連載

緊迫。同じ少年に恋する二人の少女がついに出会ってしまった 「ハイスコアガール」11話(1/2 ページ)

家出少女、ゲーセンに入り浸る。

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(C)Rensuke Oshikiri/SQUARE ENIX

 ゲーセンで燃やした青春があった。ゲーセンで育った恋があった。格ゲーが盛り上がっていた90年代を舞台に、少年少女の成長を描くジュブナイル「ハイスコアガール」(原作アニメは、当時を経験していた人も、そうではないゲーム好きも、そしてかつて子どもだった全ての大人が、共感できる悩みをたくさん練り込んだ作品です。

 2人のヒロイン、大野晶と日高小春がついに顔をあわせました。この空気、一触即発か……?

今回のあらすじ

 受験勉強中にゲーセン通いを我慢していた矢口春雄(ハルオ)。彼の腕はすっかり衰え、初心者だったはずの日高小春全く歯が立たなくなってしまった。彼をフルボッコにしてしまった小春がゲーセンで出会ったのは、大野晶。ハルオのことを恋愛的側面で気にしている2人が邂逅してしまった。

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 なんとなくお互いを認識していることもあり、気まずいったらない。何もしゃべらない大野に、小春は直接切り込む。「大野さん……矢口君の事どう思ってるの?」「大野さんの本当の気持ちを教えて」

 何もいえないまま家に帰った大野は、厳しい指南役にゲームも恋愛も禁止されてしまう。「決められた男性との結婚が控えているのです それがアナタのお父様とお母様の御意志なのです……」

 その後大野は、お金も持たず家出。行方不明になってしまう。

攻めの姿勢の小春

 小春のガン攻め感がすごい回。ハルオへの恋心をしっかり認識している彼女は、大野を恋のライバルとして認識。真正面から切り込みます。

 視聴者側は大野のつらい家庭の現状を知っているだけに、小春が地雷を踏んでいるのがつらくて仕方ないシーン。

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 でも小春、めちゃくちゃ誠実。そもそも現時点の環境は、ハルオに近づきやすい小春が圧倒的有利。それを利用せずに、「もし大野さんが矢口君に対して関心がなく……何も感じてないのであれば……私が矢口君に……」と一歩引きの姿勢すら見せています。正々堂々とした子だよ。

ハルオが大野を気にしてるのくらい分かってるんだよねえ(4巻P66)(C)SEGA

 ハルオが大野のことしか見ておらず、自分のことを全く気にもかけていない現状は、小春には相当つらいもの。大野に引け目を感じて苦しんでいるハルオの姿を見ているのも、しんどい。

 どうすればいいか、ハルオにも大野にも分からない。小春も分からない。ただ小春は、自分の気持ちに正直になり、変わるための一歩を踏み出そうとしている。彼女なりの戦い方です。

嫉妬というより、畏怖に近い(4巻P58)

 頭のよくないハルオが、必死になって進学校に行こうとしたのが、大野のためなのは小春だって分かっています。ゲーム狂の彼がゲームをしなくなるほどの相手だなんて、既に太刀打ちできる気がしない。

 小春が大野に感じているのは、人の心を動かすゲーマーとしての多大なリスペクトと、畏怖。だから彼女は、姑息な手は使わず真っ向から大野に挑みます。

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 この生真面目な性格が、吉と出るか凶と出るか。

拗ね小春、とってもキュート(4巻P84)

 とはいえまだ高校生。大野のことばかり考えているハルオの鈍さ加減に、嫉妬くらいします。まあそんなヤツだから、好きになっちゃったんだけども。

大野にできること、できないこと

枕を涙で濡らすことしかできない(4巻P78)

 大野はというと、何もできない。意思表明できない、というよりは、環境がさせてくれない。小春に直接「本当の気持ちを教えて」といわれた時、そりゃ言いたいことは山ほどあったでしょう。でもここで言葉を出せないのは、やっぱり環境のせい。フィアンセまで決まっている状態で、好きだとはいえない。嫌いだと言ったら小春にハルオを取られてしまう。八方ふさがりです。

 小学校時代、ロスに出発する日に声をあげて泣いて以来、彼女は口を開いて声を出していない。今回布団の中で泣いている時も、唇を固くかんで耐えています。抑圧された状況の中、唯一のガス抜きだったゲーセン通いは禁止され、ハルオと再会したいという希望も折られてしまった。

 家出をしたのは、彼女なりの最大の抵抗。本当にどこかに消えてしまいたかったわけではないはず。お金全く持ってないですし、行く宛もない。それでも自分の意思で逃げた、というのは今までなかった行動。ハルオと一緒にさぼったことはあったけれども、今回は初の反抗です。

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このハルオめちゃくちゃかっこよくないですか(4巻P103)

 大野の前だとハルオは完全に王子様ムーブ。本人は意識していないとはいえ、「大野のことを助けたい」という気持ちが常に心中にあるのだから、たくましくも見えるってもの。小学校時代以上に気持ちを分かってもらえない環境に置かれている、孤独な高校時代。ハルオの存在は大野にとってたった一つの光です。

 誰もなんとも言っていないのに、川崎のゲーセンまで追いかけてきてくれるなんて、まずあり得ない。川崎は中学校卒業前に、2人で「ヴァンパイア」をプレイするため遠征した場所。となれば思い付くのはハルオしかいない。さすがに大野も驚いた顔で、小刻みに震えるばかり。

 ただし、ハルオがかっこよく見えるのは大野視点だから。大野を探している最中、ハルオはゲームショップをのぞいたり、新作ゲームをプレイしたり。誘惑への耐性のなさたるや。

 ハルオは迷走する思春期に突入中。何をしても空回りする自分に嫌気が差しはじめ、自分のやっていることが正しかったのかどうか分からなくなってきている。受験で落ちた時以来、自信は大きく失われてしまった。今回大野を探しに行ったのは大した行動ですが、同時に意味がないんじゃないか、という引け目もあった。ここでアイデンティティに悩むようになったからこそ、次のステップでようやく自分の気持ちに向き合えるというものです。

 さあ、心のガイルさんと共に動き始める時期だ。その先がまだ迷いであろうとも。

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