おっちょこちょいな先輩は滑稽で悲しいピエロ 「手品先輩」咲ちゃん・まーくんによる世界の大道芸
咲ちゃんちょっと天才すぎる件。
すっごく元気でめちゃくちゃおバカ。テレビアニメ放送中の「手品先輩」(原作/アニメ)は、失敗率が限りなく100%に近いポンコツ手品コメディ。いろいろあやういハプニングとめげなさすぎる先輩との楽しくて厄介な日々、これもまた青春。
先輩が守ろうとしていた奇術部になだれ込んできた、咲ちゃんとまーくんの姉弟。2人が夢中になっているのは大道芸でした。ところで大道芸ってどんなものなんだろう? 昨中の技をチェック。
世界の大道芸
大道芸という単語には、明確な定義はありません。奇術は「何らかのトリックを用いて相手を驚かせるもの」くらいのざっくりした方向性がありますが、大道芸はもっと曖昧。まーくんの解説によると「不特定多数の客に対してパフォーマンスを行い楽しませること」とのことです。
なので、奇術を大道芸で行う人もいます。要はテクニックの名前ではなく、やり方の総称といったところ。サーカス的要素に近いけど、もっと自由なパフォーマンスでOK。
大道芸の本場の1つ、ロンドンのコヴェント・ガーデンでは、ジャグリングや楽器演奏、銅像になりきるスタチューなどの芸が見られることで有名です。
ここに集まる大道芸人たちはえりすぐりのエリートだらけ。というのもライセンスが必要だからです。イギリスの大道芸人は「バスカー」と呼ばれ、かつては地下鉄駅構内などで活動していました(違法なんですけども)。次第に場所取りなどでけんかが起こり、21世紀に入ってからはライセンス必須となりました。
日本でも大道芸は室町時代から存在しており、芸能として進化を遂げていました。「ガマの油売り」や「チンドン屋」なんかがそれ。和スタイルの大道芸は今はあまり見なくなりました。
「大道芸的とされている芸」のプロフェッショナルが集まる大会は世界中で行われており、日本だと静岡県静岡市の大道芸ワールドカップin静岡が有名。サマソニなどのフェスにも出没しています。
バルーン
大道芸において才能が非常に高い咲ちゃんが得意としているのがバルーン芸。特にバルーンアートはお手の物のようで、リクエストを受けたらすぐさま作れます。
咲ちゃんが実践的な「イヌの作り方」を教えてくれているので、実際にやってみよう。といっても風船いじるの、割れそうで怖い。なので先輩は極端にバルーンアートが苦手です。あのキュッキュって音が苦手な人も多いかも。
二色三色と風船を使えば、風船に全く見えないバルーンアートも作れます。想像力次第でなんでもできちゃうのが、大道芸としての魅力。
バルーンアートのもう1つの魅力が、手渡しできるということ。リクエストをもらい、しゃべりながらきゅきゅっと作ってプレゼント。子供に大人気の芸です。
人間風船は、風船の中に潜る特殊な芸。テレビの「あらびき団」に出ていた風船太郎で有名かも。ちなみに180センチの風船は一個2000円から。全然関係ないですが「人間風船に入っている女の子フェチ」というジャンルが世界にはあります。このへんは「手品先輩」がひそかにおさえています。
腹話術
現在咲ちゃんが絶賛練習中の腹話術。日本だと有名なのはいっこく堂。時間差で声が遅れてくる芸は何度見ても楽しい。できそうでなかなかまねできない。
腹話術の歴史は古く、紀元前からあった、なんて説も。人形を使うようになったのは18世紀ではないか、ともいわれています。
大道芸であると同時に、寄席の演芸として披露されたり、時には子供のための芸として素人が行うことも。安心安全、みんなほっこりな芸。でも技術は相当に必要とされます。
ジャグリング
物を宙に投げ上げたり、浮かせたりする芸がジャグリング。ボールやクラブを投げ続けるトスジャグリング、中国ゴマをハンドスティックと紐で操るディアボロ、四角い箱を挟んでキャッチするシガーボックスなどなど。このへんは想像力と練習次第で、ジャグラーは身の回りのものなんでも投げ回すことも。
その1つがポイのジャグリング。咲ちゃんはこれを大得意としており、暗闇の中身体を動かさず回すことが可能。
ジャグリングは「すごい」と分かってはいても、実際やるのはその想像の数倍大変だ、というのがなかなか伝わらないもの。一度仕組みを知るだけで、ジャグリングを見る面白さは変わります。ジャグリングテクニックの動画はYouTubeなどにたくさん上がっているので、気になるものを見てみてください。メジャーなところだと、ヨーヨーテクニックなんかも、広義にはジャグリングの1つです。
「手品先輩」では、実際の大道芸のテクニック解説もちらほら乗っているので、まねしてためしてみるのもありだと思います。ぼくはこれを読み、解説している動画を見ても、ポイ(的な自作の紐と重り)は回せなかったですね……。
道化師
大道芸というよりは、「芸」の歴史に欠かせない存在なのが道化師の概念。おちゃらけたりジョークを言ったりして場を和ませるのがお仕事で、今だとサーカスやイベントでの出番が多いかも。
いろんな種類がありますが、この作品で取り上げられているのは2つ。派手な格好でおどけて笑わせる、皮肉ってちゃかすのがクラウン。その中で失敗してばかにされる役回りがピエロ。笑われると同時に心に悲しみがあり、涙のマークが書かれている、というのが見分けるポイントだそうです。
この構造は、さまざまなマンガのおどけ役に当てはまると思います。例えば「手品先輩」の場合、一定の技術は持っていて、ツッコミやちゃかしに回りやすい咲ちゃんはクラウン。技術はあるのに人前に出るとあがり症で全失敗して笑われる手品先輩は、ピエロ。
でも人を笑わせていることには変わりないのなら十分ありなのではないか……なんてのは第三者の意見。むしろ先輩は道化師になりたいわけじゃなくて、かっこよい奇術師になりたいわけで。適材適所と理想はかみ合わず、難しいものです。
芸のあり方
一度、部費の足しにするべく、みんなの前で大道芸を披露したことがあります。咲ちゃんのバルーンアートは大人気。そこそこお金をもらっていたようです。
その中には木の実やアメなども。バルーンアートは子供に人気なだけあって、「自分の大事なものを分けてくれる」ことも。温かい接触です。けどそれはそれ。お金にはならないんだよね。
手品先輩は「自分が楽しいから」というシンプルな理由で奇術をやっています。一方咲ちゃんは、「弟のまーくんがやり始めたから」というちょっとズレた理由で練習をスタート。今や弟よりはるかにうまくなって、人前で見せる価値があるだけのテクニックを身に着けました。コミュニケーション能力が高いのもあって、しゃべりながら行うバルーンアートは向いているんでしょう。
人に喜んでもらいたい、という思いはある。かといってそこに激しく思いを傾けているわけではない。ドライな彼女の性格は、人前で大道芸を長く続けるのにはある意味向いているのか? 仮に弟離れしたとしたら、彼女が大道芸にどう向き合うのかは気になるところです。
(たまごまご)
(C)アズ/講談社
前回までのお話
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