空気を読みすぎて爆発したアラサー女子・凪が、自分を見つけなおす日々を描いた『凪のお暇』。不器用なOLと孤独な少年の、繊細に移り変わる関係を描いたマンガ『私の少年』。ともに30歳前後の女性を主人公としながらも、まったく違う魅力を持ったベストセラー作品です。その著者――コナリミサトさんと高野ひと深さんは、実は10年来のご友人。お酒が好きだという二人に、コナリさんの仕事場で盃をかわしながらの「飲酒トーク」をしてもらいました! たっぷり7時間の飲酒の末、全4回でお届けします。
「厄年」プリクラを撮る仲の二人・高野とコナリ
――過去にそれぞれ取材させてもらった、コナリミサトさんと高野ひと深さん。「お酒を飲んでるほうが、しゃべれるのに……」とコナリさんが言っていたので、今日は飲酒対談をセッティングしました。
コナリ・高野: よろしくお願いします〜〜!
高野: 今日は古参コナリファンアピールをするために、『凪のお暇』の初版を持ってきました! ここに並べておく!
――なんだか、すでにテンションが高い気がします。
コナリ: 今、夜の19時ですけど、私とひと深ちゃんは16時から居酒屋で飲んでいたんです。二人でプリクラも撮ってきたんですよ〜! 「あと15秒だよ!」なんて機械に急かされて楽しかった。
高野: ものすごく久しぶりだったので、事前にInstagramを見て「今の女子高生ってどんな落書きするんだろう?」「落書きの仕方とか変遷があるのかな?」と調べて行ったんですよ。意外とすごくシンプルで驚きました。あんまり落書きしないし、背景もデコらないようなんですよ。私たちもそれにならいました(プリクラを取り出す)。
――シンプルにでかでかと「厄年」と書いてある……(笑)。女子高生が絶対書かないやつだ。お二人は知り合って、どれくらいたつんですか?
高野: 最初に会ったのは、10年くらい前ですかね。漫画家同士で日本酒の見学ツアーに行くという企画があって。酒蔵に向かう西武池袋線で、銅☆萬福さんという共通の友人から、コナリさんを紹介されました。
――出会いもお酒なんですね。当時のメンツのなかで、特別に話が弾んだんですか?
コナリ: 私はひと深ちゃん見て、「顔とか服とかメイクとか骨格とか何もかもがかわいい」と思ってた。ミーハーだから。
高野: でもその後……本当に初対面なんだけど……、パンツの話をされて。
――えっ!?
高野: 帰り際に、コナリさんが「あのね」って、ものすごくお得な情報を打ち明けるかのように、「とあるブランドのパンツを男の人に履かせると、大きく見えていい」と耳打ちしてきたんです。
――それは……。
コナリ: そんな、ゴキブリに遭遇しちゃった人みたいな表情で話さないでよ。
高野: 見た目はきれいなお姉さんなのに突然スケベなことを言ってきたので混乱してしまい、「あ、そうなんですね」としか言えなかった。なかなかすごいファーストインプレッションでした。
「待っててくれたんだ」と抱きしめられて
――高野さんに対して、コナリさんが印象に残ってることはありますか?
コナリ: えっ今の話を受けて!? うーん……。
高野: 私、まだまだ覚えてますよ。これも出会ってすぐの頃なんですけど、やはり漫画家仲間で飲み会をしていたんですよ。それで二次会のお店に移動しようってなったときに、コナリさんがトイレに立ったんですね。みんなはお店を出ちゃったんだけど、私はコナリさんが気になってトイレの前で待っていたら、トイレから出てきたコナリさんが「えっ! 待っててくれたんだ」ってすごくロマンチックに言って抱きしめてきた。あれも、印象に残ってる。
――それ、コナリさんは覚えてるんですか?
コナリ: 覚えてます覚えてます。それまでは、「ガハハ! あとで合流だ〜」みたいな飲み会が普通だったんですよ。私の友達、みんな山賊みたいな感じなので。
――山賊……(笑)。
コナリ: だから、ひと深ちゃんがトイレの前でちょこんと待ってるのを見て、たんぽぽの綿毛みたいな可憐(かれん)さを感じたの。野に咲く花だったよ。
高野: 居酒屋のトイレですから。「え、なになになに!?」と戸惑いました。
――コナリさんのお人柄が伝わってくるいい話ばかりです。今は、二人でよく飲むんですか?
コナリ: 今でも、大勢の飲み会で会うのが多いですね。それで、帰り道に二人になって、「あれ、どうだったかな」とか話し合う感じ。
――「どうだったかな?」というと……。
高野: 飲み会の“答え合わせ”って、しません?
――なんの答え合わせを?
高野: えっ、みんなやってると思っていた!
