【レポ漫画】外国人漫画家が日本でデビューする難易度が高かった話(2/2 ページ)
テラスハウスやスピリッツで活躍するペッペさんと担当編集の豆野さんに取材しました。
難易度は一番高い? 日本で漫画を描く理由
――ペッペさんはスピリッツに何度も持ち込んだ末のデビューでした。そもそもなぜスピリッツだったんですか?
ペッペ: 2013年のルッカコミックス&ゲームスで花沢健吾先生に会ったんです。当時『アイアムアヒーロー』が大好きで、絵を描いて渡しにいったら「僕よりうまい」と喜んでくれて(笑)。「そんなことないです、ありがとうございます」と一緒に写真撮って、サインもらいました。あとで調べたらスピリッツで連載している。それに尊敬している松本大洋先生もスピリッツだったと知って、「じゃあ私もスピリッツでいこうかな」と。絵のタッチが独特でも許してくれる。
【ルッカコミックス&ゲームス】コミックマーケットに次ぐ規模の漫画とゲームの祭典。イタリアのトスカーナ州ルッカで毎年10月末に開催されている。
豆野: 松本大洋作品を読んだのは何歳くらい?
ペッペ: めちゃ遅かった。ベネチア大学入ってから。青年誌の漫画は大学以降。
――日本語はいつ学んだんですか。
ペッペ: 大学であいうえおからやって。高校まではゼロ。日本語専攻で3年間勉強したら読み書きはそれなりにできるようになったけど、日本に来るまでは全然喋れなかった。
――漫画が好きで日本語を習いはじめたと。
ペッペ: そうそう。高校出たあと「直接日本に行く」「大学で勉強する」の2つルートがあって、いきなり日本に行くのはやりすぎかな……と。大学行けば卒業証書もらえるから、もし漫画が描けなくたっても、とりあえず日本関係の仕事できそうだと思って。
――日本で漫画を描くことにしたのはどうしてですか?
ペッペ: イタリアは漫画だとちゃんとした生活ができないから。読者が少ないので漫画家だけではまず食べられない。日本みたいに持ち込みもできない。出版社に電話しても「誰? 誰の友達?」となる。繋がりが一番大事だから、才能がある人にもチャンスがほとんどない。イタリアで漫画描きたい人は、大体アメリカかフランスに行く。アメリカはマーベルとDC、それにディズニーがある。アメリカだとスーパーヒーロー描くことになるし、フランス語はしゃべれない。だから日本にした。難易度は一番高いかもしれないけど(笑)。
ペッペは頑張る。ガッツがある
――初めて日本で持ち込みしたのはいつ?
ペッペ: 大学時代の最後。実は短期留学していた。「3カ月日本語学校に通ってテストに合格すると大学も卒業できる」コースがあって、神楽坂のおばあちゃん家にホームステイして、渋谷の学校に通っていた。その頃に読切描いて持っていった。全然つまらない漫画。日本語もうまくなかったし、それでスピリッツ編集部の金城さんに初めて見てもらって。金城さんが漫画読んでばーって意見言うじゃん。それ聞いて「やべえ……わっかんねえ。なに言ってんだ」と50%くらいしか理解できなかった。残り50%は「かわいいなぁ……」と思って。
――金城さん綺麗ですからね。
ペッペ: かわいいねぇ。すごく優しかった。読み終わったら「賞に出しますか?」と言われて「賞? 私、再来週くらいにイタリア帰るよ、まだ大学通ってるから」「そっか。じゃあなんで持ち込んだの?」「経験してみたくて」「あーじゃあ大丈夫大丈夫。また日本に来たらよろしくね」と。
【金城さん】スピリッツ編集部所属。担当作に『アイアムアヒーロー』(花沢健吾)、『プリンセスメゾン』(池辺葵)、『あげくの果てのカノン』(米代恭)、『恋と国会』(西炯子)、『サターンリターン』(鳥飼茜)など。
――とりあえず持ち込みを経験できた(笑)。
ペッペ: それで大学を卒業して2カ月後、2015年1月に日本に来た。最初の1年間は夢よりお金とビザが大変で……。お金がないと何も食べられないし、ビザがないと日本にいられない。しばらく漫画は描けなくて、モデルの仕事をして貯金した。ビザはモデルの事務所が手続きしてくれて、準備が整ってからまた持ち込んだ。
――新天地で新作を描くことは大変でした?
ペッペ: 全然。すごくラッキーだったよ。モデル生活で自由な時間多くて、新しい経験も出きたからアイデアもいっぱいあった。どの漫画を描こうかなって悩むくらい。
――『ミンゴ』はどんな経緯で?
ペッペ: 金城さんに持ち込んでダメ出しされながらモデルの経験をもとにした『モデル物語』で1万円の賞を獲って、次に高橋さんが担当に付いて、初めての彼女の漫画『初恋』で5万円の賞獲った。そのあと豆野さんと『ミンゴ』を描いた。
【高橋さん】元スピリッツ編集部、現スペリオール編集部所属。担当作に『バイ・スプリング』(ゆずき暎、林マキ)、『フットボールネーション』(大武ユキ、科学指導:高岡英夫)など。
――豆野さんは担当になってどうでした?
