「覚醒したゴン」「栽培マンに倒されたヤムチャ」「震えるベジータ」――バンダイ担当者が語るフィギュア「HG」シリーズの秘密
プレミアムバンダイ中の人にインタビューした。※1ページに統合しました
「覚醒したゴン」「栽培マン戦の倒れたヤムチャ」「股間が光るヒソカ」「震えるベジータ」――いずれも人気漫画の有名なシチュエーションだが、近年、バンダイがこれらに並々ならぬ情熱を注いでフィギュア化している。一体何が起こっているのか。同社のベンダー事業部は2014年5月に「HGシリーズ」の第1弾として、「HUNTERXHUNTER」の覚醒したゴンのフィギュアを発表。Webサイトの凝ったデザインもあって、大きな話題になった。
以降、下記のようにシリーズ化され、これまでに9作品が発表されている。
発表年 | キャラ名 | HG |
---|---|---|
2014年5月 | ゴン | Hunter Gon |
2014年12月 | ビスケ | Hunter Gotsui |
2015年3月 | ヤムチャ | Hayakukoi Gokuh |
2015年6月 | タケシ | Hard rock Gym leader |
2015年7月 | 戸愚呂 | Hyaku percent Genkai toppa |
2015年8月 | カスミ | Hanada city Gym leader |
2015年12月 | ヒソカ | HYSKOA's Glory |
2016年2月 | ベジータ | Hajimeteno Gatagata |
2016年3月 | クラピカ | Hinome×Genei |
バンダイに問い合わせたところ、やはりと言うべきか一連のシリーズは全て同じ人物が手掛けていることが判明。このたび、その企画開発担当の三原脩平さんに「HG誕生秘話」から「サイトの作り方」「今後の展開」までお話を伺った。
――そもそもはどういう流れで誕生したんですか。最初はゴンさんですよね
最初はそうですね。ハンターゴンで「HG」。当初はカプセルで出そうという話だったんですよ。筒型のカプセルを展開しているので、それに入れるリアルフィギュアでゴンを出したいと。髪の毛を別パーツにして、ゴンの本体だけが入っているカプセルと、髪の毛だけが入っているカプセル。画期的なことに髪の毛だけを集めていくと理論上、無限に伸びていく。「夢の無限ゴンさんが作れます!」みたいなことを会議で提案したら、同僚らに「そんなのは売れない」「髪の毛だけなんていらない」「は?」とけんもほろろに一刀両断にされて。まぁ正論ですよね。基本的に正論にはめっぽう弱いのでカプセルで出すのは即座に諦め、プレミアムバンダイでやることになりました。
――なぜHGという名称に
ベンダー事業部が出すからにはやはり過去の偉大なるブランドである「HG(ハイグレード)」の名前を拝借したいと思いまして。温故知新というんでしょうかね。とにかく最終的にはブランド名をいじり倒す方向に落ち着きました(笑)。
――それにしてもかなり攻めてますよね。怒られることはないんですか?
怒られるといいますか、ヤムチャの時はわりといろんな意見をいただきました。「死んでいる姿をフィギュア化するのはどうなんだ?」など、倫理的な側面で。でも、こちらは1度も「死んでいる」と言ってないんですよ。あれはクリリンが死を確認する前のヤムチャなので、死んでいるか死んでいないかは分からない。「シュレディンガーの猫」みたいな話で、まだ事象が収束していない状態のヤムチャなんです。まぁたとえ死んでいたとしても、そこはメメント・モリってやつですね。人類不可避の死というフィルターを通してヤムチャを見ることで、逆に彼の生の輝きに気づいて欲しい、そんな壮大なメッセージも込められています。
――嘘ですよね?
はい。
――開発までに苦労した商品は?
「震えるベジータ」はいろいろ苦労しました。あれはもともと、昨夏から受注開始する予定だったんです。でも直前で「震え方に問題があるのでは?」という話があがりました。最初はものすごい震えたんです。まるでヘッドバンギングでもしているかのように。すごいインパクトがあったんですが、これはさすがに違うんじゃないかと。それで震え方を調整することになり、バイブレーションに真正面から向き合うという地獄のような日々が始まりました。担当メーカー様は構造をイチから設計しなおし、「下町ロケット」の技術部ばりに頑張ってくれて、最終的にすごくいい人間の震え方をするようになりました。
紆余曲折ありましたね。こちらとしては「震えるギミックをオミットして、通常のフィギュアとして出すくらいならお蔵入りする」という方針だったので、一時はもう発表できないかと思いました。ちなみに音も相当静かになったんですよ(実演しながら)。ウィィイイイイン。
――あ、ちょっとうるさいんで止めてもらえますか?
