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今のギャグ漫画は「テレビを基準にするやり方だとちょっとまずい」――『トマトイプーのリコピン』大石浩二に聞く、「面白かったね」で終わらない方法(1/6 ページ)

「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!」第99回。

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 ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。

 社主おすすめのマンガを紹介している本連載。不定期かつ細々ながら今年で丸6年を迎え、いよいよ100回間近となりました。いつもご愛読ありがとうございます。

 さて、第99回目となる今回は、毎年この時期恒例となった漫画家さんインタビューをお届けします。

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 今回お会いしたのは、少年漫画誌「週刊少年ジャンプ」(集英社)にて2017年から連載開始、現在は漫画アプリ「少年ジャンプ+」に移籍して連載中のギャグ漫画『トマトイプーのリコピン』(~3巻、以下続刊)の作者・大石浩二先生です。


大石浩二先生(左)と社主UK(右)

 前作『いぬまるだしっ』(全11巻)以来約5年ぶりとなる本作は、ひょんなことから不思議の国「キュートピア」に迷い込んでしまった女子中学生・めめちゃんが、トマトの苗から生まれたトイプードルのリコピン、そしてファンシーでキュートな動物の仲間たちと触れ合う物語。その愛らしい表紙に惹きつけられて、手に取った方もきっと多いはず。

 ジャンプ作品としては異色の愛らしい絵柄ながら、連載開始以来、何度もTwitter上で何千何万というリツイートを得て、大きな話題を集めてきた『リコピン』。今回はその生みの親、大石先生に本作ができるまでのいきさつ、隠されていた作品の「裏設定」、リコピンのこれから、そして先生ご自身のことまで、たっぷりと語っていただきました。

「ガンパクリしたようなキャラ」で勝負する

――たぶんこの記事の冒頭で「ファンシーでキュートな物語」とか何とか適当に書いて紹介すると思うんですけど、本当にまんまとだまされました! ファンシーな表紙に惹かれた、いわゆる「ジャケ買い」だったんですけど、いざ読み始めてみたら「なんじゃこりゃ!」っていう(笑)。

  けれど、そこでくじけずしっかり読んでみると、時事ネタを取り入れてギャグに昇華していく先生のスタイルに、自分が作ってる「虚構新聞」に通ずるものを感じて、今回ぜひお話をうかがいたいなと思いました。そもそもどういう経緯で『リコピン』という作品を描こうと思われたんですか?

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 2008年から4年間くらい「週刊少年ジャンプ」で『いぬまるだしっ』という漫画をやってたんですけど、もう週刊ではギャグが続かないってギブアップ気味にやめた感じだったんですよ。『いぬまる』の頃はまだ20代だったんで、若さで続けてた部分があったんですけど、連載中から「次、できるのかな? でも、やらなきゃいけないな」って思ってて。

 しかも連載中にちょうど腰を悪くして作業効率が落ちて、原稿を描く速度が2分の1くらいになっちゃったんですね。だから次は物理的に週刊連載は無理だと思って、漫画というよりはすごく短いページで、今話題になってるニュースを斬ったり、今の世の中ここがおかしいっていうのを突いていったりするコーナー的な企画が面白いんじゃないか、と。

――「コーナー的」っていうのは、どんな感じの企画を考えていたんですか?

 多くて5ページくらいの読み物みたいな感じですかね。でもそれだと「ジャンプ」の読者は読んでくれないので、思いっきりキャラクターに寄せて。サンリオをガンパクリさせてもらった感じのかわいいキャラが毒を吐くような。

――「かわいい毒舌キャラ」といえば、何か某局の番組でそんな感じの……

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 「ねほりんぱほりん」でしたっけ。あれが始まる前から、そういう企画をやろうと思ってたのに、先に始まって悔しかったところがあるんです。

――先を越されてしまったんですね……!

