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化学実験でびっくりしてもらいたい女子高生の企み 「手品先輩」エンタメ的奇術 VS 論理的化学

化学マジックはタネ明かしまでがワンセット?

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(C)アズ・講談社/手品先輩製作委員会

 すっごく元気でめちゃくちゃおバカ。テレビアニメ放送中の「手品先輩」(原作アニメは、失敗率が限りなく100%に近いポンコツ手品コメディ。いろいろあやういハプニングとめげなさすぎる先輩との楽しくて厄介な日々、これもまた青春。

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 コミックス6巻が発売になりました。今まで手品先輩たち奇術部が使っていたのは化学準備室。隣の化学室で活動していた、化学部部長の斑さんが奇術部に合流状態で一緒に遊ぶシーンも見られるようになりました。

 今まで斑さんは、手品に対して少々問題視している部分がありました。別に手品先輩が嫌いなわけではなく、「手品」に対しての不満です。

 「手品ってちょっと化学っぽい」と感じている助手くん。「手品と化学は違う」と言い続ける斑さん。今回は作中に出てくる「化学」と「奇術」の関係について掘ってみます。

(斑さんは「科学」的なこと全般を「化学」の語で表現する事が多いので、今回はそれに合わせます)

奇術・大道芸・化学

 この作品は、「奇術」の手品先輩「大道芸」の咲ちゃん「化学」の斑さん、3ヒロインが並ぶ形で比較が行われています。それぞれ人前で披露する場合、「どこを見てもらうか」が大きな差。

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 まず「奇術」は、「結果」が一番大事。マジシャンがあることをしたら、思いもしない結果が出て、びっくりする。驚かせること自体が最大の目的です。

 「大道芸」「過程」を見せる芸です。玉をいくつまで投げられるか、シガーボックスをこの場所に移動できるか、などなど結果自体は理解できる。そこに至るまでが難しい。どのような技術で見せるかがポイント。

 そして「化学」「原因」を知ることに意義があります。花火に色があるのはなぜか、液体が急に凍るのはなぜか。現象を解析して理由を割り出します。

地雷(4巻)

 「奇術」の中には、「化学」を利用したものはたくさんあります。例えば以前紹介したフラッシュペーパーは、化学薬品そのものの燃焼実験です。「タネ」を明かさないからこその奇術。「これは私がやりました」と言って原因を言わず、悪くいえば「だます」、よくいえば「面白がらせる」ショーです。

 これが、斑さんにはお気に召さないらしい。

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「た……立った!?」までで止めれば、手品ですね(4巻)

 缶ジュースを助手に借りて、スッと斜めに立てる斑さん。この流れだけ見ると、奇術・手品そのものです。ただしこのページ最後のコマで、斑さんは完全に物理のタネ明かしをします。助手の「た……立った!?」が重要なのは奇術。助手の「へえ……」が重要なのが化学。

理屈はわからんでもない(4巻)

 斑さん「手品はわざと原理を隠してフシギなコトが起こったフリで見てる人をダマしてるだけだろう!?」

 化学は人智の極みとも言うべき素晴らしいもののはず。それなのに化学現象であることを隠して、フシギなコトを起こしたフリをするのはずるいのではないか、という理屈。

 そこまで言わんでも、という気もエンタメ的にはしますが、いろいろ研究した末に発見したものがある人にとっては、あたかも自らの手柄のごとく振る舞う奇術が気に食わないのは分かります。と言っても奇術を否定したいわけじゃない。化学の面白さを知ってほしいだけです。

化学の基本は驚きから

驚き自体は重要(4巻)

 空気砲をはじめとした、サイエンスショーで有名な科学者に米村でんじろうがいます。彼は子どもたちに科学を知ってもらうために、さまざまなショーや動画投稿を行っています。これは驚く体験で知的好奇心を刺激し、科学に触れてほしいからです。

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 斑さんも似た思想の持ち主です。興味をもってもらうため、先に実験で「すごい!」という驚きを体験させることを重視しています。