はい。
――ちなみにこのバイブレーション機能、ほかのフィギュアで使う予定はあるんですか?
個人的に大好きな西野カナのフィギュアでも企画しようかと。
――絶対怒られる。ベジータでは東京スポーツの記事がYahoo!トップにも載っていましたね。あのエピソードは本当なんでしょうか
バンダイのフィギュア担当者は本紙の取材に「ヤムチャに続くドラゴンボールのヒット商品を早く企画しなければならないという強い焦り を感じていたある晩、あまりの焦りゆえに布団の中で震えている自分に気付き、天啓を得ました。そういえばあの時ベジータも震えていたな と」と震えるベジータ着想の瞬間を明かした。
ヤムチャのインパクトを超えるための要素を探す中「最終的には深夜のファミレスで、もう実際に震えさせるのが一番すごいんじゃないか という結論に至りました」(同担当者)と実際にモーターで震えさせることを思い付くた。この考えに周囲の関係者は「これ震える必要ありますか」と一様に突っ込みを入れたという。
いや、主にネタですよ。東スポさんからメールをいただいたので、面白い感じで返信したら数時間後にはYahoo!のトップにいて、「え?校正とか来ないんだ」とびっくりしました。すごい適当にタクシマさん(上司)と笑いながら考えた「布団の中で震えてうんぬん」がトップとは、やっちゃったなと思いました。しかし、反省はしてません。深夜のファミレスで震えることになったのは本当です。押上の店舗ですね。
――(笑)。ベジータは4949円という値段も印象に残りました。価格設定はどのように
可能な限り手にとりやすい価格で提供しようと努力しています。ベジータはあの震え方を再現するためにすごくいいモーターを使わなければならず……ちょっとお値段高めになってしまいました。それでもなんとか4949(シクシク)円とギリギリ皆さんに笑っていただけそうな価格に着地できました。お願いです、くすっと笑ってください。今後もこの無理矢理こじつけ価格シリーズを続けたい所存です。
――ちなみにメイン業務は別にあるんですね
はい、本業は仮面ライダーの商品担当です。
上司:それも当てているんですよ。
番組のおかげです。命燃やすぜ。
――三原さんはバンダイとはどのように関わってきたのでしょう
経歴で言いますと大学3年生の時に……。
上司:そこから?
就活から説明させてください。自分はいわゆる大手企業就活をしていまして。「聞いたことがある企業しか受けない」と。マスコミとか保険会社とかいろいろ受けたんです。その結果、最終的にバンダイにご縁がありまして。学生時代は「モンスターハンター」のやりすぎで留年するわ2歳年上の彼女にもフラれるわで散々だったんですが、そんな自分をバンダイは拾ってくれて……。
上司:なんだかんだ特撮作品には詳しかったんです。
入社後はずっとベンダー事業部で、6年目がもう終わります。月日は百代の過客にして行きかふ年もまた旅人なり、ってやつです。戦隊・ライダーを担当して、ガシャポン商品を作り続けていたんですけど、ふと大きいフィギュアが作りたいなと。カプセルに入らないけど作ったら面白いフィギュアはたくさんある。でも何処も出していない。これをどうにかベンダー事業部が商品にできないかと考えた末のプレミアムバンダイです。
――確かにプレバンは自由度が高い印象があります。例えば、ゴンさんのフィギュアを作る時は何人くらいのチームで動いているんですか?
企画として動くのは自分1人です。もちろん原型師さんなど、社外ではいろいろな方に協力してもらっています。ちなみに受注を開始する際には素晴らしい上司にいろいろと助けてもらっています。洗練された二人三脚です。
上司:二人三脚言いたいだけだろ。
美談を作らせてください。イメージ戦略です。
――あの独特なサイトはどのように作ってるんでしょう
ラフは全部、一字一句自分が切っています。あそこは自分の想いをお客さんに伝えられる、対話できる唯一の場所なので。あとはラフを投げてるデザイン会社さんにページ作成をお願いしているんですけど、毎回ほぼ同じ方が担当してくれていて、自分の意志を汲んだいい感じのデザインに仕上げてくれます
HGは自分の首を締めるシリーズでもあるんです。どんどん面白くしないとネットの人々が満足してくれない。ネットの目は意識せざるを得ないので、要素を追加していきながら、長すぎないよう、うざくならないよう、独りよがりにならないよう、そして「センスが悪い」と言われないよういろいろ努力しています。結構繊細なのでたたかれると傷付きます。
――タケシの時から「原型師コメント」が入るようになっていますよね。あの手法はいつ発見したんですか?
