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テラスハウス出演者に「テレビ用」と言ってしまう心理とは? 人気漫画家が分析する“コンテンツに描かれた人間”の見方コナリミサト×高野ひと深

『凪のお暇』×『私の少年』。“飲酒対談”でいろいろ本音を語りました(完)。

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 『凪のお暇』『私の少年』。ともに30歳前後の女性を主人公としながらも、まったく違う魅力を持った作品の著者コナリミサトさんと高野ひと深さんは、実は10年来のご友人。お酒が好きだという二人に、コナリさんの仕事場で盃をかわしながらの「飲酒トーク」をしてもらいました! 最終回では、コナリさんと高野さんの共通の趣味である「テラスハウス」や、二人の意見が食い違った、ある映画の話を聞きました。

『凪のお暇』『私の少年』

二人の共通項としての「テラスハウス」

―― 22時近くなってまいりました。16時から飲酒しているという高野さんとコナリさんですが、普段趣味の話とかはするんですか?

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高野: 私がコスメの話とかアイドルの話とかするのを、コナリさんが聞いてくれるよね。でも、コナリさんはあんまり自分の趣味の話をしないですよね。

コナリ: 人が好きなものについてしゃべってるのを聞くのが好きなんですよ。自分だと……最近よく見てるのは「TikTok」です。友達とわちゃわちゃダンスしてる動画を上げてる女子高生の子たちが好きなんですけど、彼氏ができたら、二人で映ってる動画もあげだして、彼氏の目までものすごく大きく加工されちゃってるのが面白かった。すぐに別れてしまったみたいで別れててびっくりしたけど。人生が早すぎる……。その躍動感が良いです。

―― コナリさんは以前「テラスハウス」が好きという話もされてましたよね。リア充の恋愛を見るのが好きと。

高野: 「テラスハウス」、私も大好き!!!

―― 高野さんは、推しメンなどいるんですか?

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高野: テラハ全体でいうと、初期に出演していた“まいまい”が好きです。実家が裕福なお嬢様で、シンガーソングライターとしても活動している子なんですが、座る時に「ちょこん」って言ったり、人の部屋のぞくときに「チラリ」って言ったりするんですよ。

―― そこから説明されても、好きな理由がわからないです(笑)。

高野: テラハには、テラスハウスにすごく長くいるけどモテなかった男子……“てっちゃん”という人がいるんですね。彼女は「モテない男の子が好きなので、てっちゃんが気になる」と初めて言った子で。でもその後、本当にてっちゃんが好きか疑わしいふるまいや、いろいろなわがままが目立って、「あれはテレビ用のコメントだったんじゃないか」って炎上したという。でも、私からすると、動作一つひとつ効果音をつける女っていうくくりで気になっちゃって。「オタクなのでは?」「同人誌をつくっていたのでは?」と考察するうちに好きになっていた……。

―― わかるような、わからないような……。

コナリ: テラスハウスに出てる人たちに対して、「テレビ用じゃん」って文句言う人多いよね。あれ、不思議な文脈だなと思ってて。

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高野: あ~~~。

コナリ: だって、テラハに入居する人たちって、みんなテレビに出るためにやってるはずじゃないですか。それを視聴者も理解しているのに、そのなかでうまくやってる人が嫌いという。何なんだろうな。

―― 「テラスハウス」のようなリアリティショーが流行ってるのもそうですし、「実話に基づく」とか、リアルであることが売りになる世の中で、そこで「作ろう」とすると反発されるのかもしれませんね。

(C)フジテレビ/ イースト・エンタテインメント

読者に「これ実話ですか?」と聞かれたら

高野: 『私の少年』に対しても、「これ実話ですか?」と聞かれることはあるんですよね。

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―― そ、そうなのか……。

高野: 「年下の男の子が好きなんですか?」とか。描いているほうとしては、人をいっぱい殺す漫画を描いている人が人殺しを肯定しているわけではないのと同じ感覚なので、ちょっとびっくりしてしまうときがある。『私の少年』は「個人と個人の関係の話です」と度々言ってはいるものの、どうしても伝わらないときもある。直接聞かれたら「いや。実話ではないですよ。作品は子供みたいなものなので、どうしても自分自身が出る部分もありますが、私そのものではないんです」と返しているんですけど。

―― 自分の描きたいことが読者に伝わってるかについては、考えますか?

コナリ: 受け手それぞれの立場によって、受け取り方は変わってくるので、自分の思ってることそのままは伝わらないなと思ってます。

高野: 玉ねぎみたいなものだよね。自分の伝えたい芯のところは、なかなかたどりついてもらえない。

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コナリ: でも、どんな形にしても、何らかの視点を持ってもらえるのはうれしい。

高野: 私、コナリさんの作品を読んでて、うらやましいって感じることがすごく多い

コナリ: え、なんで?

高野: 日頃から「こういうこと気になる」ってことがたくさんあるんだけど、『私の少年』って、今の私自身の悩みはあまり流し込めない漫画なんですよ。それに対して、『凪のお暇』には、コナリさん自身の疑問もたくさん入ってる感じがして、いいなと。

コナリ: 本当にどうなっていくんだ、『私の少年』……。5巻で聡子の妹が、真修との関係をキャッキャって感じで聞いたら、聡子が「何言ってんの?」って顔する場面あるじゃないですか。ミーハーな読者としては「ヒューヒュー」って言うつもりで読んでたので、こんな大ゴマで否定されるとは……と、冷水をぶっかけられた。


からの

大ゴマ

高野: どうなっちゃうんだろうねえ。真修が大人になるにつれて、わからなくなってきたところはある。でもオチが決まってたら、描くの飽きちゃうかもしれないし、これくらいでちょうどいいのかも。

