化学実験でびっくりしてもらいたい女子高生の企み 「手品先輩」エンタメ的奇術 VS 論理的化学

化学マジックはタネ明かしまでがワンセット?

» 2019年09月10日 23時15分 公開
[たまごまごねとらぼ]
手品先輩 (C)アズ・講談社/手品先輩製作委員会

 すっごく元気でめちゃくちゃおバカ。テレビアニメ放送中の「手品先輩」(原作アニメは、失敗率が限りなく100%に近いポンコツ手品コメディ。いろいろあやういハプニングとめげなさすぎる先輩との楽しくて厄介な日々、これもまた青春。

 コミックス6巻が発売になりました。今まで手品先輩たち奇術部が使っていたのは化学準備室。隣の化学室で活動していた、化学部部長の斑さんが奇術部に合流状態で一緒に遊ぶシーンも見られるようになりました。

 今まで斑さんは、手品に対して少々問題視している部分がありました。別に手品先輩が嫌いなわけではなく、「手品」に対しての不満です。

 「手品ってちょっと化学っぽい」と感じている助手くん。「手品と化学は違う」と言い続ける斑さん。今回は作中に出てくる「化学」と「奇術」の関係について掘ってみます。

(斑さんは「科学」的なこと全般を「化学」の語で表現する事が多いので、今回はそれに合わせます)


奇術・大道芸・化学

 この作品は、「奇術」の手品先輩「大道芸」の咲ちゃん「化学」の斑さん、3ヒロインが並ぶ形で比較が行われています。それぞれ人前で披露する場合、「どこを見てもらうか」が大きな差。

 まず「奇術」は、「結果」が一番大事。マジシャンがあることをしたら、思いもしない結果が出て、びっくりする。驚かせること自体が最大の目的です。

 「大道芸」「過程」を見せる芸です。玉をいくつまで投げられるか、シガーボックスをこの場所に移動できるか、などなど結果自体は理解できる。そこに至るまでが難しい。どのような技術で見せるかがポイント。

 そして「化学」「原因」を知ることに意義があります。花火に色があるのはなぜか、液体が急に凍るのはなぜか。現象を解析して理由を割り出します。


画像 地雷(4巻)

 「奇術」の中には、「化学」を利用したものはたくさんあります。例えば以前紹介したフラッシュペーパーは、化学薬品そのものの燃焼実験です。「タネ」を明かさないからこその奇術。「これは私がやりました」と言って原因を言わず、悪くいえば「だます」、よくいえば「面白がらせる」ショーです。

 これが、斑さんにはお気に召さないらしい。


画像 「た……立った!?」までで止めれば、手品ですね(4巻)

 缶ジュースを助手に借りて、スッと斜めに立てる斑さん。この流れだけ見ると、奇術・手品そのものです。ただしこのページ最後のコマで、斑さんは完全に物理のタネ明かしをします。助手の「た……立った!?」が重要なのは奇術。助手の「へえ……」が重要なのが化学。


画像 理屈はわからんでもない(4巻)

 斑さん「手品はわざと原理を隠してフシギなコトが起こったフリで見てる人をダマしてるだけだろう!?」

 化学は人智の極みとも言うべき素晴らしいもののはず。それなのに化学現象であることを隠して、フシギなコトを起こしたフリをするのはずるいのではないか、という理屈。

 そこまで言わんでも、という気もエンタメ的にはしますが、いろいろ研究した末に発見したものがある人にとっては、あたかも自らの手柄のごとく振る舞う奇術が気に食わないのは分かります。と言っても奇術を否定したいわけじゃない。化学の面白さを知ってほしいだけです。


化学の基本は驚きから


画像 驚き自体は重要(4巻)

 空気砲をはじめとした、サイエンスショーで有名な科学者に米村でんじろうがいます。彼は子どもたちに科学を知ってもらうために、さまざまなショーや動画投稿を行っています。これは驚く体験で知的好奇心を刺激し、科学に触れてほしいからです。

 斑さんも似た思想の持ち主です。興味をもってもらうため、先に実験で「すごい!」という驚きを体験させることを重視しています。

 「驚き」は、相手の素が出やすい感情。それは化学も奇術も大道芸も変わりません。


画像 常に驚かせたくて仕込んでいる……あれどこかでみたような?(4巻)

 助手が来ると知っているわけでもなかったのに、過冷却状態のコーラを準備しておいた斑さん。このあと「急に凍るコーラ」を披露します。これには助手も、素直にびっくり。仕組みについて2人で和気あいあいと会話することに。

 このコーラを事前に準備していた斑さんの思いには、手品先輩と似たものが強く感じられます。自分が大好きな「びっくり」を、人にも体験してもらいたくて仕方ない。


画像 「すごい」を知ってもらいたい(4巻)

 汗だくの手品先輩と助手。2人に涼んでもらうため、気化熱を利用した冷たい風を送る技術を斑さんが披露します。今回は先に化学のしくみを伝えた上で、実施しています。

 ここで手品先輩は「化学ってすごい〜」とポロッとこぼしています。その「すごい」を言ってほしかった!

