コラム

一般色覚者にはほぼ分からない“小さくて大きな違い” JIS改訂で「日本社会における色のルール」はどう変わったのか(1/3 ページ)

標識などに使われる「安全色」が変わったのですが、多くの人は気付いていないはず。

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 道路工事中の赤ランプ、踏切、非常口のマーク―― 2018年4月、JIS(日本工業規格)の改訂に伴い、こういった場所に使われている「安全色」が変わったことをご存じでしょうか。

 設備の入れ替わりに時間がかかるため、ひょっとしたら、まだ“新色版”を目にしていない人もいるかもしれません。ですが、仮に見ていたとしても、多くの人は気付かないままでしょう。というのも、一般的な色覚を持つ人には、“小さな違い”しか分からない調整が行われているからです。

上下どちらが改訂前、改訂後なのか分かりますか?

 しかし、この改訂により、あるタイプの色弱者には「色味が感じられなかった標識がカラーになる」など“大きな変化”があるのだといいます。安全色に起こった小さくて大きな変化とは、どのようなものなのか。CUDO(カラーユニバーサルデザイン機構)副理事長・伊賀公一氏に話を伺いました。

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約60年前から配慮されていた「色覚の多様性」

―― 基本的な話になりますが、規格化されている「安全色」とは何でしょうか。

 JISでは、工業製品などの規格が定められています。例えば、「全国各地の工場で、作られているネジの長さ、形状の単位や規格がバラバラ」という状況だと、どれを使ったらいいか分かりにくて不便ですから、そこを統一しようというわけです。

 同じように、色に関してもJIS規格があって、安全色はその名の通り、「安全に関する注意警告、指示、情報」などを示すのに使われます。具体例を挙げると、立入禁止などの標識や各種信号灯、駅の出口表示、気象情報……と多種多様です。

 安全色にはそれぞれの色に意味があって、例えば、赤色は「禁止」「停止」、緑色は「安全状態」「進行」などを表します。

―― 色と意味の対応は、直感的に理解しやすいですね。

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 ただ、色弱などによって色の見え方には個人差があって、「ある人には見やすい色を使った標識などが、別の人には見にくい」という可能性があります。

 例えば、一般的に“目を引く”と考えられている色が、人によっては“目立たない色”に見えることがあります。「白い紙に黒色で文字などを書き、重要なところを赤色で強調」というのはよくある書き方ですが、ある種の色弱では、濃い赤と黒が似た色に見えるんですね。

―― 「ここは重要だよ」という意味を込めて、色を変えて目立たせようとしたところが、かえって見にくくなってしまうわけですか。

色覚のタイプによる見え方の違いを再現する「Chromatic Vision Simulator」にて制作。以下、比較画像は同サービスを利用したもの

 赤・黒とは別の色の組み合わせになりますが、ゲームの世界にも似た話があります。

 PS4用ソフト「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」は開発中、マルチプレイのチーム分けに「赤色・緑色」が使われていたものの、ある開発者の意見から「赤色・青色」に変更されたといいます。動画内では、その方は色弱で「一部の赤と緑を区別できない」と説明されています。

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開発元は、米国のノーティードッグ社。色弱者の割合は、日本より欧米の方が高いことが知られています。なお、色弱はP型、D型といった種類に分類でき、人によって程度の差もあるため、「僕は色盲だから」という説明はやや言葉足らず
「赤・緑」「赤・青」でシミュレーション。この例ではP型、D型で色の違いが大きくなっています

―― そういえば、安全色にも緑色と赤色がありましたが、これは問題ないのでしょうか。

 アンチャーテッド開発者が区別できなかったのは「“一部の”赤と緑」。裏返すと「その一部を除けば、区別できる」わけです。緑色と一口に言っても黄緑色、濃い緑色のように幅がありますから、色合いを調整することで“他の色と見分けるのが難しいゾーン”を外すことができるんですね。

 この点については、1956年に施行された安全色のJIS規格でも考慮されていて、「色神異常者(色弱者のこと)にも、誤認・混同のおそれがない」色を使う、と明記されています。

―― 半世紀以上前から「色弱者にも見やすい色を使おう」という考え方があったんですね。

 ええ。でも、「とにかく他の色と見分けやすければいい」という発想だったようで、実は別の問題が起こっていたんですよ

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