きれい。とかです」と店主。やはり、ストレートに「おいしい」との感想を抱いた人は今までに一人もいないようだ。さらに店主は続ける。

左が「ひなあられパン」、右が「鯉パン」

「皆さんよく買っていかれますよね。ありがたいですけれども、僕、お客さんに『おいしくないと思いますよ?』といつも伝えていますが、本当においしくないと思っているんですよ。大丈夫なんですかね? 僕は絶対食べたくないです。自分で食べたこともないです」

 なんと、店主自身は食べたこともなければ、食べる気もさらさらないという。だが、一番の食べない理由は、おいしくなさそうだから、というわけではない。

「この変わり種の惣菜パン、原価が高くて、味見のために自分で1個食べてしまうと、即赤字になるんですよ。全部売ってトントンの値段設定にしています。値段の問題以外にも、自分の作ったものは自分の味しかしないし、分かりきっているから、という理由もあります。中に挟むものの味は、料理した時点で味見していますし、挟むためのコッペパンの味も分かっているので」

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左が「うなぎパン」、右が「かに玉パン」
左が「クリスマスパン」、右が「メガクリスマスパン」

 なお、1月31日に売り始めた「節分パン」は、開店から約3時間後には完売してしまっていた。「最初の頃は、近所の人に押し売りをしてどうにか売り切っていたのに、Twitterなどを見て知らない人がわざわざいらっしゃっているみたいなんですよね」と店主。

 節分までの間に追加生産するかは不明。話題を呼んでいることはうれしくもあり、同時にプレッシャーにもなっているようだ。

「最初に作り始めた頃は、ほかの食パンなどの普通のパン以外のものを作ることで気分転換になっていたのですが、最近では新作を考えることが難儀になっていて、なんだか本末転倒です……」

左が「おはぎパン」、右が「コロッケの中身パン」
左が「ナムルパン」、右が「ポトフパン」

 次は3月に「ひなあられパン」を作る予定とのこと。「翠玉堂」のおかしなパンは、控えめに言っておいしくない。だがそれがいい。まずいわけでもない。そもそものパンや、その中身自体はおいしいのだから。持ち帰った残りの「節分パン」を豆とパンに分けて、今、食べている私が言うのだから間違いない。

朝井麻由美(@moyomoyomoyo)。フリーライター・編集者・コラムニスト。ジャンルは、女子カルチャー/サブカルチャーなど。ROLa、日刊サイゾー、マイナビ、COLOR、ぐるなび、等コラム連載多数。一人行動が好きすぎて、一人でボートに乗りに行ったり、一人でBBQをしたりする日々。近著に『ひとりっ子の頭ん中』(KADOKAWA中経出版)。構成書籍に『女子校ルール』(中経出版)。ゲーム音楽と人狼とコスプレが好き。

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