【検証】ドラゴンボールの「舞空術」は科学的に可能なのか?
空を自由に飛びたいな。
空を自由に飛びたいな。タケコプターは使わずに。
ギリシャ神話のイカロスも、アメリカのライト兄弟も、そして僕達も、空を目指さずにはいられない、それが人ってものですよね。ただ、飛行機って自由に空を飛んでるとは言えなくない? できるなら、この身で風を切って飛んでみたいものです。たとえるなら、ドラゴンボールの舞空術みたいに!
舞空術の力の源
どうやったら舞空術が実現できるか。ちょっと考えてみましょうか。まずは力の源から。
舞空術を実現するのに必要な「気」といえば……?
そうだね。「電磁気」だね。
電磁気力はものを浮かせたりするのに適した力です。みなさんもこすった下敷きで髪の毛がふわふわ浮いてる現象を見たことがあるのではないでしょうか? 静電気で髪の毛が引っ張られるあの力、電磁気力を使おうってことです。
※ちなみに、2つの陽子が電気的にしりぞけ合う力は、2つの陽子が万有引力で引き合う力のなんと1澗2700溝倍!(1.27 × 1036倍)100京倍の100京倍。 途方もない強さだ……。計算して自分でビックリしてしまった……。
とにかく、この途方もない強さになる力で重力に逆らえば、空も飛べるというわけです。これは勝ったでしょ。絶対飛べるわ。
電磁気力で宙に浮くぞ!
では本題。体重75kgの筆者がどうやったら宙に浮けるのでしょうか。
地表付近で筆者に働いている重力の大きさは「75kg重」と表します。要するに75kg分の重力が働いているということです(中学校で習う単位、「N(ニュートン)」を使うと、「735N」と表せます)。この重力以上の力で上に反発すれば宙に浮くというワケ。
今回、筆者を重力という鎖から解き放ってくれる電磁気力を計算するために使う式が、「クーロンの法則」からわかります。
シャルル・ド・クーロン先生によれば、電荷を持つ物体同士の斥力(反発力)は、それぞれが持っている電荷の積に比例し、その2つの物体の距離の2乗に反比例します。「お互いの電気量が増えれば力は大きくなる。距離が遠くなれば力は弱くなる」ってことですね。
スマホのバッテリー換算でどれくらい?
さて、地面から1m浮くことにすると、地面が1m2あたり46μCで帯電している(面電荷密度46μC/m2)中で、自分が0.29mCに帯電すればよさそうです(数字が中途半端なのはご容赦を。計算の都合です)。
これは……! わからん。わからんので電子の個数に換算してみますか。0.29mC は電子1800兆個分!
自分の体に電子1800兆個分の電気をまとわせて、地面には1m2あたり290兆個分の電気を溜めておけば1m宙に浮けるぞ!
……いや、これもわからん。電子って小さいですしね。試しにスマホのバッテリーに換算してみますか。
筆者のスマホ(Xperia Z5)のバッテリー容量は2900mAhです。体に溜めるべき電気量の0.29mCはスマホ容量の0.0000028% (2.8×10-6%)!
え、1%の100万分の1? 余裕じゃないですか!
じゃあスマホの電気を全部体にぶち込めば地上6kmまで上がれるってことか! スマホさまさまだな!
というわけで、地面をいい感じに帯電させて、自分もいい感じに帯電すれば飛べそうな気がしてきました。飛ぶ高さはスマホの充電と相談、ということで。そういえば、超サイヤ人も2とかになるとバチバチしてますね。帯電してたんだな。髪の毛も逆立ってるし。静電気じゃん。
誰もが思い付く懸念
この方法の問題点は
- 地面を帯電させる
- 自分が帯電する
の2点でしょうか。地面を帯電させるのは帯電した板かなにかを置く、ということでお茶を濁しましょう。完全に道具なしはぜいたくの言いすぎというものです。
問題は自分が帯電する方。 帯電ということで思い付くのは下敷きでこする、ですが、どうにも時間がかかります。地面に足がついた状態ではそこから電気がどんどん逃げてしまい、下敷きチャージでは間に合わないのです。髪が逆立つのも結構すぐに終わってしまいますよね。電気が逃げてるからなんです。
※ちなみに、電気を地面へ逃がすことを「アース」といって、洗濯機などを安全に使えるようにコンセントにもう1つ配線してあったりします。
じゃあ電気が地面に逃げないように、ジャンプしてその間に一瞬でチャージすればいいのでは?
南無三。それではあの世行きです。皮膚に電流が流れたときの致死電流は50mA~100mA程度なんだとか。
今必要な29mCを0.5秒でチャージしたら、十分に致死電流です。1秒かけてチャージしたとしても火傷はまぬがれないでしょう。そもそも1秒以上ジャンプできたことある……?(それができないからこうして考えている)
ちなみに心臓について言えば、致死電流はさらにこれの1000分の1らしいです。電気の取扱いに免許が必要なのも納得の危険度。
ということで、ここまでマジメに(?)考えてきましたが、この方法では風を切って空を飛ぶなんて夢のまた夢。飛べたと思った瞬間には黒焦げになるのがオチです。でも自分の身体だけで飛んでみたいですよね、空……。
参考文献
加藤正昭(1987)『基礎物理学3 電磁気学』 東京大学出版会
制作協力
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