「女の子同士が手をつなぐ」ことから始まったプリキュアが「男の子同士が手をつなぐ」までに至ったことに祝福を:サラリーマン、プリキュアを語る(2/2 ページ)
「ふたりはプリキュア」から15年。当たり前のことが当たり前になる世の中に。
あなた方が望むストーリーを僕は生きられない
第33話「要注意!クライアス社の採用活動!?」では、天才スケーター「若宮アンリ」君を中心にお話が展開されました。
この若宮アンリ君、出演するたびのプリキュアファンの間で大論争を巻き起こす魅力的なキャラクターなのですが、この第33話では「さらに一歩すすんだ表現が」がみられました。
アンリ君は「似合っていれば、女性の服でも着る」といった価値観の男性です(自分を「氷上の王子」と呼称していることから、性自認は男性のようです)。
「自分に似合うから、ドレスだって着る」といったジェンダーレスな感覚を持っているアンリ君。
第33話では、その男女を超越したルックスと考え方を、大人であるファッションデザイナーの吉見リタ先生が「男・女は関係ない。美しさは全てを凌駕(りょうが)する」「ボーダーレス」と定義づけ、それが彼の魅力である、と評しています。
しかし、本人はそんな「定義」自体には全く興味を示しません。
また、マスコミの望む姿にさせられようとしたときには、「あなたがたが望むストーリーを僕は生きられない」と言い放ち、自分は自分であること、他人に定義されることを否定します。
男とか女とか、ボーダーレスとか安易な言葉で自分をカテゴライズすることはできず、そのどれも本当の自分ではなく、そんなカテゴライズでしか自分を表現できない大人にイラだっているようにも見えました。
そんな完璧な人間に見えるアンリ君ですが、実は繊細な心の持ち主であり、クライアス社からスカウトされ「時間を止めることの幸せ」を示唆されたときに悩むのです(このとき、アンリ君は足を痛めていて、それを誰にも言えずにいるのですよね)。
アンリ君のセリフを引用します。
- ボクってなにもの?
- いろいろなうわさ、カテゴライズ。そこに真実があればいいのに
- 全てを超越した存在? でも声も低くなったし背もどんどん伸びてる
- 生きづらい時代だね。みんな他人のことを気にしている。1人になれば、何も気にしないで済むのかな?
子どもの頃「なんでもなれる、なんでもできる」を体現していたアンリ君は、その体の成長とともに「できなくなること」が増えていくことに恐れを抱いています。(これは輝木ほまれが直面している問題と同じですよね)
「足のケガ」のこともあり、「勝ち続けること」に不安を抱いているアンリ君。この先、「時間を止めれば成長も止まって、幸せをずっと維持することができる」というクライアス社の勧誘に乗ってしまう展開になるのでしょうか。
かつて「自分を愛すること」をプリキュアたちに教えたアンリ君。
今度は「自分を愛し、他人を愛する」を体現するキュアマシェリとキュアアムールの2人が物語のカギを握っている気がしてなりません。
男の子2人が手をつなぐのに15年掛かった
その第33話において、若宮アンリ君と愛崎えみるの兄、正人君、2人の男の子が「手をつなぐ」というシーンが意図的に挿入されました。
本番当日、演技に向かうアンリ君の左手を、正人君が右手でつなぎ「君はできる」と励まします。
「男子2人が手をつなぐ」このシーンに、ネット界隈(かいわい)もややザワつきをみせました。
でも不思議ですよね。プリキュアという作品において「女の子2人が手をつなぐ」のは2004年2月1日「ふたりはプリキュア」第1話ですでに表現されています。男の子2人が手をつなぐことはそれと同じことです。
「プリキュア」という作品にとって「手をつなぐ」というのは最上級に特別な意味合いを持っています。性愛的な意味だけではなく、博愛、信頼を含めたあらゆる好意的な感情が「手をつなぐ」という行為に収束されているのです。
なぎさとほのかという女の子2人が手をつないでから14年。ようやくプリキュアという作品で「男の子2人が手をつなぐ」描写が実現しました。
(以前にも例えば「魔法つかいプリキュア!」ではサブキャラクターである「校長」と「クシィ」でも同様の兆候が見られていましたが、その段階をへてようやく、といった感じでしょうか)
そして「男の子2人が手をつなぐ」という行為は「画期的なこと」でも何でもないのです。
「ふたりはプリキュア」から15年。ようやくそれが「当たり前の世の中」になってきたからなのでは、と思います。
プリキュアで、多様性を描くこと
プリキュアを始めとした子ども向けアニメーションにおいて、ポリティカル・コレクトネス(政治的、社会的な公正)が挿入されることには、僕は大賛成の立場です。
子どもと一緒にプリキュアを見ることによって、保護者の方の「古い価値観をアップデートすることができる」と信じたいですし、何よりも「見るアニメを自分で選択できる大人」と違い、保護者に視聴を制限される可能性もある子ども向けアニメーションにおいては、せめてその中でも多様な選択肢を提示してあげたほうが良いのでは? と思うのです。
そういった意味でも、僕はプリキュアという作品で「イジメ」「ジェンダー」「高齢化」「同性愛」など社会的な問題を「直接的に」扱うことに賛成です。
ポリティカル・コレクトネスに即した表現は、何も「HUGっと!プリキュア」だけに見られるものではありません。過去のプリキュアシリーズでも数多く見られてきました。今作「HUGっと!プリキュア」ではそれが「直接的な」表現で分かりやすく伝えられているだけだと思います。
昨今は小さな子どもにも独占できる「1つのモニター」がある時代です。そんな世の中において、日曜日の朝、親子で見られるという環境にある子ども向けアニメーションの社会的な役割は重要であると思われます。
例えば、プリキュアだけではなく同時期に放送されている、子ども向け(男の子向け)アニメ「新幹線変形ロボシンカリオン」でも「他種族を滅ぼすのではなく、対話をしよう」というお話が展開されています。
また、2018年3月まで放送されていた「プリパラシリーズ」もプリキュアの3歩先を行くジェンダー観、ルッキズムなどを包括した「多様性」の表現が見られた素晴らしいアニメーションでした。
きっと小さなころから、同性愛も高齢化社会も社会間格差も「大人により定義づけされる問題」ではなく「そこにあるのが当たり前の世界」である、という認識をもった未来の子どもたちは、僕のような「今のオトナ」よりも、きっと、断然に強い存在であると思うのです。
「なんでもできる、なんでもなれる。輝く未来を抱きしめて」。
「HUGっと!プリキュア」は、この先、無限の未来を生きていく子どもたちのためのアニメーションです。
そのアニメーションに教育的配慮がなされることは、未来の子どもの可能性を広げることである、と僕は信じています。
毎週日曜8時30分より
ABC・テレビ朝日系列にて放送中
(C)ABC-A・東映アニメーション
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