 奇術をインチキだと考えていた斑さんは、手品先輩を警戒していたようです。でも手品先輩はとてもシンプルな人間。インチキのために手品をしているわけじゃない。「すごい」「面白い」という感情に対して夢中になって動くだけです。

 化学の仕組みと、そこから生まれる変化を素直に「すごい」といえる手品先輩に、斑さんが心を開いた瞬間でした。化学と奇術を比較しても仕方ない。どちらにも驚きとワクワクがあるんだもの。


画像 仕組みを知らなくても知っても面白いサイエンス(5巻)

 アニメ10話でもあった、海で日の入りを見ていた斑さんと助手。ここで豆知識的にサイエンスを披露。助手、とってもびっくり。斑さんの「だろう?」がなんだかうれしそうだ。めちゃくちゃ青春してるやんけ。

 相手をびっくりさせるために、タネを仕込んだり技術を磨いたり、知識を身につけたり。その際に得た感動は、どういう形であろうと、素敵な思い出になるはず。


トリックを破る論理性

 手品に過度な警戒心を抱かなくなった斑さん。手品先輩と距離が近くなるにつれて、手品のタネに対してのダメ出しが厳しくなります。

 以前奇術の種類で紹介したように、スライハンド(技術で見せる奇術)にしても、ギミック(事前の仕込みがある奇術)にしても、イリュージョン(大掛かりな仕掛けのある奇術)にしても、絶対にタネはあるわけで。科学的なトリックばかりではありませんが、しっかり順序立てられた論理的な組み立てが、大抵はなされているものだ、というのが斑さんの考え方。


画像 不可能なんてナイ!(5巻)

 手品先輩が雑すぎるがゆえに、仕掛けのないままだった串刺しマジック。しかし斑さんは刺さる方向などを推測しきって、全ての剣を避けきりました。いやいや無茶でしょ不可能でしょ、と言いたいところですが、斑さん的には「少し考えれば避けられる」と強気。


画像 完全看破(6巻)

 手品先輩が仕込んだハンカチマジックも、一発でトリックを見破ります。そして手順の全てを完全再現。解説付きで手品先輩に見せて、驚かせます。

 こうしてギミック型、イリュージョン型は看破した斑さん。彼女の言う「化学」は、現象そのものだけではなく、「論理的思考」自体をも指しているようです。


画像 ヒロイン度高いなあ(6巻)

 ちなみに斑さんは料理も得意。というのも彼女の中では、料理は化学だから。分量を量って工程を間違えず時間を守れば、ちゃんとできる。手品先輩もそういえばクッキーやらパンやらそこそこ料理ができたので、対決が見てみたいところ。

 エキセントリックで直感的な手品先輩。丁寧に知識と理論を重ねていく化学者斑さん。天才肌で盛り上げ上手な大道芸人咲ちゃん。性格はバラバラの3人ですが、6巻では交流が増え、それぞれが刺激しあい、成長していく様子が見られます。中でも手品先輩にはかなり大きな動きが見られるので、アニメで興味を持った方はぜひ!


たまごまご

(C)アズ/講談社


前回までのお話


手品先輩

手品先輩

手品先輩

手品先輩
手品先輩
手品先輩
手品先輩
手品先輩
手品先輩

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/13/news176.jpg 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  2. /nl/articles/2411/14/news014.jpg ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. /nl/articles/2411/14/news042.jpg 夫「250円のシャインマスカット買った!」 → 妻が気づいた“まさかの真実”に顔面蒼白 「あるあるすぎる」「マジ分かる」
  4. /nl/articles/2411/14/news090.jpg ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  5. /nl/articles/2411/14/news167.jpg 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. /nl/articles/2411/14/news187.jpg 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. /nl/articles/2411/13/news162.jpg 「情報操作されてる」「ぜーんぶ嘘!!」 175R・SHOGO、元妻・今井絵理子ら巡る週刊誌報道を一蹴 “子ども捨てた”の指摘に「皆さん騙されてます」
  9. /nl/articles/2411/14/news035.jpg 160万円のレンズ購入→一瞬で元取れた! グラビアアイドル兼カメラマンの芸術的な写真に反響「高いレンズってすごいんだな……」「いい買い物」
  10. /nl/articles/2411/12/news194.jpg 「予約しました」 サッポロ一番の袋に見せかけた“笑っちゃいそうなグッズ”が話題 「サッポロ一番味噌ラーメン好きがバレちゃう」
先週の総合アクセスTOP10
  1. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  2. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  3. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  4. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  6. 「この動画お蔵かも」 親子デートの辻希美、“食事中のマナー”に集中砲火で猛省……16歳長女が説教「自分がやられたらどう思うか」
  7. 老けて見える25歳男性を評判の理容師がカットしたら…… 別人級の変身と若返りが3700万再生「ベストオブベストの変貌」「めちゃハンサム」【米】
  8. 「ガチでレア品」 祖父が所持するSuica、ペンギンの向きをよく見ると……? 懐かしくて貴重な1枚に「すげえええ」「鉄道好きなら超欲しい」と興奮の声
  9. 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  10. 「天才」 グレーとホワイトの毛糸をひたすら編んでいくと…… でっかいあのキャラクター完成に「すごい」「編み図をシェアして」【海外】
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた