子どもの頃、都市伝説や怪異の話に引かれたりはしませんでしたか? 私は「○○の鏡という語を20歳まで覚えていると息絶える」というのを定期的に思い出しては震えていましたが、ありがたくもつつがなく過ごしております。
いかにも怪談な話や、超常現象を学問として研究されていたけれど、今となっては眉唾(まゆつば)じゃないかと思われるようなエピソード……不思議なお話は、そわっとする魅力がありますね。
今回ご紹介する同人誌の作者さんは、幼い日に出会った「ナメクジはテレポートできる」というエピソードに引きつけられ、その源流をたどるべく、大調査を続けていらっしゃるのです。
今回紹介する同人誌
『ナメクジテレポートここまでのまとめ+α』
A5 104ページ 表紙・本文モノクロ
作者:くまみ
ナメクジがテレポートする!? 1冊の本からの思い出をたどる
作者さんは、幼いときに読んだ本がきっかけで「ナメクジはテレポートできる」と思い込んでしまいます。成人後につい本気でその話を披露して、その場の爆笑を誘うも、作者さん的には「えっ! 私、だまされていた!?」と衝撃に襲われます。そんなてん末をネットでつぶやいたところから調査はスタート。
「ナメクジはテレポートする」と書かれた本を探すことからはじまり、やがてそのエピソードは昭和10年(1935年)の雑誌や、昭和11年(1936年)の本に掲載された目撃談が発端なのではないかと源流を突き止めていきます。それは2013年から現在まで、なんと足かけ5年に渡ります!
その長きにわたる疑問と調査の経緯を、こちらのご本ではマンガ形式で、丁寧にたどって描かれています。手足は棒線のカエルさんが、驚いたり、頑張って資料を探したり、時に諦めたり……、日々の中で意外とたくさん寄せられる情報に触れながら、ナメクジテレポート(略して“なめテレ”)にはまっていく様子が伝わってきます。
「なめくじテレポート」に関しては誰よりも詳しくなりたい!
最初は「幼いときに出会った本をまた見たいなー」という動機だった作者さん、やがてだんだんと心境に変化が起こります。
ターニングポイントは探していた文献を知人から紹介されたとき。出会ったうれしさを「すごいや! ラピュタは本当にあったんだ!」という気分だった……としつつも、「先に調べてくださった人がいて楽ちんラッキーだし、なのに私、いますごく同時に先を越されて悔しいって思っている」という感情の芽生えに気付きます。
さらに調査を進める中で、いままで知らなかった情報にあたり、ついに「もっと調べたい」「可能な限り調べたい」「そしてなめくじテレポートに関しては……誰よりもくわしくなりたい!」と決意するに至ります! わああ! 熱い! 描かれているのは、棒線手足のカエルさんですが、そのカエルさんの凜々しい表情に、調べる楽しさに胸が昂まる気持ちが伝わってきます! 果てしない“なめテレ”坂を駆け上がり始める、その心境に、読んでいるこちらも思わず盛り上がってきました。
作者さんの調べ方は多くの人を一度に動員するようなものではありません。基本的にネットや知人から寄せられた情報を元に、自分で図書館に足を運んで文献をきちんと確認し、いままでの資料と照らし合わせるという、自力、独力での調査です。丁寧に、まとめて書き込まれた情報群に、作者さんが誠実になめテレについての情報をみんなに伝えようとされているのを感じます。
こつこつとした苦労を入れ込みながらも、そこから伝わってくるのは、知ることの楽しさ、面白さです。調査には国立国会図書館から地元図書館、県外の図書館への調査依頼に加え、ネットも駆使されています。使えるツールは便利に使い、過去の資料を保存して提供するという役割を持つ図書館もしっかり使いこなし、そして、その結果をこうして作品として残してらっしゃることに、図書館司書としてもうれしさがこみ上げます。
利用した図書館の近隣のちょっとしたお食事情報が載っているのも楽しいですよ。
調べるのって面白いな! を支える、探究心とネットワーク
こうした調査の結果、なめテレに関する情報を着実に精査していき、なめテレエピソードの源流の要人と思われる「動物学者」さんが、実は動物好きの巡査さんで、「動物学者さんが見たなめテレエピソード」は伝言ゲーム的に後世に流布されたのでは……ということも突き止めていかれます。
はぁ……もう楽しい……。ご本を読むまでなめテレのことを考えたことはなかったのに、作者さんが丹念に調べた知識も読書として得つつ、苦労話とミックスされて書かれることで「この資料とはこうして出会ったんですね!」とうれしくなります。論文でなく、エッセイマンガのように描かれた形ならではの楽しさで知識に触れる喜びに私も胸高鳴ります。もー面白い!
しかし、ここまで調べても、まだ作者さんが出会ったご本とは再会を果たしていらっしゃいません。いつかこの楽しいなめテレ本に出会うことができますように……!
今週のシャッツキステ
著者紹介
司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る
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