 「驚き」は、相手の素が出やすい感情。それは化学も奇術も大道芸も変わりません。

常に驚かせたくて仕込んでいる……あれどこかでみたような?(4巻)

 助手が来ると知っているわけでもなかったのに、過冷却状態のコーラを準備しておいた斑さん。このあと「急に凍るコーラ」を披露します。これには助手も、素直にびっくり。仕組みについて2人で和気あいあいと会話することに。

 このコーラを事前に準備していた斑さんの思いには、手品先輩と似たものが強く感じられます。自分が大好きな「びっくり」を、人にも体験してもらいたくて仕方ない。

「すごい」を知ってもらいたい(4巻)

 汗だくの手品先輩と助手。2人に涼んでもらうため、気化熱を利用した冷たい風を送る技術を斑さんが披露します。今回は先に化学のしくみを伝えた上で、実施しています。

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 ここで手品先輩は「化学ってすごい~」とポロッとこぼしています。その「すごい」を言ってほしかった!

 奇術をインチキだと考えていた斑さんは、手品先輩を警戒していたようです。でも手品先輩はとてもシンプルな人間。インチキのために手品をしているわけじゃない。「すごい」「面白い」という感情に対して夢中になって動くだけです。

 化学の仕組みと、そこから生まれる変化を素直に「すごい」といえる手品先輩に、斑さんが心を開いた瞬間でした。化学と奇術を比較しても仕方ない。どちらにも驚きとワクワクがあるんだもの。

仕組みを知らなくても知っても面白いサイエンス(5巻)

 アニメ10話でもあった、海で日の入りを見ていた斑さんと助手。ここで豆知識的にサイエンスを披露。助手、とってもびっくり。斑さんの「だろう?」がなんだかうれしそうだ。めちゃくちゃ青春してるやんけ。

 相手をびっくりさせるために、タネを仕込んだり技術を磨いたり、知識を身につけたり。その際に得た感動は、どういう形であろうと、素敵な思い出になるはず。

トリックを破る論理性

 手品に過度な警戒心を抱かなくなった斑さん。手品先輩と距離が近くなるにつれて、手品のタネに対してのダメ出しが厳しくなります。

 以前奇術の種類で紹介したように、スライハンド(技術で見せる奇術)にしても、ギミック(事前の仕込みがある奇術)にしても、イリュージョン(大掛かりな仕掛けのある奇術)にしても、絶対にタネはあるわけで。科学的なトリックばかりではありませんが、しっかり順序立てられた論理的な組み立てが、大抵はなされているものだ、というのが斑さんの考え方。

不可能なんてナイ!(5巻)

 手品先輩が雑すぎるがゆえに、仕掛けのないままだった串刺しマジック。しかし斑さんは刺さる方向などを推測しきって、全ての剣を避けきりました。いやいや無茶でしょ不可能でしょ、と言いたいところですが、斑さん的には「少し考えれば避けられる」と強気。

完全看破(6巻)

 手品先輩が仕込んだハンカチマジックも、一発でトリックを見破ります。そして手順の全てを完全再現。解説付きで手品先輩に見せて、驚かせます。

 こうしてギミック型、イリュージョン型は看破した斑さん。彼女の言う「化学」は、現象そのものだけではなく、「論理的思考」自体をも指しているようです。

ヒロイン度高いなあ(6巻)

 ちなみに斑さんは料理も得意。というのも彼女の中では、料理は化学だから。分量を量って工程を間違えず時間を守れば、ちゃんとできる。手品先輩もそういえばクッキーやらパンやらそこそこ料理ができたので、対決が見てみたいところ。

 エキセントリックで直感的な手品先輩。丁寧に知識と理論を重ねていく化学者斑さん。天才肌で盛り上げ上手な大道芸人咲ちゃん。性格はバラバラの3人ですが、6巻では交流が増え、それぞれが刺激しあい、成長していく様子が見られます。中でも手品先輩にはかなり大きな動きが見られるので、アニメで興味を持った方はぜひ!

たまごまご

(C)アズ/講談社

前回までのお話

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