コナリ: 変わるのがいいよね。今までにない話運びだなと思ったもん。冷水……と言ったけど、それが気持ちよく感じるくらいで。「こういう気持ちにいっぱいさせてくれるの?」とドキドキしてます。

高野: そう言ってもらえるとありがたいよ。

壊さない『私の少年』と、壊れている『凪のお暇』

編集・三村(高野担当): 酔っぱらいすぎたので言うんですけど……このお二人の仲がいいの、すごくわかります。世界への鋭さが似ているのと、とにかく言葉がうまい

コナリ: 本当うまいですよ、ひと深ちゃん。

高野: コナリさんのほうがうまいですよ。

コナリ: この前「無垢の祈り」を観た後にひと深ちゃんと感想言い合ったの、すごくおもしろかった。

―― 「無垢の祈り」って、平山夢明さんの短編ですよね。観たってことは映像化された「無垢の祈り Innocent prayer」ですか?

高野: そうそう。小学生の女の子が父親からの性的虐待に耐えかねて逃げたんだけどそこも地獄だった……という話が、映画になっていて。内容や描写がかなり重い映画なのもあってDVDスルーされているんですが、先日カナザワ映画祭で上映されていて、コナリさんと観てきたんですよ。

コナリ: めちゃくちゃひどい話なんですよね。観終わっていろいろ話しているときに、二人の間で大きく見解が分かれた部分があって。主人公のフミが、かなりキレイな自転車に乗っているんですよ。それに乗って疾走する姿を長回しで撮るシーンが何度か出てくるんですけど、「あの自転車って、あの家庭環境じゃ買えなくない? どうやって手に入れたんだろう?」って話になって。

 貧乏な家で、おかあさんはすごくキレイだけど幸が薄くて、宗教にはまって水商売していて、今ハマってる男がロリコンで。彼が娘を色目で見ているのに気づいてるんだけど、娘の方を「お前が悪い」って責める。そんな家で、どうやって自転車を手に入れたんだろうと。

高野: 私は、義父がパチンコの景品か何かで手に入れたものをもらったのかなと思ったんですよ。彼はDVもするけど、おかあさんに化粧品を買い与えてるシーンもあったので。

コナリ: でも私は「盗んじゃったんじゃないかな」って思った。鍵をかけていないぴかぴかの自転車を偶然見つけて、盗っちゃったんじゃないのかなって。だって、あんな環境で育ったら倫理観なんかなくなってしまうと思ったんですよ。「これの何が悪いの?」と思うくらい壊れちゃってるんだろうと。でもそう言ったら、ひと深ちゃんから「私が思ってたのと違う!」と言われて

高野: 私は「父親から与えられたものでしか逃げられない」ことを暗示する描写だと捉えて、それがいいと感じたんだよね。結果、金沢駅のベンチで、共通の知人である銅☆萬福さんを間に挟んで、激論に……。

コナリ: 「銅さんはどっち!?」って詰め寄って。あれ三角関係みたいで面白かった。

コナリ: 自転車を通じて、二人の信じているものにもズレがあるのがわかったよね。

高野: 喧嘩ってわけではなくて、新鮮で面白い体験でした。

―― どちらの解釈も、ロジカルではありますよね。

編集・三村: お二人の作品の違いにも通じる話だと思いました。『私の少年』は「壊さないようにしている、ギリギリ」を描いていて、『凪のお暇」は「壊れたよ、でも大丈夫」って話なのかな、と。

コナリ: 私は虚無を愛しているので、より虚無に寄った考察をしちゃうのかもしれない(笑)。お互いの描きたいものに関して、それぞれ違う秩序を持ってるんだなとは思いました。好きな人が嫌いなものを嫌いになる必要はないし、好きな人が好きなものを好きになる必要もないと思っているので、そういうズレみたいのは楽しいです。

これからも、仲良くなりすぎない関係でいたい

―― 気が合うところも、考えが違うところもあるお二人。今後、どういう関係でありたいですか?

コナリ: どうでしょう。

高野: コナリさんって、仲良くなりすぎると嫌がるじゃん。

コナリ: えっなんかそういうの漏れてた!?

高野: “脱皮”を繰り返すタイプだとおもうんですよね。知らないことを知りたいとか、知ってることをもっと知りたいとか、いつでも新しいフェーズに行きたい人。だから、ずっと一緒にいる人が増えるのって、コナリさんにとって息苦しいんじゃないかなと思ってるんです。

コナリ: 高野さんと会うのは、今は2~3カ月に一度くらいですよね。

高野: この頻度をつづけていけたらいいな。2~3カ月に一度飲むうちの一人だし、たまに大勢で飲むうちの一人で。

コナリ: 全ての人間とは、仲良くなりすぎると終わりが来ちゃうなあと思ってるとこがある。おいしいスルメを口に含み続けてゆっくり噛んで味わいたい。そしてずっと一緒にいたい……。

高野: 終わり、来てほしくないよ~

コナリ: まあ大丈夫。来ない来ない。

高野: そもそも私もコナリさんも、人を一定の距離から見ることが、作品に生きるタイプなので、お互いにあまり拠所になりすぎないようにしたいですよね。……って、コナリさん、なんでかみしめるような表情で天井見てるの?

コナリ: おんなじ気持ち、って思って。

高野: 恥ずかしくなっちゃうからやめて~!

―― 最後まで仲の良さが伝わってきました(笑)。ありがとうございました!

深夜2時まで飲んだ二人(左:コナリさん、右:高野さん)

※ライター注:この後結局深夜2時まで飲みました。長時間お付き合いいただいた担当編集の菅原さん、三村さん、そしてねとらぼ編集Tさんもありがとうございました!

(終わり)

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