「ダライアス」が好きすぎて個人でメガドライブに移植 46歳から始めた3年に渡るプログラミング学習の成果
3画面構成のオリジナル版を、調整のうえ1画面仕様に。あくまでも趣味の範囲での活動で、出展や公開の予定はないそうです。
「3台のディスプレイで描かれる広大なステージ」「魚介類を模した巨大ボス」「プレイヤーの選択で攻略ルートが分岐」など、画期的な設計で知られるアーケードゲーム「ダライアス」(1986年/タイトー)。この名作シューティングを、個人でメガドライブへ移植した猛者が現れました。完成度半端ない。
作者のHIdecade(@AC_Hidecad)さんは、開発の経緯を自身のブログ「Arcade Cabinet」につづっています。もともと3画面構成の原作を1画面仕様で再構成し、ボスのアニメーションやステージの地形など、細部までメガドライブの性能で再現。これら全て、私蔵のオリジナル版を目で見て参考にして作った(いわば“目コピ”)というから驚きです。
連射機能やサウンドテストなど、コンシューマー版らしいオプションも。ボスはオリジナル版の11種か、PCエンジン版「スーパーダライアス」の26種かを選択可能。26体全てと連戦するボスモードも収録しています。
作者が開発を始めたのは2015年のこと。中学生のころに一度は挫折したゲームプログラミングに、46歳になってから再挑戦し、ダライアスをテーマにC言語の学習を始めたといいます。今回完成した移植版は、この3年間の成果。ダライアスはなぜ、HIdecadeさんをそこまで駆り立てたのか、編集部は詳細を聞きました。
メガドライブはダライアスの移植に最適なハードだった?
―― ダライアスの何がそこまでHidecadeさんを惹きつけたのでしょうか。
Hidecade: ゲームの世界観、キャラクター、音楽全て大好きです。高校3年生のころ、近所のタイトー直営ゲームセンターにダライアスがあり、学校帰りに週2~3回通っていました。当時の私は大学受験勉強真っただ中で、「勉強をしないといけない。でも遊びたい」という心の葛藤があり、限られた時間でプレイするダライアスはとても楽しく感じました。特に友人との2Pプレイは最高でした。
しかし割と短い期間で、筐体の基板が「ニンジャウォーリアーズ」に替わってしまい、クリアには至りませんでした。「もっと遊びたかったのに」――その思い出が、今の活動につながっていると思います。
―― ボスの挙動などは目コピで作ったとのことですが、音楽も耳コピなんですか?。
Hidecade: 全て目コピ・耳コピです。自分には基板からプログラムのバイナリデータを抜き出して解析する能力はないので……。移植は本来の目的ではなく、若い頃に大好きだったゲームをプログラミングすること自体を楽しんでいます。敵の動きを再現するための計算式を考えたり、制約の多いハードでいかに効率よく計算できるか――それがうまくいき、思った通りの動きを再現できたときの喜びなどが、自分の趣味としての楽しさや達成感につながっています。
音楽も同じで、大好きなダライアスの音楽を、データだけ抜き出して再現することも可能だったかもしれませんが、それでは意味がありません。尊敬する小倉久佳氏(OGR氏=当時タイトーのサウンド制作部門に所属していた作曲家)の作った楽曲を理解したいために、1音1音時間をかけて耳コピして打ち込んでいます。たとえ音階だけを正確に打ち込んだとしても、思い通りのイメージにはなりません。なので、ビブラートの周波数や深度を変えたり、チューニングをわざとずらしたりしています。特に音を減衰するタイミングなどはとても大事だと思いました。
また、メガドライブに移植するにあたって、PCM音源を1ch使うとFM音源で使える分が5chになってしまいますので、オリジナルのFM6ch+PCM1chより1音少なくなります。ところが小倉氏の作られた全ての楽曲は、無駄な音が1つもなくて、どの音を削るか随分と苦労しました。音楽は素人なので専門的なことはわかりませんが、この作業をしていると、小倉氏の楽曲がいかに素晴らしい音楽であるか実感できますし、1音1音がとてもていねいに作られていることが分かります。技術的に自分の打ち込みはまだまだです。オリジナルは、音の歯切れや透明感が素晴らしく、打ち込みなのにグルーヴまで感じることができます。
―― メガドライブだからこそ再現できたことや、逆に再現できなくて心残りだったことなどあれば教えてください。
Hidecade: 当時、競合機種だったスーパーファミコンはメガドライブよりも使える色数が圧倒的に多く、音源に関してもオーケストラ風の重厚なストリングスの音色は衝撃的でした。しかし、メガドライブは色数が少ないからこそ、多くの画像を軽い処理で操作できますし、FM音源チップからリアルタイムに生成された音は音色の変化が豊かで、決してスーパーファミコンのADPCMに負けていないはずです。
もし、スーパーファミコンにダライアスを移植するとなると、色数がオーバースペックで、もしかしたらCPUの処理が追いつかなかったかもしれません。そういう意味では、オリジナルと同じFM音源を持ち、さらにCPUも同じMC68000(オリジナルは2個ですが……)であるメガドライブは、ダライアスを移植するには最高に相性の良い機種だったのではと思ってしまいます。今回は容量を気にせずプログラミングしたので、再現できなくて心残りだったことはありません。ちなみにソフトの容量は32メガビットです。
―― 3画面の原作を1画面化するにあたって、何か工夫はされましたか?
Hidecade: オリジナルでは3画面の横長ゆえ、敵や弾の動きが早く、それがダライアスの特徴になっていたと思います。1画面でそれをすると動きが早すぎてゲームバランスが悪くなります。スピードを3分の2ぐらいに遅くして、それでいて見た目が遅くなりすぎない、微妙なところで調整しています。
―― Twitterではぜひ遊んでみたいという声が多く寄せられていますね。今後イベントへ出展するといった活動は考えていますか?
出展や公開の予定はありません。ブログやTwitterなど、あくまでも個人の趣味での活動に留めたいと思っております。みなさんからのアドバイスや、暖かいお言葉のおかげで完成できました。とても感謝しております。これからもよろしくお願い申し上げます。
2013~2015年にダライアスの筐体を趣味で製作し、そこから今回の移植版を開発と、5年以上も同作に取り組んで来たHidecadeさん。ブログ記事の最後で、ダライアス関係の活動はいったん終了と告げるとともに、応援してくれた読者や、オリジナル版開発スタッフへの謝意を述べています。
画像提供:HIdecade(@AC_Hidecad)さん
(沓澤真二)
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