3分に及ぶ「出産シーン」 「HUGっと!プリキュア」が子どもたちに伝えたかった“母の強さ”と”父の責任”:サラリーマン、プリキュアを語る(2/2 ページ)
いつだって子どもに誇れる大人でありたいですよね。
テーマから逃げない、「HUGっと!プリキュア」
そもそも子ども向けアニメで、「出産」と真面目に向き合い、あいまいにすることなく、真正面から「出産により新しい命が生まれること」を描くのが、「HUGっと!プリキュア」のすごいところでもあります。
「HUGっと!プリキュア」は、いつでもテーマを真正面から描きます。
例えば、今回「生まれてくる命の尊さ」を表現したいのであれば、「子犬が産まれる」などにすることもできたはずですし、いじめ問題にしろ、「男の子だってお姫さまになれる」「人のこころを縛るな」などの多様性を示唆するセリフにしろ、決してあいまいな表現ではなく、真正面からの言及をしています。
「子育て」「命の誕生」「多様性」「女性の社会進出」といった難しいテーマを扱う本作品において、比喩的な表現では子どもたちに伝わりにくい、という判断をされているのか、もともとそういった表現を得意とする佐藤順一監督の意向なのかもしれませんが、少なくとも「直接的で強めのメッセージを子どもたちに届けよう」という意図を感じます。
そして「あいまいな表現で逃げない」のは子どもに対しての信頼の証なのです。
また、そのような直接的なメッセージから「家族の会話」へとつながっていくことを期待しているのではないかと僕は思っています。
カッコイイ大人を描く、「HUGっと!プリキュア」
「HUGっと!プリキュア」では、例年のプリキュアシリーズにも増して、たくさんの「カッコイイ大人」が描写されています(第27話の女医さんもカッコよかったですよね)。
プリキュアの両親たちもカッコよく描かれます。
イジメを受けていたはなちゃんのために転校を決意し、はなちゃんにただ共感するはなの母・すみれさん。
ホームセンターの店長で、育児から家事までこなし、はなちゃんに的確なアドバイスをするはなの父・森太郎さん。
さあやの母・れいらは女優としての高みを目指し続け、さあやの目標となりました。
それを支えるのは、専業主夫である夫・修司さん。「専業主夫」をかっこよく描くことにより、職業の多様性をも表現しています。
ほまれの両親は離婚していますが、お母さんは建築現場で明るく働いています。
それを支えるのは、ほまれのおばあちゃんとおじいちゃん。離婚していても、決してマイナスな表現をすることなく、周りが支えることの大切さを描いています。
縛られた家父長制から、多様性を認める家族へとなりつつある、愛崎家。
アンドロイドであるルールーははなの家族に受け入れられました。
多様な家族形態があり、それぞれの家庭が生き生きと描写されています。
どんな家族形態においても「子どもたちに、大人のカッコイイ姿を見せる」という強いメッセージを感じます。
もちろん、家族だけではなく、ブラック会社を辞め見事に新しい会社を興した元クライアス社の3人、26話でさあやの母・れいらと一緒に子育てをした撮影所の人々、タコ焼き屋の店主からデザイナーまで、みんな「カッコイイ大人」なのです。
「なんでもできる、なんでもなれる、輝く未来を抱きしめて」
口でいうのは簡単ですが、それを実行するのには相当な困難が伴います。
子どもたち無限の未来のためにも、ただ口で言うだけではなく、われわれ大人が「カッコいい姿」を子どもたちに見せていくことが大切なことじゃないのかな、と思います。
現実では大学医学部の入試において女子の点数が不正に下げられていたことが報道された昨今。そんな時代に「なんでもできる、なんでもなれる、輝く未来を抱きしめて」を謳(うた)うプリキュアが放送されているのは、ある種の皮肉でもあり、また逆説的に未来への希望になっているのではないでしょうか。
(少なくとも、今の子どもたちが「なんでもできる、なんでもなれる未来」を作っていくことが、僕たち大人に課せられた使命なのだと、僕は思います)
「子育てがテーマのプリキュア」を表現するためには、「そのプリキュアを育てた親を描く」
「お仕事がテーマのプリキュア」を描くために「カッコよく仕事をしている大人を描く」
「HUGっと!プリキュア」はいつでも「言葉」ではなく「行動」で示しているのです。
(自戒を込めて)自分も子どもたちに恥ずかしくない生き方をしていきたいな、と思います。
はなの初恋の相手はジョージ・クライ?
カッコイイ大人がたくさん出てくる「HUGっと!プリキュア」。もちろんカッコイイ大人を描くためには、アンチテーゼとしてのクライアス社の悪い大人たちの描写にも力を入れています。
その最たるものが、プリキュアの敵組織、クライアス社の社長「ジョージ・クライ」です。
『月刊アニメージュ』2018年9月号(徳間書店)のインタビュー記事では、座古監督によりジョージ・クライが「はなの初恋の相手」であることが明らかになりました。
はなにとって、ジョージは初恋の相手なんです。
――『アニメージュ』2018年9月号(徳間書店)85ページから引用
「初恋の相手が、敵組織のボス」というのも少女漫画的な展開ではありますが、同インタビュー記事内で佐藤順一監督に「まあ、人でなしですよね(苦笑)」(84ページ)と言及される「ジョージ・クライ」。
そんな「人でなし」にプリキュアがどう立ち向かっていくのか、今後の最大の焦点になっていくものと思われます。
ジョージ・クライという大人にどう立ち向かうのか?
「HUGっと!プリキュア」もこれから後半戦へと突入、物語も大きく動いていきます。そこでもやはり「大人」がキーワードになっていくのではないでしょうか。
「ジョージ・クライ」という大人にプリキュアがどう立ち向かっていくのか? ハリハム・ハリーという大人の男性を巡るほまれ、ビシンの戦いはどうなっていくのか?
ドクター・トラウムと、その娘(?)アンドロイドのルールーの関係はどうなっていくのか?
「HUGっと!プリキュア」は「子育て」をテーマにしているからこそ、丁寧に「大人」を描いています。今後の展開は、そんな「大人」の動向に注目してみると面白いのではないでしょうか。
毎週のように驚かされる展開の続く「HUGっと!プリキュア」。
この先も、本当に楽しみです。
(しかし……はなちゃんの初恋がジョージ・クライだった、ってのは結構……複雑な心境だったりする……)
毎週日曜8時30分より
ABC・テレビ朝日系列にて放送中
(C)ABC-A・東映アニメーション
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