豆野: 会う前はカッコつけたタイプかなと思っていて。作家の本音をみつけてぶつけないと漫画は面白くならないんだけど、我が強くて自分をさらけ出せなかったら厳しいなと。でも、実際に会って何度かやってみると、毎週ネームを持ってくるし、指摘もちゃんと反映してくる。ペッペは頑張るんですよ(笑)。ガッツがある。
ペッペ: 豆野さんはいろんな漫画を目の前で読んでくれて、すごく助かった。
豆野: 横で朗読しながら説明するんです。「このシーンこの場でこうこうでめくりでドンなんだよ」と(笑)。漫画家と編集者の関係は共通言語がないと難しいから、「最低限この作品は読んでいて」とお互いシェアしなければいけない。
――勧められて良かった作品は。
ペッペ: 全部。この漫画の「ここを読んでほしい」「このシーンを知ってほしい」というのが何度もあって勉強になった。
――晴れてスピリッツで連載するようになってどんな気持ちですか。
ペッペ: やばいよ、超うれしいよ。浦沢直樹先生と同じタイミングで載っている!! 『ミンゴ』3話なんて、浅野いにお先生のマンガが終わった次のページで始まって……ええ!? やべえ!!!
豆野: 浅野先生の事務所遊びに行ったもんね。真鍋さんと一緒に飲んだり。
ペッペ: 浅野先生からは良いことを言われた。「初回が雑誌に載ってて感動するのは5分だけだよ。そのあと次の話考えなきゃいけないから。感動はすぐなくなる」――その通りだった。
テラスハウスに出演して気付いたこと
前担当・高橋: ひさしぶり~(急遽登場)。
ペッペ: すごい覚えてる!
豆野: 今インタビューやってて、ちょうど苦労話を。高橋はどれくらい担当してたの?
高橋: 数カ月ですかね。ペッペの初めての彼女の話を新人賞に出したあたりで引き継いで。
――最近のペッペの活躍はどう見ていますか?
高橋: テラスハウスはすごく自然体で、僕と話しているときと全然変わらない(笑)。『ミンゴ』は作風が変わっていて「こういうのも描けるんだ」とびっくりしました。『初恋』はクールな恋愛ものだったから。
――テラスハウスに出演して変わったことはありますか?
ペッペ: 時間かな。みんなから「週刊連載しながら番組出るなんて大変じゃない?」と言われる。実際すごく大変であまり寝てないから、放送見て「え、私こんなにフレッシュな顔していた? めっちゃ疲れてたけど」と驚く。愛華と海行ったときは本当に大変だった。その前に原稿スケジュールもらって、やべえ、44ページ再来週までに描く!? 海行ってる時間なんてない! でも「行きましょう~」と誘われて。海では実は「早く漫画描かなきゃ……」って思っていた。
【愛華】テラスハウスの出演メンバーである水越愛華さん。大学4年生。将来の夢は客室乗務員。番組内ではペッペと海に行ったり、バスケの田渡凌選手と銀座の寿司屋へ行ったりする。
――すさまじい。
ペッペ: でも、こんなチャンスなんてない。デビュー前にこんなプロモーションしてもらえるなんて、すごくラッキーで、ありがたい。だから、絶対諦めない、絶対のんびりしない、絶対100%燃やす。「大変だけど同時に大変じゃない」、これはテラスハウス出てから気付いた。それにこれができるなら、次はもう何でもできる。モデルしながら漫画描くとか当たり前。自分が強くなれたのはうれしい。
カエルDXとの会話(おまけ)
カエルDX: 漫画描くソフトは何使ってます?
ペッペ: クリスタEXです。
カエルDX: やっぱクリスタなんですね。仕事のスケジュールはどんな感じですか?
ペッペ: 大体、火曜日が締め切りで、水曜日に取材に行く。そこでちょっと休みながら次の話を考える。木曜日はアシスタントが始まるから準備をして、金曜日から月曜日までずっと描く。火曜日に提出してOKだったらちょっと休む。それで水曜取材して――。
カエルDX: すごい、僕には無理だ。
豆野: 働き者だよね。イタリア人がこんな勤勉だとは! 「第2部:イタリア人がみんなサボるとは思うなよ」で『アフロ田中』みたいにシリーズ化しよう(笑)。
【アフロ田中】のりつけ雅春先生の漫画シリーズ。2002年からスピリッツで連載中。アフロヘアーである主人公・田中の状況に応じて「高校」「中退」「状況」「さすらい」「しあわせ」「結婚」とタイトル変更しつつ進行中。
カエルDX: 秋葉原ってどうですか?
ペッペ: 初めて行ったときはそんなに驚かなかった。すごいなと思ったのは最近。去年ポケモンカードにハマってて、カードを買うためにそういう店を調べた。
カエルDX: 「サン・ムーン」が流行ってたときですよね。カプ・テテフが強かった。
ペッペ: そうそう。で、調べたら秋葉原で店いっぱい出てきて、ある日暇だったから全部回ろうと思って1軒目行ったら、「やばいなアキバ、こんなとこあるんだ……」と。微妙なマッサージ店の隣に濃い場所があって。
カエルDX: 秋葉原、深いですよね。好きなアニメは?
ペッペ: 「HUNTER×HUNTER」。
カエルDX: アニメが作りたいとはならなかったんですか。
ペッペ: 作りたいよ! 私はなんでもやりたい。でもアニメは大変。本当に絵がうまい人じゃないと。
カエルDX: モチベーションの塊ですね。
(カエルDX)
(C)ペッペ/小学館
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