お金の力で幸せになりたい――「フルートが吹けるわたし」を夢見て、17万円のフルートを買った日(1/3 ページ)
フルートが吹けるようになったら、きっと。
いい買い物ができるようになりたい。年を重ねるごとに自分の欲しいもの、必要なものが正確にわかるようになったら良い。けれど、単純な経験のみで買い物上手になれるわけではない気がする。
20歳そこそこの頃。単行本を1冊出して、次作を出すぞー!と意気込んでいたものの、ほとんどニートだったときの話だ。貯金は20万円ちょっとで、梱包のアルバイトで得るわずかな資金で食い扶持を確保していた。3パック67円の納豆を主食にして、本を買うのを我慢して図書館に通ったり、喫茶店に行くのをやめたりして出費を抑えた。バイト先では陶器や掛け軸のような静物とだけ向き合っていたし、家ではPCや本ばかり開いていたから、このまま声を失っても支障ないくらいひとりだった。寂しすぎる。でも、人に会うのにも交通費が気になる。「会いたいけど、往復で千円くらいかかるなぁ。それなら豚肉と玉ねぎ買った方が」みたいな理由で優しい友達からの誘いをなんども反故(ほご)にした。段々とLINEすら届かなくなり、文字を通して人と交流する機会さえ減っていった。会えないし、話してない。お金がなくなると孤立する。ひとりになると心が折れる。これはどうにかしなきゃいけない。一刻も早く解決すべき難題だった。
悲しい気分にならないように、と焦ったわたしは、とにかくお金をかけずに人と会える方法を見つけなければ、と思った。小さい頃なら、誰かと会いたいときには「公園であそぼう」だけで十分だったのに、高校生くらいから「カラオケ行こう」とか「ファミレス行こう」みたいに何をするか、どこに行くか具体的にしておかないと声をかけにくくなったし、大人になってからは「会って話したい」=「飲みに行こう、ご飯食べに行こう」になった。お財布無しで人に会いに行けない。
金銭を持たずに人に会いたい、好かれたい、と思った私は、17万円のフルートを買った。
銀色の高価な笛だ。わりと唐突に買った。フルートなんて一度も吹いたこともないし触ったこともない。フルートの音色が好きだったわけでも、強い憧れがあったわけでも、なんでもないのだけど、切羽詰まって買ってしまった。一人きりの自分を孤独から救い出してくれるのは音楽かも、と思ったからだ。もっと安いフルートもあったけれど、どうせはじめるなら最初からそこそこいいのを持っていた方が良いと思った。
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