レビュー

同人誌の執筆者は全員親族 “一族4世代”で作られた『一族本』が唯一無二のインパクト司書メイドの同人誌レビューノート

生後6カ月の赤ちゃんから、92歳のおばあちゃんまで18人が参加しています。

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 春。初々しい緑が顔を出す季節ですね。小さな芽がすくすく伸びてやがて葉を広げ、大木へと育つ……今回はそんな壮大さすら感じる大作同人誌をご紹介します。

今回紹介する同人誌

『一族本』A5 156ページ 表紙箔押し・本文モノクロ

作者:高世えり子 他17人

赤に銀の箔押しが効いた重厚さ。中身もそれに負けない盛り上がりです

一族4世代、総勢18人参加。執筆者全員親戚です

 こちらのご本、手に持つと確かな重みの分厚さが。しかし稀有(けう)なのはその厚さだけでなく、この同人誌は総勢18人の寄稿によって作られ、その皆さまが全員ご親戚という一族をあげて作られた同人誌という点なのです。

 「同人誌を作りたいという輩が集まったら全員親族だった4世代血縁者アンソロジー」と銘打たれた通り、下は生後6カ月のマサキンくんから92歳のヤエおばあちゃんまで、すばらしい幅広さの参加者によって156ページものご本が出来上がりました。「良かったらアンソロにゲストして~!」とお願いするお相手がおばあちゃまだなんて、なんてすばらしい環境なのでしょうか。この上さらにご一族の皆さま、オタクでありながら今回不参加という人もまだ数名控えていらっしゃるのがすごいです。

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なれそめマンガにはまだこちらに載っていらっしゃるかた以外にもたくさんの参加者が

マンガ、小説、イラスト……最年少は手形で参加の自由っぷり

 集われた皆さまの原稿は多種多様! 「みんな好きなもの、書きたいものを書きました」という自由さがあふれます。

 もともと大学の漫研メンバーでコミックマーケット第3回から参加されたり、プロとしても経歴のある同人誌活動ベテランさんたちがお父さんお母さんとなりマンガや小説、エッセイを書き、その子どもさんたちはイラスト、エッセイマンガやゲーム批評、ゲームブック方式の物語など多彩な創作で参加。さらにその次の世代は今しか描けない! という線が魅力を増す作品がご本を彩ります。


滑らかなペンタッチのマンガあり、難読地名パズルあり……と、創作というもののバリエーションの広さもすごいです

 中には今までオタク的活動をしてこなかったママが、娘さんのためだけに描いた魔法少女のイラストという愛情あふれるレア作品も! 本来であればご家族しか見ることができないであろう作品をわれわれ読者に見せてもらえるなんて、こんな機会ほかにないのでは!?

基本は自由奔放に。それでいて時々交わる創作道の豊かさよ

 主宰の高世えり子さんのマンガでは一族の皆さまの様子が伺えて、作品と合わせて読むと親しみ倍増です。執筆者個々のエピソードと創作作品が重なると、まるで親戚の方々の集まりに、ちょっとおじゃまさせていただいているように、そこここから楽しい話題が紙面を通じて聞こえてくるみたいです。

 鉄道や地名など旅系で攻めるお父さま、ちょっとドジっ子(?)なおばさま、還暦オーバーチームになるとドキュメント脳出血 VS 骨折というハードな出来事すらネタにしてしまうという創作の底力を見せつける作品の数々。若手のキラキラすてきなイラスト、オタク2世アラサーさんたちは己の世界を確立し、さらにおばあちゃんのゲスト原稿もあって……各世代がそろうとこんなにもバラエティーに富むのですね! という面白さと、ご本の中には、「何か書く?」「書こう書こう!」というやりとりがあったんじゃないかな……とわいわいと皆が集う、温かい空気感があります。

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 例えば年齢一桁のメンバーは、まだすこーしペンを持ち慣れていない方々も見られる中、大人が手助けすることで作品背景が分かりやすくなっていたり、作中のちょっとした場面に親族の様子が描かれていたり、合作になっていたり……作品の中と外でさりげない交わりが現れているのが一族の結束感を高めます。


初々しい線に、背景が付けられたことで創作意図が伝わります!

 何より「好きだから書いてみた」「面白そうだからやってみた」……同人誌を作るって楽しいね! という気持ちでこの分厚いご本がいっぱいになっているのって、とてもすてきなことだと思います。

 このご本、今回でなんともう第4弾とのこと。これからも一族のさらなる広がりと皆さまのご活動をお祈りいたします!

サークル情報

サークル名:池猫屋騒動

Twitter:@takase_eriko

入手先:Booth

連載タイトルが変わります

 さて「司書メイドの同人誌レビューノート」は、今回で一区切りです……が、4月からはタイトルを変えてリニューアルいたします。またご覧いただけましたら幸いです。ではまたの再会を祈って。ごきげんよう。

今週のシャッツキステ


「司書メイド」から「司書」へ。レビューをしている私、ミソノがメイドの営む私設図書館シャッツキステを3月末で旅立つことになりました。……とはいえ、同人誌好きな司書であることは変わらずです。なので、またこれからも楽しい同人誌の世界をお伝えできたらと思います

著者紹介


司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る

関連キーワード

同人誌 | 親戚 | 家族 | 漫画 | イラスト

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