コラム

「LINEで勧誘された」 SNSで広がるマルチ商法、その問題点と“法律で全面禁止”されない理由(2/2 ページ)

法律で禁止されない理由は。

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 ネズミ講は1960年代~70年代に社会問題となり、78年成立の「無限連鎖禁止法」により全面的に禁止されています。法律的にいうとネズミ講(無限連鎖)とは、

  1. 金品を払って組織に加入
  2. 加入したら2人以上勧誘
  3. 先に勧誘した者は、後の人の払ったお金で、自分が支払った金品以上の金品を受け取る

 という仕組みです。

 ここでは単純な架空の事例を使って、ネズミ講の仕組みを見ていきましょう。

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(1)親会員が子会員を勧誘する。

子会員が勧誘されました

(2)本部に1万円払う。

本部に1万円払います。会員同士でお金をやりとりする場合もあります

(3)子会員が孫会員2人を勧誘する。

孫会員を勧誘しました。本部にはさらに2万円集まります

(4)子会員より5代下の会員ができれば、お金が振り込まれる。

 5代下の会員数は16人いるので16万円もらえる。

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ネズミ算的に会員が増えていきます

 この仕組みは、必ず破綻します。なぜかというと、2代目は2人、3代目は2の2乗で4人、4代目は2の3乗で8人……28代目の2の27乗で、約1億3000万人と日本の総人口を超えてしまいます。28代目の人は勧誘する相手が国内にいないことになります。もちろん、実際には入会しない人もいるので、もっと早く限界がきます。

 下の会員に行けば行くほど、勧誘する相手がいなくなり、支払った金額を取り戻せなくなります。そうして無理な勧誘をして人間関係を悪くしたり、会費を払うためにした借金が残ったりします。そのような被害者が実際に多く発生しました。

 前述の例は、話を簡単にしているので負担金は1万円ですが、実際には条件が異なります。当時の新聞を調べてみると、1口の金額が数十万円のものもあったようで、78年には数千万の借金苦が原因で無理心中などの事件も起きていました。

 当時、特に問題となったネズミ講団体である「天下一家の会」は宗教法人との関係をアピールしたりPRにもたけていたそうです。「財団法人なら」と信じ、友人や親戚づきあいで義理で入るなど、金に目がくらんだだけとはいえない被害者も多かったようです。

マルチ商法って何?

 では続いて、マルチ商法についても見てみましょう。マルチ商法と一言でいっても、ものすごく大量のパターンが作り出されているので「ホリディ・マジック社」を例に説明します。

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 「ホリディ・マジック社」は、1960年代にアメリカで「MLM(マルチ・レベル・マーケティング)」を始めました。これが70年代に日本に進出して、さまざまなトラブルを生み「マルチ商法」と呼ばれるようになりました。当時の新聞にもマルチ商法は「マルチ・レベル・マーケティングの略称です」と書かれています。70年代には同社以外にも国内に300とも500ともいわれる数のマルチ業者が存在したようです。

 こちらも75年の新聞などからホリディ・マジック社の仕組みを見ていきましょう。

 出資金を払い会員になります。会員には「ゼネラル」「マスター」「オルガナイザー」「ホリデイガール」の4種類があり出資金は3900円から90万円。ランクが高い方が収入は高くなります。このランクによる階層構造を「マルチ・レベル」と表現したのがマルチの語源だそうです。

入会には出資金を払います

 新規会員が古参会員から化粧品を購入します。それを自分で勧誘した下部会員に再販売します。

一例では化粧品を1個下部組織に再販売して200円のもうけだったそうな

 新たな会員を増やすことでも、収入になります。

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勧誘することでもお金がもらえます

 つまり、ネズミ講とよく似てはいますが、「金銭だけがやり取りされる」ネズミ講に対して、マルチ商法は「商品やサービスの販売など」をしている組織なのです。人を勧誘すればお金がもらえるという仕組みは共通です。

社会問題化したマルチ商法

 当時の新聞ではマルチ商法について、ネズミ講と同時期に社会問題となったこともあり、「アメリカ版ネズミ講」「ネズミ講商法」とも書かれています。このあたりから「マルチ商法=ネズミ講のようなもの」というイメージが定着したのではないでしょうか。

 ホリディ・マジック社は、化粧品の販売よりも、新たな会員を獲得するほうが収入につながる構造でした。会員を獲得するビジネスモデルだけに着目すれば、ネズミ講と仕組みは同じです。末端の会員はどんどん勧誘がきびしくなる状態を生みます。

 そのため「月収100万円も夢ではない」と言われたのに、出資金さえ取り戻せないなどの被害が多発します。不況の深刻化と共に脱サラ族や主婦、そして高校生にまで被害が出る状態となりました。当時の新聞には、会員の中にはノイローゼになったり、離婚したり、自殺したものまで出ていると書いてありました。

 そのような問題が多発するなか、1976年に訪問販売法(現在の特定商取引法)が成立します。このなかで「連鎖販売取引」という名前でマルチ商法が規制されることになりました。

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 マルチ商法はネズミ講と違って「全面禁止」にはならず、「こういう勧誘方法はダメ」などのルールができたり、契約の解除ができるクーリング・オフ期間が長めに設定されたりするなど、規制と消費者保護の仕組みが盛り込まれる形で決着しました。このような法律での取り扱いの違いが「ネズミ講とマルチ商法は違う」という意見を生むのでしょう。

現在の法律の解説は特定商取引法ガイドに詳しく載っています(公式サイトより)

「全面禁止」論VS「部分規制」論

 これまた当時の新聞を引っ張り出してくると「マルチ商法全面禁止」という声は当時もあったようです。しかし、全面禁止法案の成立は断念されました。そこには、当時流行し始めた「フランチャイズ制度」と法令文上の書き分けが難しいなどの技術的な理由があると説明されていました。

 そこで現在の「営業の形態をある程度緩やかに決めておき、悪い行為を取り締まる」方式が採用されました。78年の国会の委員会議事録を読んでも「全面禁止すべき」という意見と、「悪いマルチだけを取り締まるべき」という2つの意見は強く対立している様子がうかがえます。

 法律の条文で定義するのが難しいマルチ商法。76年の法律制定後一時はトラブルが減少するものの、80年代には法律の規制を逃れた「マルチまがい商法」が登場します。マルチまがい商法で被害を出した会社は、当時大ニュースになった豊田商事の子会社。再び社会問題となり、法律が改正されます。

 このように生まれた「マルチまがい商法」という言葉、これは「合法ドラッグ」のように「合法だからって良いということではない」というニュアンスで使われていました。もちろん、このマルチまがい商法は勧誘方法に問題があったことは言うまでもありません。

消費者問題を学ぶと必ず出てくる豊田商事事件(消費者庁より)

 現在でも、マルチ商法は「組織に参加した会員全てが利益を上げ続けるためには、組織が無限に拡大し続けなければならない仕組み。従って必ず破綻する組織であるのにもかかわらず、あたかも無限に誰もがもうかっていくかのような説明がされることが多い」と問題性を指摘する法律家がいる一方、「特定商取引法の連鎖販売取引は、マルチ商法そのものを違法として禁止しているわけではないのだから、法律を守っていれば違法ではない」という主張もあり、意見は対立しています。


 土地の歴史をたどることで、過去にそこに生きていた人々の生活が分かるように、法律の歴史をたどることで、過去に生きた人々の生活や社会が見えてきます。今、現在のルールがどうしてできたのかを調べて理解することで、無用なトラブルに見舞われる可能性を少しでも下げることができるでしょう。

高橋ホイコ

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