……。
――ヒソカから入るようになった「各界から絶賛の声」については
……。
上司:これらについては残念ながら話せません。
――カビゴンのサイトもよくできていました。こちらにも関わっているんですか?
あれは自分が教育した後輩が作ったページです。自分は直接関わってないですね。あのページは自分の作るページよりもゆるふわポップに仕上がっていて、なんだか育ちのいい人間が作ったのが伝わってきますね。
――HGシリーズの中で一番お気に入りのものは
役に立つのはゴン。やっぱり空間を縦に使えるので。後輩は髪にメモを貼ったりしてますが、とにかくいろんな用途に使えます。握るとなじみ感もある。プレゼンのときにホワイトボードを指す棒の変わりにも使用可能です。暗い時にはヒソカが役立ちますね。間接照明になったり。それで言うとヤムチャはなんの役にも立たないですね。
タケシは爆発感があって良かったですね。告知したらポケモン公式のアナウンスだと思った人もいたらしくて「新作がでるのか!?」みたいに盛り上がってましたからね。そんで蓋開けてみたらタケシですからね。ちなみにタケシ発表同日、「ファイナルファンタジーVII」のリメイクも発表されてTwitterではタケシとFF7がトレンドで戦ってました。笑ってしまいましたが、とにかくFF7のリメイクは本当にうれしいです。
――手応えがあったのはどれなんでしょう
絶対盛り上がるだろうなと思ったのはゴンとヒソカ。ベジータも温めていただけあって、安心してリリースできました。結果的にヒソカとベジータは、ページ内にちりばめた様々な話題喚起の仕掛けがうまくヒットしましたね。
タケシは初の「ポケモン」だったので緊張しましたが、盛り上がってくれました。株式会社ポケモン様がとても協力的で、サイト内で当時のゲームBGMを流させてくれたり、とにかくファンが感動するページが作れたんじゃないかなって思ってます。音がめちゃくちゃ大きかったのは申し訳ございません。
――HGの略称で印象に残っているのは
「 Hayakukoi Gokuh(はやく来い悟空)」です。あれは秀逸だったと思います。
「HYSKOA's Glory(ヒソカズグローリー)」は絶頂という意味とかけてあったんですが、あまりなじみがない単語だったかもしれません。「Hajimeteno Gatagata(初めてのガタガタ)」も結構ストレートに決まって気に入ってます
――制作にあたって参考にしているものはありますか
あまりないですね。ただ自分は普段あまりフィギュアを買わないんですが、そんな自分でも買う可能性があるフィギュアを作ろうと思っています。そうしたら自分同様にあまりフィギュアに馴染みがない人たちにも興味を持ってもらえるんじゃないかと。部屋に飾ってあって、友達が遊びに来た時に話題になるフィギュアを目指してます。あとは、今までどこからも発売していないシーンのフィギュアや、実現されていない仕様のフィギュアを作ろうと思っています。
――作っていて良かったことは
やはり子どもの笑顔が見られることですかね。
上司:子ども買ってないよね
――これまでの作品は「HUNTERXHUNTER」が4つ、「ドラゴンボール」が2つ、「幽☆遊☆白書」が1つ、「ポケットモンスター赤・緑」が2つ。ラインアップが偏っている気がします
好きなんです。どれも本当に作品のファンです。ハンターは実はあまりフィギュアが出ていないんです。こんなに単行本が出ていてあんなに面白いのに全然出ていない。クラピカなんて眼の色が変わるリアルフィギュアが出ていない。一番欲しいはずなのに。なので今回作りました。
――クラピカは今までとはまた毛色が違いますね
これは面白いフィギュアを作るシリーズではなく、自分が欲しいと思うフィギュアを作るシリーズなので、ストレートにかっこよくてもいいんです。仕様に目新しさがあれば成り立つので。ページもかっこいい方向で作ってます。たまにはこういうのもお楽しみいただければと。
――三原さんが好きな作品は
「シャーマンキング」と「トラウマイスタ」を人生のバイブルにしています。もちろんフィギュアを作った作品全てに愛はありますが、この2作品は別格ですね。人のセンスに感銘を受けることってめったにないんですが、この2作品には完全にやられました。両作に通じているのは「読者をおいてけぼりにする感じ」ですね。
――それらのフィギュアを出す予定は
いやーなんとかしたいところですけどね。とくにシャーマンキングなんかいろいろ出せそうなんですけどね。
――期待してます。ちなみに今後のシリーズの予定は?
ほぼ白紙ですね。企画はそこそこあるんですが、いろいろ難航していて。まぁ気長に待っていただければと思います。忘れた頃になんかします。
――最後にネットの皆さんに向けて一言お願いします
特にないです。
(高橋史彦)
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