 ただ、想定外だったのは、僕は企画読み物だと考えてたのに、「ジャンプ」からはちゃんとしたギャグ漫画だと思われていて、連載が決まったときは十数ページの普通の週刊連載になってしまったんです。なので、読み切り版『リコピン』の時にはいなかったツッコミ役のめめちゃんを入れて、ボケとツッコミの形式に変えたんです。

ネタが強いギャグ漫画/週刊、という地獄

――キュートピアには「文の泉(センテンス・スプリング)」や、リコピンと仲間たちが通っている「森の友だち学園(森友学園)」とかありますが、こういう時事をいじるタイプのネタがお好きなんですか?

 基本的に「ジャンプ」の漫画っていうのは、キャラクターを見るものなので、キャラ同士の掛け合いとかの方が読者が望んでることではあるんです。僕も本来それをやるべきではあるんですけど、苦手と言うか、それを得意とする人が僕以外にもいっぱいいるんで、僕の得意な方向はちょっと違うかな、と。だから、何かひとつ大きな社会の問題だったり、すごくニッチなところをつつくようなものにしてますね。

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――なるほど。あと、ギャグ漫画の中にも時事に乗っからないタイプがあると思うんですが、そっちでやろうと思ったりは?

 そうですね……、まあいろんなタイプの笑いが好きですけど、最近のギャグ漫画ってキャラクターの属性を普通と違うようにするものが主流だと思うんです。

――「普通と違うようにする」というのは……?

 「○○さんは××」みたいに、特殊な女の子を、普通の人が「この人は変だ」って見るような。

――ああ、確かに最近そういうタイプのコメディ漫画多いですね。「無口」とか「コミュ障」とか「距離感おかしい」とか、そういう感じの女の子が主人公になってる感じの。

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 ただ、そのやり方は僕にはちょっと向いてないなっていうのがあって。読んでても最初は面白いなって思うんだけど、3、4回読むと「もうこのキャラはいいだろう」って、ちょっと飽きてきちゃうところがあるんです。そうするとやっぱり飽きない作品はネタが強い。(『ギャグマンガ日和』の)増田こうすけ先生のような、ネタが強いギャグ漫画は飽きずにずっと読めるので、僕もそっちの方がいいなって。

 ただ、僕も『いぬまる』の時にネタが強いギャグ漫画を週刊でやって地獄を味わったんで、いろいろ考えた結果、5ページが限界だと思ったんです。けど、ふたを開けたら5ページどころじゃなかったっていう。

――ギャグの週刊連載ってそんなにキツいものなんですか……

 単純に体力がキツいですね。原稿が描けなくて。締め切り当日、最後のコマのセリフだけ抜けた状態の原稿を担当が取りに来て、そこから担当が会社に帰るまでにセリフを考えることもありました。思い付かないときは「担当、事故んないかな」って。

――さっき「話題になってるニュースを斬ったり」という話がありましたが、『リコピン』の場合、時事の中でもネットに斬り込んだネタが多いですね。ソシャゲ(第6話「くじとゴリラとやみ」)とかユーチューバー(第17話「ハロー! ユーチューブ」)とか。


ソシャゲ回

ユーチューバー回

 『いぬまる』の時は、逆にネットのネタはほとんど入れてなくて、大半がテレビのネタだったんですよ。『いぬまる』当時って誰か有名人をネタにしても、みんな分かってくれたんです。でも最近はユーチューバーだったり、歌い手や踊り手だったり、若者はネットの方をよく見てて、今テレビで出てる人をネタにしても「誰だよ」ってなっちゃうんです。

 逆にTwitterのトレンドで「○○さんが入籍」っていうのを見て、僕は「誰だよ」って全然知らないけど、実はめちゃくちゃ人気のある人がいっぱいいる。だから、今はそれぞれの人にとって有名人が違う時代になっていて、『リコピン』を始めるあたりから、テレビを基準にする今までのやり方だとちょっとまずいぞって思いましたね。

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