コナリ: その日の飲み会で自分が出した話題や発言で、その瞬間は盛り上がって楽しかったけど、後から考えてみたときにそれが適切だったかな? みたいな話を、ひと深ちゃんと私でしながら帰ることが多いんです。
――あ〜〜、何となくわかりました。「ちょっとしゃべりすぎちゃったかな」とか「みんな気を使ってくれたんじゃないかな」とか振り返って一人で反省することはあります。それを人と話し合うっていうのと、“答え合わせ”って言い方が、お二人らしいですね。
高野: 私、コナリさんと性格が似てるとは思ってないけど、感受性のポイントが近いなと感じるんですよね。ここに傷つくとか、ここに怒るとか、ここに喜ぶとか、ここで気分が上がるとか。だから“答え合わせ”の感覚がすごく合う。
コナリ: それは、確かにそうかも。
『凪のお暇』の“網目”の細かさに泣かされる
――『私の少年』と『凪のお暇』は全然似ている漫画ではないですけれど、何となく、心の柔らかいところの切り取り方には、近いセンスを感じます。
高野: コナリさんは、すごく“網目が細かい”人だなって思ってます。私が日常で感じてることが、どれも『凪のお暇』ですくいとられていくんですよ。
――『凪のお暇』で、高野さんが好きなエピソードはありますか?
高野: えーっと……、ちょっとコナリさん、自作の話をされるのが照れくさいからって、変な顔しないでください。
コナリ: えへへ。
高野: いちばん泣きそうになったのは、映画のおばあちゃんの話ですね。
――あー。2話目では、釣り銭をあさっているあやしいおばあちゃんが、実は映画好きのいい人だったということが後でわかるやつですね。
高野: そうそう。ドアの外から見ていると、その人がどんな人かわからないっていうことの描き方が、すごく良くて。私もこういうおばあちゃんを知ってる、って思い出しちゃった。小学生の頃、通学路に、いつも竹串にたくさんの蛾をさしているおばあちゃんが立ってたんですよ。
――竹串に…蛾を……。それはインパクトありますね。
高野: それで「ほらっ」って渡そうとしてくるので、子どもたちから「やべー」って煙たがられていて。私も毎回押し付けられそうになるのを断ってたんですけど、申し訳程度に会話していたんです。「今日は何時間目まであるの?」「毎日5時間目までだよー」みたいな。でも、しばらくしたら、いなくなっちゃったんですよね。代わりに、おばあちゃんより若い女性が立つようになったんです。どうしたんだろうと思って、「おばあちゃんいないんですか?」と聞いたら、「会う?」と家に連れて行かれて……あったのは、仏壇だったんですよ。
――お亡くなりになっていたと。
高野: 本当にびっくりしました。女性から「おばあちゃんと話してくれてたんだね。ありがとう〜」なんて言われても、えらいことしてたんじゃなくて、ただ話しかけられるのに返していただけだから気まずくて……。そのことを全然忘れていたんだけど、『凪のお暇』を読んだら、鮮明に思い出したんですよね。コナリさんの網目ってここまで細かいんだ! と驚かされました。
コナリ: 私は竹串に蛾をさして持ってるおばあさんには会ったことがないけれど……(笑)。
高野ひと深が「ゴン派」の理由
――ちなみに、ゴン派か慎二派かだったら、高野さんはどうですか?
高野: えー、どうだろう。
コナリ: ひと深ちゃんは、どっちでもないんじゃないかな。うららちゃんのママ、とか言いそう。
高野: うーん……ゴンかな。
コナリ: その心は?
高野: 慎二って、単純にすごくいいやつじゃないですか? だからいつか、「こいつ結局いいやつじゃん、私のような人間じゃこいつに見合わないわ」と思うターンがくる気がする。それだったら、ゴンさんを体験してみたいかな……(笑)。ゴンさんって、どんどん女をとっかえひっかえはするものの、相手を本当の本当にやばいところまでは連れて行かないと思うんですよ。
コナリ: それ、大事だよね。
高野: でも私、『凪のお暇』を恋愛ものとして見てないんですよね。だから凪をゴンが救ったり、慎二が救ったりというのをまったく期待してなくて。1話でウィッシュリストを埋められなかった凪が、自分の「お暇」をどうやりきるかが気になっていて、恋愛とかはサイドストーリーなのかなと考えてるんです。漫画を描いていても痛感するんですけど、「自分がやりたいこと」を突き詰める作業って、本当に気が遠くなることで。それをちゃんと凪にやらせるぞ、という決意を初回から感じて、「コナリさんはすごいな」って思ったんです。
コナリ: ごめん。ウィッシュリスト、そんなに考えずに出していた……。参考に自己啓発本をいろいろ読んでいて、「“とりあえず100万円貯める”とか書ける人すごいよな〜凪が書いたらどうなるかな?」みたいな感じで、入れたんですけど。
高野: ハシゴを外された! でも、まあ私も、「ここまで考えてるんですよね?」って聞かれたこと、全然考えてないこともあるな。漫画家あるあるですね(笑)。
(つづく)
出張掲載:「凪、噛み合わず」(凪のお暇)
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