好きにならないで、巨大怪獣になっちゃうから! 恋の障壁が破格すぎるラブコメ『乙女怪獣キャラメリゼ』
漫画レビュー連載「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!」。第97回は好きになり過ぎると巨大怪獣化してしまう少女漫画『乙女怪獣キャラメリゼ』を紹介。
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。
おすすめの漫画を紹介する本連載、第97回となる今回は『月刊コミックアライブ』にて連載中、蒼木スピカ先生のラブコメ『乙女怪獣キャラメリゼ』(~2巻、以下続刊/KADOKAWA)をご紹介します。
少女漫画、中でもとりわけ恋愛漫画というのは、身もふたもなく言ってしまえば、その大半は「何かいろいろあったけど、最後はヒーローとヒロインが結ばれて終わる」。そんなジャンルの作品です。しかし、そんな予定調和なハッピーエンドが待っていることが分かっているにもかかわらずなお人気があるのは、2人が結ばれるその「何かいろいろ」の部分にこそ楽しさや緊張があるからです。
例えば、格差の問題。将来結ばれるはずの2人にはそんな障害が立ちはだかります。教師と生徒、お金持ちと一般人、名家と庶民など挙げればきりがありません。しかしその困難を前にしてなお強く結びつく愛情に、我々は心動かされるのでしょう。
さて、本作『乙女怪獣キャラメリゼ』の場合、恋する2人を待ち受ける障害は、そのタイトルに暗に示されているように「巨大怪獣」です。とはいえ、怪獣が2人の恋路を邪魔するわけではありません。主人公の少女自身が、体長100mの巨大怪獣へと姿を変えてしまう奇病に侵された体質の持ち主なのです。格差恋愛ならぬ、体格差恋愛とでも呼ぶべき何ともユニークな作品。もう少し詳しく見てみましょう。
好きになり過ぎると巨大怪獣化してしまう少女
都内の高校に通う女子高生・赤石黒絵は、無口で引っ込み思案。その性格のため、クラスメートから「メンヘラたん」とからかわれる彼女には大きな秘密がありました。それは感情が高ぶると、腕がうろこに覆われて肥大化したり、背中に大きなひれのような骨が盛り上がったりする謎の奇病に侵されているということ。幼い頃、好きだった男の子に告白したときにも、気持ちが高揚して発症。腕が不気味に変化してしまい、「お化け!」と逃げられた悲しい記憶を抱えています。
「こんな世界で私が受け入れられるわけない」
今の根暗な性格もこの奇病によるトラウマの影響が大きいのでしょう。休み時間も非常階段でひとり絵を描いて過ごすなど、人とのかかわりを極力避けようとする黒絵。しかしある日、彼女はたまたま非常階段にやってきたクラスのイケメン男子・南新汰の、イケメンゆえの悩み相談に乗ることに。クラスの底辺にいる彼女にも分け隔てなく笑顔で接し、物理的にも精神的にも遠慮なく距離を縮めてくるスクールカースト最上位の新汰。その優しさに落ち着かない黒絵は、まもなくその場を逃げ出します。
しかし、黒絵の助言に感銘を受けた新汰は翌日も非常階段に待ち構えていました。しかも、黒絵は好物のパンケーキにつられて、新汰と二人きりで表参道のおしゃれなお店に行くことに――。まるで恋人同士のような時間を過ごしたその帰り道、黒絵は新汰に手を握りしめられます。
これまでの人生で一度も経験したことがない不意の手つなぎに、高ぶる気持ち(※あかんやつ)、高鳴る鼓動(※あかんやつ)、熱くなる身体(※あかんやつ)。これまでにないほどの感情の高ぶりに耐えられなくなった黒絵は新汰の手を振りほどき、そのまま駆け出します。そして――
「――テレビをご覧の皆さま 信じられないことが現実に起こっています」「これは特撮でもCGでもありません!」
「ここ東京に巨大生物が出現しました――!!」
突如現れた全長100mの巨大怪獣と、それを取り囲む自衛隊の戦闘ヘリ。これまで体の一部しか変化しなかった黒絵が、ついに全身を巨大怪獣へと変貌を遂げます。黒絵を見失ったとほぼ同時に目の前に現れた巨大怪獣を見上げる新汰。変身によってそれまで抑え込んでいたさまざまな感情が解き放たれた黒絵は、口に熱線を蓄え、まさに暴走する寸前。
しかしその時、彼女は新汰の視線を感じて我に返ります。ビルのガラスに映り込んだ自分の姿に恥ずかしくなった黒絵は、そのまま隅田川に潜行。しばらくして、川縁には、びしょ濡れの朦朧とした状態で人の姿を取り戻した黒絵がありました。
翌朝、怪獣化していた記憶が全くない状態で目覚めた黒絵。晴海に出現したことから「ハルゴン」と名付けられた謎の怪獣で世間の関心は持ち切りです。そしてモニターに映し出された異形の怪獣ハルゴンは彼女のもう1つの姿に他なりません。そう、これはまぎれもない現実なのです。
「格差を恐れる」という恋の障壁を、巨大怪獣で
悲しい過去を繰り返したくない。だから自分の秘密は知られたくない。けれど、恋に落ちれば落ちるほど、自分の姿は異形のものへと変わりやすくなってしまう。事によっては、街を破壊してしまう脅威にさえなってしまう――。彼女のそんな心配とは裏腹に、皮肉にもパンケーキの一件以降、新汰との距離は縮まる一方です。
そんな相反する2つの気持ちを整理しようとしても、今やちょっとしたやきもちだけで、体が変化してしまう黒絵。物語はその後、自作のモ●ラ寝袋を着込んでハルゴン出現を待ち構える怪獣マニアの残念美少女・真夏や、黒絵の秘密を知る生物学者・響野らを巻き込んで展開していきます。
なお、先日発売された第2巻では、黒絵と新汰が東京デスティニーランドでデートをすることに。遊園地デートなんて、普通の少女漫画なら何ともベタですが、本作に限っては、デートの舞台が「あのお城」に象徴される夢の国だなんて、なんて壊しがいのあるシチュ(以下略)。みんなの夢は守られるのか、ぜひ実際に読んでみてください。
冗談はさておき閑話休題。冒頭でも書いたように、恋愛作品の醍醐味は2人の間に困難な障害が横たわればこそ。しかしその一方で、その最大の困難というのは、実は身分だとか職業だとか外面的な部分よりむしろ、その格差を恐れる本人の心の葛藤であるようにも思うのです。
言い換えるとそれは「好きなら何でも乗り越えられる!」という決断ができるかどうかということでもあります。作者の蒼木先生は「めっちゃ変な少女漫画できた」と、あとがきで書いておられますが、なかなかどうして、少女漫画の核心を衝いた作品なんじゃないでしょうか。
本作の場合、「好きになり過ぎると巨大怪獣化」という、正直ちょっとどうかしている設定によって、乗り越える難度が少しばかり高すぎる気がしないでもないですが、黒絵と新汰がどのようにしてこの困難を乗り越えていくのか。現状では解決の糸口がまだ見えていないこともあって、次巻以降の展開が楽しみです。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
(C)蒼木スピカ /KADOKAWA
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