このマンガは「救済と警告のアル中文学」だ 酒飲みが『現実逃避してたらボロボロになった話』(永田カビ)を読んだら(1/4 ページ)
“3人合わせてγ-GTP1000”になるメンバーで同作の感想を話す座談会。
――― 生きづらさ、創作の苦しみから飲酒が止まらなくなり、耐えがたい腹痛から病院に行ったところ、下った診断は「アルコール性急性すい炎」。γ-GTPの数値が1000を超えていた。
※γ-GTP:タンパク質を分解する酵素の一種で、この検査値は肝機能の指標として知られる。「e-ヘルスネット」(厚生労働省)によれば、「一般的なγ-GTP検査値の基準値としては、男性が50IU/l以下、女性が30IU/l以下」
『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』で話題を集めたマンガ家・永田カビ先生。その約3年後の彼女の日々を描いた新作『現実逃避してたらボロボロになった話』がイースト・プレスより刊行されました。
「ねとらぼ」ではレビュー記事を制作する……つもりだったのですが、「こんな壮絶な生き様とγ-GTPを前にしては言葉など無力」という理由から、同作を読んだ編集者を集めた座談会を行うことに。“3人合わせてγ-GTP1000”のメンバーが、9%の缶チューハイ片手にお送りします。
『現実逃避してたらボロボロになった話』プロローグ
現実逃避してたらボロボロになった話
全12話構成で、本記事ではプロローグから第2話までを掲載。各種購入先はイースト・プレスWebサイトからご確認ください
このままだと壊れると思っても飲んでしまう“酒のあらがえなさ”
座談会参加者
- A:γ-GTPの数値が1番高い(3桁)
- B:γ-GTPの数値が2番目に高い(3桁)
- 聞き手:γ-GTPが基準値内
- 3人の健康診断で出たγ-GTP最高値を合計すると約1000になる
――― 今回の座談会では「3人のγ-GTPの数値が合計1000」(最高値)になるように参加者を調整しました。でも、『現実逃避してたらボロボロになった話』によると、永田カビ先生は1人で“ガンマ4桁”の大台に乗ったと。3桁でも基準値オーバーなんですが
B:しかも、お酒を飲み始めて、たった3年でしょ。
――― ちょっと想像がつかない世界ですよね、1000って
A:1000ね。中島らもの小説『今夜、すべてのバーで』の作品の冒頭に「生きてるのが不思議なくらいの数字だよ、γ-GTPが1300だって……いったいどれくらい飲んだんだ」というせりふがある。
酒飲みとしての感想だけど、『現実逃避してたらボロボロになった話』(以下『現実逃避~』)は読んでて怖かったなあ。
B:うん、怖かった。
――― 企画準備で作品のあらすじを見たときも感想が「怖い」の一言でしたね。具体的にはどこが怖いんです?
A:永田カビ先生、すい炎やってるでしょ。
友人に医者がいて、俺の飲み方を知ってるからよく警告されるんだけど、一番ヤバいとクギを刺されてるのがすい炎。作中にもある通り、痛さがハンパないらしいし、すい臓がんのリスクもあるし。そりゃあ、「怖い」って感想になるよね。
B:すい臓の病気は“一撃必殺”みたいなイメージあるからなあ。
※「e-ヘルスネット」(厚生労働省)によれば、「すい臓病の原因としてアルコールの飲みすぎが多くなっています」。また、国立がん研究センターによれば慢性すい炎はすい臓がんのリスク因子の1つ。また、「症状が出にくく、早期の発見は簡単ではありません」とのこと。「一撃必殺」という表現は、こういった事情から出たものと思われる。
それから、健康面以外で言うと、“共感してしまう怖さ”もあったと思う。
さっきの『今夜、すべてのバーで』とか、このあいだ亡くなった吾妻ひでおの『失踪日記』とか、俺は怖くて読んだことがないんだよね。ああいうアル中文学みたいな作品は、酒飲みにとっては未来日記のようなもので、そこには“いつかそうなるかもしれない将来の自分”が描かれているから。
この本は、酒飲みにとっては映画『ジョーカー』のようなものだと思う。
――― 公開されたとき、ネット上では「世の中の虐げられている人がマネしちゃうんじゃないか」「誰もが『ジョーカー』になる可能性があるんだ」という声がありました
B:そうそう。俺はそういう感想は抱かなかったんだけど、『現実逃避~』にはこのままだと壊れると思っても飲んでしまう“酒のあらがえなさ”みたいなものを感じて、「俺も一歩踏み外したら、こういうことになるんだろうな」と容易に想像できてしまった。
「なにをそんなに忘れたいのだ」「……。忘れたよ、そんなことは」
A:小説って最初に、偉人の名言なんかが書かれてることがあるでしょ。「今夜、すべてのバーで」には、こんな古代エジプトの小話が書かれてる。
「なぜそんなに飲むのだ」
「忘れるためさ」
「なにをそんなに忘れたいのだ」
「……。忘れたよ、そんなことは」
B:真理だと思うわ(笑)。
A:酒を飲む理由の1つに「現実を忘れる/マヒすること」があると思うんだよね。
こういうのって“酒飲みあるある”なのかな。「病気が怖いからいろいろ調べるけど、あまりにも怖いから調べるときに飲酒してしまう」。
B:ちょっと違うけど、作中にあった「医者から酒の怖さについて聞いて、その帰りに焼酎を買う」シーンは分かるなあ、と思った。
そんなに怖い話を聞かされたらモンモンと考えちゃうし、飲んで忘れようってなるんだよ。「今日はもう頑張った。あとは明日の自分が頑張れ」みたいな。
A:俺が酒で一番恐れているのは、連続飲酒状態になっちゃうこと。そうなると夜中まで飲んだ後、また朝から飲んで……みたいな感じで酒の切れ目がなくなる。むしろ酔っていることが当たり前で、シラフでいることのほうが例外的になってしまう。
中国古典「胡蝶の夢」で、夢と現実の区別がつかなくなった主人公が「本当の俺は蝶で、人間になった夢を見ているだけではないか」と思うように、酔ってる世界と酔ってない世界のどちらがリアルなのか分からなくなってしまうんじゃないか、って思うと怖い。
B:迎え酒を覚えるかどうかが、連続飲酒の1つの“壁”だと思うわ。
俺はまだそこは越えてないけど、たまに不可抗力でやってしまうことがある。夜中まで飲んだ翌日に、早い時間から飲みの予定があって、「うわ、ダメだ」って思いながらも乾杯。チビチビ飲んでたら調子出てきて、夕方くらいになったら「今日も夜中までいっちゃう?」みたいな。
――― 迎え酒したことないんですが、そういう感じなんですね
B:俺は普通にツラいから、迎え酒っていうわりに全くウエルカムではない印象(笑)。「気持ち悪いから寝る」とか「水を飲んでゆっくりする」とかのほうが自然だと思う。でも、酒好きとしては「かんぱーい!」って言われると断れない。
A:俺は迎え酒しようとすればできちゃうタイプだと思うんだけど、出社前に1杯とかは“壁”が崩れるから絶対にやらないようにしてる。永田カビ先生はフリーランスみたいだけど、会社みたいな“禁酒装置”があったら、あそこまで飲まなかったんじゃないかなあと思った。
B:永田カビ先生は「酒を飲んだ罪悪感を忘れるために酒を飲む」ループに入っていたんじゃないかと思うんだよね。どうしても酒浸りになってしまうなら、就職したらいいんだよ。外界とつながった方がいい。
――― 面接で落とされそうですけどね。「酒をやめたいので、ここで働かせてください」って志望動機
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