コラム

一般色覚者にはほぼ分からない“小さくて大きな違い” JIS改訂で「日本社会における色のルール」はどう変わったのか(3/3 ページ)

標識などに使われる「安全色」が変わったのですが、多くの人は気付いていないはず。

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 その10年後、今度はJIS改訂で委員に選ばれて「また、ダメかな」と思っていたら、日頃からアクセシビリティーや色覚問題にも取り組んでおられる方々も参加していて、「ユニバーサルデザインに関する規格が、世界で最も進んでいるのは日本。色も大事な要素だから変えていこう」という意見が出て。さまざまな色覚特性を持つ100人超が参加する大規模な調査を行うことができ、その結果が今回のJIS改訂に反映されています。

―― 素朴な疑問なのですが、色に関する社会のルールを変えることは、なぜそこまで難しかったのでしょうか。

 まず、色弱に関する研究自体は昔からあったのですが、実践レベルに落とし込んだものがあまりなかったんですね。ここ15年くらいでNPOなどの活躍もあり、その取り組みが進んで、「どうすれば色覚の多様性を考慮した配色デザインが作れるか」という具体的な提言ができるようになりました。

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 JIS規格を変えるというのは、「個々人ではなく、社会の側で問題を解消していこう」という“障害の社会モデル”の解決策。しかし、以前だったら、私たちも「世の中には色弱者に見にくいデザインがあるから、各人で注意しましょうね」というような“障害の個人モデル”の解決策しか提示できなかったかもしれません。

 もう1ついえるのは「当事者(ここでは色弱、白内障などの人たち)が、安全色のJIS改訂に関わったのは、今回が初めて」だということです。「色の見え方には個人差がある。それなら一般色覚者だけでなく、いろいろな人の意見を聞いた方がいい」というのは普通の発想だと思うんですけどね。

―― でも、今まではそうではなかった、と。

 「自分が置かれている状況の不便さに気付く」のは意外と難しいことだと思います。

 例えば、あるタイプの色弱者で非常口のマークが色味なく見えていたとしても、その人にとってはそれが“自分にとっての色”だから、「何だか目立たない色をしているけど、そういうものなんだろう」と感じるものなんです。だけど、周囲に話を聞いてみると、「え、“あなたにとっての色”だとそんなに分かりやすいの?」という。

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 こんな風に「実は問題がある」ということに気付くためにも、話し合いの最初の段階から、いろいろな人たちに参加してもらって、それぞれが少しずつ遠慮しあいながら、みんなにとって良いものを考えることが必要だと思います。今回の改訂が、社会がそういうことに気付くきっかけになったら、うれしいですね。

 また、世の中には自分の主張ばかりを声高に主張する人もいますが、そういうのも良くないですね。「色弱者には分かりにくい色があるから、白黒のデザインしか認めない!」みたいになってしまうのも、正しい解決ではないと思います。

―― 今回の改訂は今後、どう影響するのでしょうか。

 すでに施行されていますから、現在作られている標識、公共交通機関のサイン類などは新しい規格に準拠しています。既存設備の撤去などが行われるわけではないので古いものも残りますが、2020年にオリンピックがあるので、東京都は変化が早いんじゃないかな、と。

 時折、「標識やランプの色が見分けられないかもしれないから、色弱者は安全管理に不向き」とする意見が見受けられるのですが、JIS安全色をきっかけに分かりやすい色があまねく広がっていけば、誰にとっても安全で暮らしやすい社会が実現できるのではないでしょうか。

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 それから、「JISとISOはなるべく合わせていく」という方向性があるのですが、今回の改訂は「日本が世界に先駆けてより良い規格を取り入れたことで、ズレが生まれた」という意味を持つと思っています。将来的な話になりますが、これがISO改訂に良い影響を与えたら、カラーバリアフリーの取り組みが世界的に広まってくれるのではないか、と期待しています。

※「色弱者」と同じ意味を持つ表現として「色覚異常者」「色覚障害者」などが用いられる場合もありますが、本記事では「『色弱者』の方が差別感を感じる人が少ない」というCUDOのアンケート調査結果に即して、「色弱者」を使用しました。



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